文化祭〜其の捌・残滓
記憶にない、記憶。心はどこに刻まれているのだろう。
覚えていなくても、気がつかなくても、それに左右されることがある。
だから、それは、記憶になくても、大きな存在なのかもしれない。
※この回も大きな展開はありませんが、これからへの布石になりそうな回です。
「そう言えばさ、ずっと、気になってたんだけど。」
みんな、そろそろお腹が満ちてきた頃、希良が思い出したように話し出した。
「みずきが、オレたちに見せてくれなかったスマホの中身、なんなの?」
「え?」
ヤバい。それ、すっかり忘れてた。希良、まだ覚えてたのか。
「あ!そうだよ。それ!オレも気になってた。
みずきがあんな風に隠すこと、なかなかないよな?」
輝も、思い出したらしく、オレに顔を寄せてくる。
「いや、あれは…。」
「なんだよ、そんなヤバいもの?」
なんとか、ごまかそうとしているオレに、いち兄がからかうように、追い込んでくる。
「何?みー助、ヤバいヤツって?あ、ここじゃ、おかあがいるから、ダメな感じか?まぁ、高二男子だもんな。」
今度は、たく兄に違うヤバい方向に話を向けられて、オレはますます、焦る。
「いや、そんなんじゃなくて。」
「えー?そんなんて、何?みーくん?」
更に面白そうに、慧さんがオレを見る。
「兄ちゃん、からかうなよ。」
輝が慧さんに突っかかる。
「おや?なんだよ、かがや、急にみーくんの味方か?」
その様子に、今度は慧さんは輝をからかいにかかった。
「だから、みーくんとか呼ぶなって。
それに、急にじゃなくて、オレは、いつでも、みずきの味方なんだよ。」
「じゃ、お前はみーくんのスマホのヤツ、見たくないんだな?」
「いや、それは…見たいけど。」
「矛盾したヤツだなぁ。」
慧さんが面白そうに言って、輝がはっきりとムッとした顔をした。
「いや、あれは!オレの変顔ばっか写したヤツだったから…。」
苦し紛れに、オレはそんなことを言ったんだけど。
「みずきの変顔?」
「それ、誰が撮ったヤツ?」
希良と輝が、オレの気持ちを見透かしたようにつっこんでくる。
「あー、えっと、石川?」
石川、ごめん、と思いながら、さっき話題になったヤツの名前を出す。
「ふーん。」
輝がそう言って、納得したのか?と、収まってくれるかと思ったんだけど。
「あれ?でも、目黒が預かってなかった?
あの時、ほら、3人の撮影会みたいになった時。
でさ、休憩入る前に、みずきに返してたよな?スマホ。」
そうだった。希良は記憶力がいいんだ。
でも、なんでそんなことまで、覚えているんだよ。
オレはもう、逃げ場が無くなったと、感じた。
「目黒は、みずきの変顔なんて、撮らないよな?」
希良が、全てお見通しだ、とでも言いたそうに、オレの顔を見てきた。
「目黒さんか…ってことは、きらのヤバいアップとか、きらとみずきの、ヤバめな2ショットとか?」
輝もなるほどな、と納得した感じで、オレを見てくる。
「みー、もう、詰んだな。諦めて見せてみろ。
ヤバいヤツかどうか、兄ちゃんが見てやる。」
いち兄にそう言われて、オレはもう観念して、ため息をつきながら、ポケットからスマホを出して…ロックを解除すると、カメラロールを開いて、テーブルの上に置いた。
それに、いち兄が手を伸ばし、みんなが、椅子から立ち上がって、覗き込んだ。
「え?何?これ?」
で、何枚か送ったところで、まず、希良が驚いた声を上げた。
「なんだよ、これ、どうやって撮ったんだ?」
輝も同じく、驚いてる。だろうな、そりゃ、と、オレは見なくても、呆れてる。
「うわー、すごいな。ブロマイドじゃん。」
「いや、雑誌のグラビアだな。こっちのなんて、ほら。」
たく兄と慧さんは、感心したような、半ば呆れたような声を出しながら、スマホを指差している。
ほら、じゃないし。
みんなが散々、あーだこーだ言いながら見ている間、オレは、さっさとウチのPCに転送して、削除しなかった自分の鈍臭さを呪った。
いや、希良と輝はいいんだよ。ちゃんとカッコいいんだから。
問題は…オレも同じように、グラビアみたいに撮られてることだった。それなのに。
「え、何この、このみずき、ヤバ!可愛い!」
いきなり、輝が声を上げた。
「うわ、何それ、恥ず!」
みんなの後ろから覗いていたオレは、悲鳴を上げて、スマホを取り上げようとして、寸手のところでいち兄に、取られてしまった。
それは、オレがなんだかくすぐったそうな笑顔で、右の方(輝の方)を見ている1枚と、同じように左の方(希良の方)を見ている1枚、2枚とも、上半身アップの写真だった。
多分、撮影中に輝と希良の両方からツツかれたか、くすぐられて、思わず出た表情だったと思う。
「目黒、恐るべし、だな。あいつ、法律家なんかじゃなくて、グラビアカメラマンになるべきかも。」
その言葉に、オレ以外の全員が頷いて、いち兄がスマホをいじり始めた。
「よし、これは全員に転送だな。伯母さんとまち達にも送ってやろ。」
「あら、そんなに可愛いなら、お母さんにも送ってよ。」
叔母さんまでが、そんなことを言い出して、オレが、勘弁してくれ、と思った、次の瞬間。
「ダメだ!これはダメ!」
すごい勢いで、輝がいち兄の手から、オレのスマホを取り上げてしまった。
「なんだよ、かがや!お前だけのみーくんじゃないだろ!」
慧さんがからかうように輝に迫って、スマホを取り返そうとした。
「みずきは、オレだけのみずきなんだよ!」
勢い、っていうか、売り言葉に買い言葉?だったんだと思うけど、その輝の一言で、全員が黙った。
「あー、そっか。そういうこと。」
慧さんが面白そうに頷きながら引き下がって、みんな、それで終わりになると思った。でも。
「いや、違うだろ!」
今度は希良が、輝に迫った。
「みずきは、オレのみずきでもあるんだよ!」
ちょっとの間、2人が睨み合いみたいになった。
兄ちゃんたちは誰も、何も言わない。
やれやれ。オレはそんな風に思って、2人の間に割って入った。
「かがや、スマホ、返して。きら、下がって。
2人とも、何言ってんの?いい加減にしろよ。」
オレは、ホントはそんな、怒ってるわけじゃなかったんだけど、色々、熱くなっている2人と、その場を冷やすために、かなりキツめに言った。
「あ、ごめん。」
輝がシュンとなって、スマホを差し出した。
「ごめん、みずき。」
希良もしょんぼりして、自分の席に戻った。
「兄ちゃんたちも、いい加減にしてよね。
こんなんなるなら、やっぱりこれ、見せなきゃ良かった。
これは、封印!これ以上騒ぐなら、削除する!」
オレがそんな風に言うと、兄ちゃんたちも、ちょっと反省したようで。
「悪かった、みー。でも、その写真、他のも、消すなんて言うなよ。」
いち兄が申し訳なさそうに言って、オレが憮然として、何か言い返そうとした時だった。
「みーちゃん、相変わらず、写真、嫌いなのね。」
急に、叔母さんにそう言われて、オレは驚いた。
「え?いや別に、写真が嫌いってわけじゃないけど。」
「そうなの?でも昔から、みんなで写真撮ろうって言うと、自分はいいって言って、写ろうとしなかったわよね。」
「そう言えば、そんなこと、あったな。みー、チビの頃から、そうだった。」
いち兄も思い出したようにそう言って、たく兄も、あった、あったって頷いていた。
「それ、今も同じじゃない?みずき、いっつも、オレたちと写真撮って、すごく可愛く撮れてても、必ず『オレがいない方が良くない?』って言うじゃん。」
希良が、なんか気に入らないんだよな、という感じで、そんなことを言う。
「あー、ホント、それ、いつも言ってる。
今日も3人で並んで撮影会って、目黒さんに言われた時も、そう言ってたよな。口ぐせ?」
輝も希良に同意する。
「え?そう?そっか…確かに言ってる。今日も言った。
なんでだろ?写真が嫌いとか、意識したことないんだけどな。」
オレは首を傾げる。
「でも、みーちゃん、こんなにみんながその写真、可愛いって言って、欲しいって言ってるのに、そんなに嫌わないであげて。自分のこと。」
叔母さんに言われた言葉が、なんか胸に刺さる。
「とりあえず、みーちゃんのお母さんには、送ってあげたいんだけど。
以知、ハルさんに送ってあげて。
良いわよね?みーちゃん。」
オレは何も言わずに、頷くと、いち兄にスマホを手渡した。
いち兄がオレのスマホから母親に、
『以知です。みーが送りたがらないから、代わりに送ります。オレたちのイチ押しの写真です。』
と、メッセージを添えて、さっきの2枚を送った。
すると。
送ったのは母親宛てだったのに、ほぼほぼ秒で、まち姉から、いち兄のスマホに電話がかかってきた。
「あー、まち?うん、そう。ん?今?ここにいるよ。
そう、まぁね、その通りです。
ウチのおかあがね、ちょっと説得して。
代わる?モニターにする?オケ。」
しばらく話してから、いち兄が電話をモニターにした。
「叔母さん?まちです。色々、ありがとうございます。お世話になって。みー?いる?」
「うん、まち姉、いるよ。写真、見た?お母さんも見てくれた?」
「見たわよ。すごい良い写真で、お母さん泣きそうよ。
これ、誰が撮ってくれたの?」
「えっと、クラスメイトの目黒さんっていう、ほら、姉ちゃんたちが来た時に、列に入れてくれた、アスカのコスプレしてた…。」
「ああ!あのテキパキした、感じの良い子ね?」
「うん、そう。あの後の撮影会を仕切ってて、その時にオレのスマホ、預けてたら、大変な事になっちゃって。」
「大変なこと?」
「あー、うん。えっと…」
オレが口ごもると、待ち構えてた慧さんが割り込んできた。
「まちちゃん?慧です。さっきみたいな写真がたくさん、みーくんときらくんと、ウチのかがやの3人分?みーくんのスマホに入っててね。なかなか見応えあって。
でも、みーくんがそれを消すって言うからさ、みんなで大騒ぎしてたとこ。」
「え?慧くん、それ、やめさせてくれたよね?
みー、そんなことしたら、お母さん、泣くからね!」
もう、オレは何も言えずに、さらに黙りこんでしまった。
「まち姉?大丈夫だよ。オレときらで、絶対、そんなことさせないから!」
「そうそう!大丈夫!心配しないで。な、みずき?」
輝と希良がいつの間にか、オレの両脇に立って、腕を組むと、交代でまち姉に声をかけていた。
「う、うん。まぁ。」
なんか、そんなことになって、まち姉は納得して、電話を切った。
「てか、かがや、お前の方こそ、なんだよ、まち姉とか?馴れ馴れしいんだよ。やめろよな。」
「はぁ?自分が相手にされないからって、オレに当たるなよな。」
「もー、やめなよ、かがや。」
オレと希良が2人の間に入って、宥めた。
この兄弟、いつもはホントに仲が良いのに、お互いの好きな人のことになると、どうも大人気なくなるようだ。
(ん?好きな人?あ…そうか。)
自分で思った事に、自分で照れてしまったオレは、みんなから離れて、トイレに行く振りでリビングから出た。
玄関の上り框に腰を下ろして、ちょっと頭を抱えてため息をついた。
写真か…。全然意識したことなかった。
でも、確かに、自分が写っている写真が嫌だって思うこと、良くある。理由もなく。
(なんかオレ、めっちゃ、面倒くさいヤツじゃん…。)
色々、記憶が混乱してたり、体調のこととか、その上、こういうの、最近、マジで嫌になる。
「もーなんなんだよ。」
「何が?」
「?!」
急に声をかけられて、振り向くと、希良が立っていた。
「あ、きら。聞こえた?」
「うん。ごめん、聞こえた。どうした?気分、悪い?」
心配そうな顔で近づいてきて、隣に腰を下ろした。そこそこ広いとはいえ、玄関先で、体を寄せ合うみたいになった。
「いや、大丈夫。ちょっとね、自己嫌悪。」
「えー?なんで?今日はあんなにすごかったのに?」
「ありがと。んーでも、やっぱりオレ、自分で自分が面倒でさ。色々と。わけわかんなくて。」
「そか。それは、ちょっと、ツラいよな。」
希良が、いつものように、ゆっくり、オレの首から背中を撫でてくれた。
「きらにも、かがやにも、迷惑ばっかりかけてるし。今日も、さっきも。ごめんな。」
「それは、ナシだよ。そう言われても、オレもかがやも嬉しくないし。」
その言葉に思わず笑ってしまう。
「何?」
「いや、かがやにも、さっき学校で同じこと、言われたから。」
「あ、やっぱり?」
「うん。」
今度は希良が笑った。ホントに可愛い、オレが好きな、キラキラの笑顔だ。
オレもそれに応えて、精一杯の笑顔を返した。
その時、リビングから、お茶が入ったと声がかかって、2人揃って「はーい」と返事をして。
その子供っぽさに笑いながら、立ち上がって、みんなの中に戻って行った。
文化祭編になってから、急に存在が大きくなってきた、目黒さん。最初の方で間違って「目白さん」と書かれていることもあるくらい、モプなキャラのはずだったんですが、いつのまにか、キーキャラに育ってしまいました。
これからますます、3人の関係にとって、大きな動きをします。
※本日、台風対策休暇を取っている関係で、変則的投稿、失礼いたします。




