文化祭〜其の漆・祭りのあとに
祭りが終わっても、何か終わらないものがある。それは、そのまま残ったり、残らなかったり、するけれど。
残していきたいと思ったものは、きっと残り続ける。
※大きな進展はありません。ただわちゃわちゃしている回です。
「あ、たく兄?今、どこ?そっか。
あ、ううん、ちょっとみずきが疲れちゃったみたいで。今、寝てて。うん、そう。え?あ、大丈夫。待ってる。うん、ごめんね、ありがと。はい。じゃあ後で。」
希良の声で目が覚めた。オレはホントに寝てしまったらしい。
「なんだって?たく兄。」
「ん、今からバイト上がるから、待ってろって。車で来てくれるって。」
「え?あれからバイト行ったのか?タフだなぁ。」
「だな。」
2人の会話で、希良が連絡して、たく兄が迎えに来てくれるらしいことがわかった。
「あ、ごめん、オレ、寝てた?」
「お?起きたか?大丈夫?」
「うん。ってか、クラスの片付け、行かないと!」
慌てて起き上がろうとしたオレを、両脇から手が伸びて、また座らせた。
「大丈夫。さっき、オレが一度戻って、みんなと、あと目黒に、謝って来た。
目黒、みずきの体調のことまで知ってたんだな。気にしないでゆっくり休むようにって言われたよ。
で、ガンダムは一旦、校長室預かりになるって。」
最後の方は笑いをこらえながら、希良が言った。
「え?何それ、ガチで?」
「うん、ガチ。石川たちが運んでくれてた。」
「みずき、残念ながら、ガンダムはもうお前の手の届かないところに行っちゃったんだよ。」
輝も、おかしそうに、オレをからかって笑った。
「もー、かがや!」
オレが怒ると、さらにおかしそうに笑った。
「あ、で、聞こえてたかも知れないけど、これから、たく兄が迎えに来てくれるから、そしたら、帰ろう。
今日は一日、頑張り過ぎたよ、みずき。オレらも、な。」
希良も、おかしくて仕方ないって感じをこらえながら、そう言ってくれた。
それから少しして、たく兄から連絡が来て、オレたちは昨日と同じ、職員用のパーキングに降りて行った。
途中通り過ぎた校内は、祭りの後、といった感じで、時間まで片付けて、残りは来週、と残された装飾がなんか寂しかった。
「終わったなぁ。」
独り言で呟いたつもりだったんだけど、2人もそう思ったのか、両側から肩を抱かれた。
「今度は、修学旅行だな。」
「その前に中間、あるけどな。」
「うわ、それは言うなよ、かがや。」
オレの言葉に2人が声を上げて笑って。
そうやって笑いながら、オレは何かまた一つ、乗り越えたような、そんな気持ちだった。
「おう、お待たせ。どうした?疲れたか?」
「たく兄!ごめんね、バイトの後でたく兄も疲れてるのに。」
車から降りて、オレたちを待っていてくれたたく兄に、そう言って、ちょっと申し訳ない顔をした。
「ん?ぜんぜん、アニキじゃなくて、オレを呼んでくれて嬉しいし。
でも、みー助、そんなひどい顔してないな。
今日は大変だったみたいだけど、良い一日だったんだな、どうやら。」
そう言われて、3人揃って笑って頷いた。
車に乗ってから、オレたちは代わる代わる、午後から後夜祭までのことをたく兄に話して聞かせた。
「それで、結局、オレもステージに上がることになってさー。
大騒ぎだったんだよ。」
「へーそれは見たかったな。
3位でも4位でもなくて、5位ってのがまた、みー助らしいっていうか。
それ、写真、手に入ったら、見せて。」
たく兄に笑われて、確かにな、と変に納得してしまう。
「写真なら、もう山ほど送られてきてるよ。
石川、アイツなんだってくらい、撮ってるんだけど。」
希良がスマホを見ながら笑う。
「そうそう、アイツ、すげ〜よな。
修学旅行、一緒の班だけど、大丈夫か?」
「あ、修学旅行の班って、そうなったんだ?」
「あ、そう。3人から5人って言われて、2人でどうしようかって思ってたら、石川たちが、すぐに声かけてくれて。
ヤツら宮﨑たちと6人だったから、ちょうど良いって。」
「かがやは?誰と一緒?」
「うん、青木と坂本。2人が声かけてくれて、オレも助かった。」
希良がそんな風に輝に話してるのを、オレはちょっと複雑な気持ちで見ていた。
宮﨑から聞かされた、ヤツの気持ちを思うと、同じ3人なら、宮﨑たちと一緒でも良かったのに、と思わずにいられなかった。
でも、それはオレから言ったんじゃ不自然だし、石川たちにも悪いし…どうにもならないことだった。
「そういや、お前ら、腹減ってない?
そこらでラーメンでも食うか?それとも、ウチ来る?」
たく兄にそう言われて、気がつくと、3人とも腹ペコだった。
「え、ラーメンでいいよな?」
「そうだよ。そんな急に行ったら、悪いよ、叔母さん大変じゃん。」
「うん、そうそう。」
希良とオレに続いて、輝が頷く。
「甘いな、みー助、お前、まだわかってなかったか。ほら、ウチに電話してみ。モニターにしてな。」
いや、いくら叔母さんでもこんないきなりは…と思いつつ、たく兄に言われた通り、モニターにして、電話をかけた。
「もしもし?みーちゃん?どうしたの?」
ほとんどワンコールで叔母さんに繋がった。
「叔母さん?みずきです。さっきはありがとう。えっと、今、たく兄の車で送ってもらってて。」
「代われ、みー助。」
「あ、たく兄に代わるね。」
「あ、おかあ?オレ。今さ、文化祭帰りの腹ペコ高校生を3人乗せてて。ラーメン屋でも寄るかって言ってたんだけどさ。」
「何バカなこと言ってるの、たくみ。そんな、ラーメン屋さんなんて行かないで、ウチに連れてらっしゃい!
今、以知たちもご飯食べてるところだから。いいわね!」
たく兄の話しは最後まで聞いてもらえず、あっという間に、通話が終わった。
「わかったか。みー助。ウチの母親の恐ろしさを。」
「うん、恐れ入りました。でも叔母さん、いち兄たち、って言ってたけど?」
「あー、誰かいるのかもな。オレや兄ちゃんの友だちには、我が家は合宿所って呼ばれてたからな。」
あ、やっぱり?とオレは納得してしまったんだけど。
「なんか、嫌な予感がする。」
それまで黙っていた輝が、ボソッと呟いた。
そして、その予感は当たってしまう。
「兄ちゃんの車じゃん…。」
叔母さんのところに着いた瞬間、輝が何故か、がっくりと肩を落とした。
そう、家の前に停めてある車は間違いなく、輝のお兄さん、慧さんの車だった。
「なんだよ、かがや、何そんな、がっかりしてんの?」
先に車を降りた希良が、笑いながら輝を引っ張り出す。
「アイツ、めんどーなんだよ。みずきのこと、構いたがるし。」
「え?そうなの?仲良いじゃん、いつもは。
てか、オレのこと?そんなことなくない?」
確かに会った時はいつも、何かとオレのことを構ってくるけど、そんなに気にするほどのことか?
「あー、でもわかる。慧さん、絶妙に、輝の気に障るところをいじってくるんだよな。」
希良の言葉に、輝はがっくりと頷く。
「そう!そうなんだよ。しかも、兄ちゃんいるってことは、オレ一緒に帰ることになるだろ?あ、みずき、きらも!一緒にこの車で帰ろ?」
「あー、イヤ、まぁ、それでも良いけど。」
そんなことを言い合いながら、たく兄に付いて家の中に入ると、リビングから賑やかな笑い声が聞こえてきた。
その中に、聞き慣れたものがあったんだろう。輝がさらにがっくり、肩を落とした。
「あ、そう言えばさ。かがやは慧さんとまち姉のことって、知ってる?」
「え?何それ?」
輝より先に、希良が反応してきた。
「ああ、兄ちゃんが、まち姉に振られ続けてる問題?」
輝が、らしくない、投げやりな言い方で、そんなことを言った。
「どう言うこと?」
「あー、きら、これはここだけの話な。
ってか、そんな認識?保里兄弟的には?」
「だな。オレも、里沙子姉も、挫折知らずで、ウチではオレ様な兄ちゃんが何度も振られてるのが、面白くて仕方ない。
何、樺沢さんちでは違うの?」
うーむ、と、オレは考え込んだ。
何度も振られてる?聞いた話と違うんだけど。
「オレ、実は昨日の帰りにこの事知って。ちい姉の話しじゃ、まち姉も慧さんのこと、嫌いじゃないと思うって…。オレも見ててそんな気、してたんだけど。」
「うわ、マジか?ヤバ、その話、聞かなかったことにするから。みずき、きらも、ここで終わりな。」
えーなんだよ、つまんないなぁ、と言いながら、希良が先に奥に入って行った。
それに続こうとした時、輝に後ろから腕を引かれて、バランスを崩したオレは輝の胸の中に倒れ込んだ。
「オレ、この前、兄ちゃんに言ってやったんだ。まち姉が兄ちゃんの恋人になるより、みずきがオレの恋人になる方が早いよって。」
聞いたことのない、甘い声が耳の奥をくすぐってくる。
「え?あ?な、何?こい?恋人?」
突然、耳元でそんなことを言われて、オレは軽くパニックを起こした。
「まぁ、そのうち、な?」
耳にちゅっと音を立てて、キスをするといつもの、イタズラっぽい笑顔を残して、輝も先に行ってしまった。
な、何?今の?
あんなキレイな顔で、そんなこと言われて、オレはどうすればいいんだ。
確かに、好きだって言われた。
オレも好きだって答えた。
でも、恋人って、何?
もう、何が何だかわからなくなって…、はぁ、と大きくため息をついて、考えるのをやめた。
2人に遅れて、オレが部屋に入って行くと、
「お、きたきた!みー!今日の主役〜!」
いち兄が立ち上がって、オレを呼んだ。
「お疲れ、みーくん。今日はすごかったな。オレ、惚れ直したよ。こっち、ほらここきて。」
酔ってる訳じゃないはずなのに、謎のハイテンションで、いち兄と慧さんがオレの手を引いて、半ば無理矢理、間に座らせた。
「兄ちゃん、なに勝手に惚れ直してんだよ。
メイワクだろ。みずき、そんなとこ行かないで。こっち来て!」
慧さんは多分、いつもの調子なんだと思うけど、今日は、輝が妙に絡んでる。
「なんだよ、かがや。お前、今日ずっと一緒だったんだろ?ちょっと離れてろよ。」
「ずっと一緒じゃねーよ。オレはクラス違うんだから。
もー、みずき〜!きらも、呼んで!」
「かがや、どうした?落ち着けよ。
なんかウケるんだけど。」
そう言われても、オレはなんか動くに動けなかったし、希良も、いつもと様子が違う輝のことを、面白そうに笑ってるだけだった。
「ほらほら、兄弟ケンカしない。
ご飯は大盛りでいいのね?2人とも。
みーちゃんは?何が食べられそう?」
叔母さんが輝たちに割って入って、あっという間に事を鎮めてしまう。さすがだ。
「あ、ご飯は普通で、あと、スープがあれば。お腹空いてて。」
オレの言葉に叔母さんが嬉しそうに笑って、ご飯とスープを持ってきてくれた。
『いただきます!』
たく兄も入れて4人でそう言うと、3人はすごい勢いで、オレはまぁ、普通に、目の前のうまそうな料理に喰らい付いた。
それにしても、相変わらず、叔母さんの料理はうまいし、良くまぁ、短時間でオレたちが来るまでにこれだけを作ったものだと感心する。
「あ、オレ、ウチに電話しないと…。」
他の2人も思い出して箸を置こうとしたんだけど。
「あら、春さんになら、さっきLINEしたわよ。あ、2人のお母さんも一緒のグループだから、安心してね!」
え?グループ?いつの間にそんなママ友的な?まぁママ友っていえば、ママ友なんだけど。
輝も希良も同じことを思ったんだろう。3人顔を見合わせて、微妙な顔をした。
この回は、筆者の中で、いらないかな〜、エピとして、くどいか?などと、逡巡していた回なのですが…。
会話のわちゃわちゃ感とか、個人的に好きで、結局、投稿してしまいました。
くどい、ダラける〜と、思った方、申し訳ないですが、飛ばしても話、繋がります。




