文化祭〜其の陸・後夜祭・結晶
祭りが始まり、終わる。
その僅かな時間で、何かが動いて、何かが変わる。
祭りの空気に包まれた、マボロシなのか、それとも、出てくる機会を狙っていた、現なのか?
※とうとう、2人、想いを伝え合います。というわけで、久しぶりにBL要素、少し高めでお送りします。
後夜祭。
不思議な高揚感に包まれて、学校全体が大きな盛り上がりを見せた文化祭が、終わろうとしていた。
1日かけて、全校で行われていたコスプレ・コンテストで、希良と輝が接戦が繰り広げ、結果、怪盗キッドの輝がグランプリになったんだけど、本人が辞退すると言い出して、一時、舞台裏で大騒ぎになった。
もちろん、そうなれば希良も…となるのは明らかだったので、オレが誰に言われるでもなく、2人を説得して、並んでステージに上げた。
「そんなにカッコ良いのに、ステージに上がらないってないだろ。みんなに見てもらいじゃん。ほら、オレの自慢の友だちなんだし。な。」
そんな感じのことを言って、2人が好きだといつも言ってくれるように、ケラケラと笑って、背中を押した。
ただ、2人が変な条件を出して。
オレは何故か、そのコンテスト、5位に入っていて。そのオレも一緒なら、ステージに上がっても良い、と言い出したのだ。
運営側はもちろん即諾の快諾で、3位までに加えて、4位のアスカのコスプレをしていた目黒さんと、5位のオレを、入賞者として、ステージに上げることにした。
「なんか…ごめんね。巻き込んで。」
上位3人が登壇して、表彰されるのをステージの袖で見ながら、思わず目黒さんに謝った。
「ぜんぜん、気しないで。田宮くんと同じステージに立つなんて、そんなにあることじゃないもの。逆にラッキーだよ。それより。」
目黒さんが一度、言葉を切って、オレと向き合った。
「私、ちゃんと謝りたかったの。
これまで私、樺沢くんに、嫌な感じだったでしょう?そのこと。
こんなところで、こんな時で、申し訳ないんだけど。」
「え?そんなこと、それこそぜんぜん、気にすることないよ。
目黒さん、ちゃんと節度は保ってくれてたじゃん。
あ、なんか変な言い方でごめん。」
急に謝られて、反応に困ったオレは、そんな返ししか出来なかった。
「やっぱり、ホントだったんだね。」
それを聞いて、目黒さんが悲しそうな顔をした。
「え?やっぱりって?」
「中学の時に、田宮くんと保里くんのファンが、樺沢くんに酷いことしたって…。私、何も知らなくて。
でも、私がしたことも、変わらないよね。ホントにごめんなさい。」
目黒さんの言葉は、オレの中のどこか、奥の方を激しく揺さぶった。
でも、その時、ステージの上から、オレたちを呼ぶ声がして。
「行こ!最後、一緒に、盛り上げちゃお!」
そう言われて、差し出された手を、自然に握って、目黒さんと2人、手を繋いだ状態でステージに駆け上がった。
会場全体から、大歓声が上がる。
オレの紹介の時に「今回、企画賞に輝いたロボットカフェを企画して、展示されていたガンダムを設計、製作を指揮した」と言われたのは、なんかすごく嬉しかった。
そして、その言葉を受けて、目黒さんが繋いだ手を高々と上げて、歓声は更に大きくなって。
最後には、目黒さんが希良と輝の間に無理矢理、オレをネジこんで、自分はちゃっかり、希良の横に並んで。
そのまま記念撮影となった。
全てが歓声と興奮に包まれて、何がなんだかわからない状況で、周りを見回すと、希良も輝も、他の人たちもみんな、楽しそうで、嬉しそうで、その空気に飲まれたオレも同じような気持ちになっていた。
それから、後夜祭は、軽音部のバンドの演奏で盛り上がり、キャンプファイヤーの火が高く上がって、フィナーレへと向かって行ったんだけど。
オレは、そんな喧騒に背を向けて、希良や輝とも離れて、後夜祭の前にペッパーくんを保管した3階の空き教室に、鍵をかけると、1人、膝を抱えて、ぼんやりしていた。
色々な事がありすぎて、キャパオーバーだった。
コスプレの衣装から、ジャージに着替えてる時、みんなの注意が自分から逸れた一瞬を狙って抜け出し、ここに来た。
さっきから、バイブにしてあるスマホがずっと鳴ってる。
見なくても、輝と希良が心配して、オレを探しているんだとわかる。
なのに、それに向かって、ごめんな…と思いながら、心と体が動かず、何も出来なかった。
希良、今日はとびきり、可愛くて、輝いてたなぁ。
輝、いつも横にいて忘れてたけど、あんなにスタイル良くて、カッコよかったんだよな。
郡司、1人でも来てくれて、嬉しかった。やっぱ、いいヤツだった。
家族みんな、大盛り上がりしてたな。なんかおかしかったけど、楽しかった。
そして何より、目黒さん。
優しくしてくれて、謝ってくれて…いい人だった。
でも、彼女、何を知っているんだろう。
もしかして、みんなが知っていて、オレだけが知らないのかもしれない事?
それはオレが全て、希良と輝のことを全部、忘れてしまうほどの事だったのか。
知りたい、と思った。でも、それと同じくらい、いや、それ以上に、知るのが怖かった。もうずっと、そこからオレは一歩も動けていない。
知ったら、オレはどうなるんだろう、と思うとどうしたらいいかわからなかった。
その時、入口の扉がガタガタと揺さぶられた。
と、同時に。
「みずき?そこにいるんだろ?
開けて?オレ1人だから、お願い、開けて。」
輝の必死で呼びかける声が聞こえた。
わかっていたのに、オレはまた、輝に辛い思いをさせてしまったんだと思うと、尚更、その声に答えることが出来なかった。
何度目かわからないけど、また、スマホが震えて、その音は廊下にいる輝にも聞こえたはずだった。
「みずき!お願い、いるなら、声だけでいいから、返事して。お願い。」
そうか、輝はオレがまた意識を失って、倒れているんじゃないかと、それを心配しているんだ。
そう思うと、もうそれ以上、輝をそのままにしておけなかった。
それでも体に力が入らず、ノロノロと立ち上がって、ゆっくり、扉に近づくと、鍵を開けて、扉を開いた。
いつもみたいに、飛びついてくるかと思ったら、扉を挟んで、輝は何も言わずにただ、立っていた。
どんなに心配して、どれだけ、探したんだろう?
息を切らして、顔が赤くなってた。きっと、走り回ったんだ。
「良かった、無事で、安心した。希良にだけ、連絡していい?アイツも心配して、探しているから。」
そう言って、ホッとした顔で、輝がスマホを操作し出した。
「ごめん。最低だな、オレ。」
そんな輝の顔を見ていられず、背中を向けて、ボソっと呟いた。
「何が?何、言ってんだよ?何かあった?
オレたち、調子に乗り過ぎて、みずき、疲れさせたんじゃないかって…。」
「違う!そんなんじゃなくて。オレ、また輝に。希良と輝に心配かけて、辛い思いさせたよな。ホント、オレ、最低だ。」
オレはまだ、輝の顔を見ることが出来なかった。
「みずき、どうした?なんでそんなこと言うんだよ?オレはそんなこと、まったく思ってないのに。」
輝が近づいてきて、オレの肩に手をかけて、振り向かせ、それでも下を向いたままのオレを、何も言わず、ゆっくりだけど強く、抱きしめてきた。
輝の体が熱かった。
「輝が、お前のことが、大事なんだよ。希良もだけど、輝が、大切なんだ…。一緒にいたい。
なのに、オレ、いつも、こうやって、心配させて、迷惑かけて…。」
「うん、ありがと。オレも同じ。みずきが大事だよ。だから、迷惑なんて思ったしことないし。」
そう言われて、オレも同じくらいに腕に力を入れて、輝を抱きしめた。
「大事なのに、なんで?こんな…なんで忘れちゃったんだよ、オレ…。なんで?なんでオレ?」
泣くことも出来ずに、オレは叫んでいた。
次の瞬間、輝の顔が近づいてきて、あっという間に唇が重ねられて、いままでとはまったく違う、熱くて深いキスをされた。
そしてそれは、息が止まるほど長く続いて。
やっと解放された時にはもう、立っていられなかった。
「嫌だったら、ごめん。でも、こうでもしないと、わかってもらえないと思って。オレは、みずきのことが好きなんだ。もうずっと前から、好きだ。」
輝は、床に座り込んだオレに、もう一度、手を伸ばして、頭を抱えるように抱きしめてきて、さっきよりもずっと落ち着いた声で、耳元に話しかけてきた。
「だから、迷惑とか、心配とか、そんなこと、どうでもいいんだ。みずきがここに、こうして、いてくれれば、それで、それだけでいいんだよ。」
腕を離すと、今度は額がくっつけて。
「さっき、オレのことを大事だって、言ってくれただろ?」
オレが頷く。
「それは、覚えててくれたんだな。」
驚いて、輝の目を見た。
「やっと、顔見てくれた。」
輝が笑って、また唇を重ねてきた。
今度はゆっくり、さっきよりも軽く、それでも熱かった。
「中学、卒業するちょっと前に、みずきがオレに言ってくれたんだ。
『きらも好きだけど、オレはかがやが大事なんだ。』って。それで、オレ、次に会ったら、絶対、言おうと心に決めてた。
みずきが好きだって。
だけど、言えなかった。
みずきがオレのことを忘れちゃったから。」
そう言って、オレを見る輝の目は悲しそうでも、残念そうでもなくて、何故か嬉しそうだった。
「だから、やっと言えて、嬉しいよ。
みずきがオレのことを大事だって言ってくれたし。」
また頭を抱きしめられて、何度も撫でられた。
その暖かさに、とうとう我慢か出来なくなって、オレは泣きながら、言った。
「オレも、かがやのことが好きだよ。
多分、それだけはずっと、忘れてない。どこかで、ずっと…覚えてた。」
「うん、知ってた。」
おでこにチュッとキスしてから、輝が離れて、横に並んで床に腰を下ろした。
その時、バタバタと足音が聞こえて、開けたままだった扉から、希良が飛び込んで来た。
「みずき!大丈夫?」
輝の時と同じ、息を切らして、顔は真っ赤だった。
その様子に、オレたちは2人とも、それまでのことがなかったような顔をした。
「きら…ごめん。心配かけて。」
涙を拭きながら、希良に笑いかけた。
「良かった…で、何があったんだよ?なんで?かがや、もう聞いた?」
希良がオレたちの前にへたり込むように座って、輝の顔を見た。
「あー、いや、まだ何も。みずきがなんか意地張ってて。」
「え?そうなの?なんだよ、それ。どうした?みずきらしくない。」
そう言われて、ホントにそうだなと、オレは苦笑いした。
「ホントだな…何やってんだろな、オレ。」
「で、どうした?オレたちをまくなんて、良い度胸じゃないか?」
「え?何、かがや。どうした?」
「いや、かがやの言う通りだ。大人しく、話してもらおうか?で、オレたち、なんかした?」
2人がふざけてるのはわかったけど、言われてみれば、その通りで。
「2人が、何かしたわけじゃ、ないんだ。」
オレはなんとか、話せるところだけ、話そうと心に決めた。
「なんか、色々、キャパオーバーで。
2人は、オレの限界点を軽く超えて、可愛いし、カッコいいし。
オレのこと、可愛いとか言って、写真頼んでくる人もいたけど、そう言うの慣れてないし。
家族はみんなで大盛り上がりしてるし。」
「あー、確かにここまで聞いただけで、腹一杯だ。」
かがやがお腹を抑えて笑う。
「ってか、オレらのことは別腹だろうよ。まぁ、それだけじゃなくて?まだあるんだろ?」
希良が続きを促してくる。
「郡司に、やっぱり、オレの居場所は2人の間だなって言われるし。目黒さんには謝られるし。」
そこで2人が固まって、オレのことを見た。
「郡司が?そんなことを?」
輝が不思議そうな目をした。そして。
「目黒?なんて言って?」
希良の顔に緊張が走った。
「最初は、『これまで感じ悪くてごめんなさい』って、それだけだったんだけど。
オレが目黒さんはちゃんと節度が保ってくれてたから、気にしなくていいんだって答えたら…。
『中学で田宮くんと保里くんのファンが樺沢くんに酷いことしたって、ホントだったんだね。』って言われて。」
そこまで言うと、オレは急に、息苦しさを感じて、胸を抑えた。
「ストップ。みずき、もういいから。ゆっくり、深呼吸しようか。」
「あ、オレお茶持ってる。ほら、みずき、ゆっくり飲んで。」
希良が差し出したペットボトルから、お茶を飲んで、輝がゆっくり背中を撫でるのに合わせて深く息を吸って、吐いた。
「目黒がそんなことを…。」
希良が怒ったとも、残念そうとも取れる声でそう言った。
「あ、違うよ、きら。
目黒さんは、自分がやった事もその人たちと同じことだって、そう言って謝ってくれたんだ。彼女、ホントに優しい人だよ。ほら、最後、あんなに盛り上げてくれたじゃん。」
そこまで一気に言うと、またゆっくり、深呼吸するように息を吸って、吐いた。
「そう言ってくれたのに、何も覚えていない、それを聞く勇気も、知る勇気もない自分が、情け無いっていうか、なんか、どうしようもなくて…。」
呼吸が乱れて、ゼイゼイいいながら、なんとかそこまで話した。
「もういい、もういいから、しゃべるな。」
「わかったから。もう目黒のこと、責めたり、嫌ったりしないから。安心しろ。」
2人がオレを挟んで座ると、右から希良が頭から首を、左から輝が背中を、ゆっくり撫でてくれて。
そのまま、寝てしまいそうになるくらい、落ち着いてきて、呼吸もゆっくり整ってきた。
文化祭、本番が終わりました。
でも、もう少し、続きます。余韻というには、ちょっと濃い目のあれこれで、3人の関係はまた、変わっていきます。ちょっとダラダラするところもありますが〜
お付き合い、よろしくお願いします。




