文化祭〜其の伍・温かい場所
家族は温かい。温かいけれど、ウザいことも多い。
ただ、その温かさは当たり前だったりするので、たまに忘れてしまう。自分がいるべき場所を思う時、それが永久不滅ではないことを知るのだ。
「あー!やっと来た!」
「待ってたわよ!」
「3人とも、お疲れ様。」
最初に歓声を上げたのは、母親3人プラス叔母さんだった。
よくわからないが、なんか異常に盛り上がっている。
「さっき、すごいカッコよかったわよ。
おばさん、みーちゃんの写真、たくさん撮っちゃったわ。ほら、以知、あんたのカメラが一番すごいんだから、みーちゃんたちに見せてあげて。」
「あー、うん。ほら見る?」
叔母さんに言われて、珍しく、面倒くさそうに、いち兄が一眼レフのデジカメを見せてくれる。
「うわー、何これ?」
それを見て、オレはわけがわからない、と言った声を上げた。
輝も希良も、当たり前にカッコ良く写っていたけど、なんかそこに自分がいるのが、なんとも言えなかった。
「おー!みずき、可愛いじゃん。」
「ホントだ。いいね。さすがいち兄、うまく撮れてる。これ、後でちょうだい。」
そうなの?これ、いいのか?
オレが首を捻っていると、叔母さんがさらに。
「その写真、大きくプリントして、きらくんとかがやくんのところにあげてね。もちろん、みーちゃんのところにもね。」
そんなことを言って、母親たちが盛り上がるから、ますます、意味不明な気持ちだった。
「みずき、さっきから、何ひとりで百面相してんの?」
輝がつっ込んできた。
「え?いや別に。なんかその写真、オレ、全然良さが分からなくて。
2人はすごくカッコいいけど、オレ、いない方がよくない?」
「えー?そんなこと言うなよ。悲しすぎる。
みずき、こんなに可愛く写ってるのに〜」
「うーん、わかんない。
でも、きらが気に入ってるなら、それでいいよ。」
「まぁ、こういうとこが、みずきのいいとこだから。な、きら。」
輝がフォローしてくれて、とりあえず、3人とも腹ペコだったので、目の前にある食べものに取り掛かることにした。
アメリカンドックを齧りながら、そう言えば、と思い出して、ポケットの中からスマホを取り出すと、カメラロールを開いた、その瞬間。
「おぉ!なんだこれ?」と、思わず声が出た。
「え?何?ナニ?」
覗き込んできた希良から、思わず画面を隠した。
「あ、いや、別に。なんでもない。」
「何、なんで隠した?」
逆方向から、今度は輝が覗いてきて、オレはそっちからも、隠しながら、画面をロックした。
「いや、ホントに、なんでもないから。」
2人は怪しむ目でオレを見ていたけど、オレは何もない、を貫き通した。
オレが隠したカメラロールには、目黒さんが撮った希良と輝、そしてオレの、アップの写真が溢れていた。
もちろん、最初の方こそ、ガンダムを囲んでるスリーショットがあったが、その後はどうやって撮ったのかわからない、色んな角度、そして表情のアップが続いていた。
目黒さん、確か、自分のスマホとデジカメも持っていたはず。
なのに、こんなに大量の写真?どうやって、しかも、まるで雑誌のグラビアみたいな…。
そしてこれを、どうしろと?
なんか、悶々としながら、アメリカンドックを黙々と頬張った。
そのとき、遅ればせながら、気がついたオレは、席を立って、希良のお父さんのところに行くと、声をかけた。
「あの、すみません、お礼、遅くなって。
ペッパーくん、ありがとうございました。あんな貴重なもの、貸していただいて。」
そう言って、頭を下げた。
「いや、そんなこと。参ったな。良いんだよ、気にしなくて。
見たか?希良。瑞稀くん、ちゃんとこうやって。
しっかりしてるなぁ。」
そんなつもりはなかったんだけど、なんか感心されてしまった。
そう言われて、希良はちょっとだけ、気まずそうな顔をしたけど、あんまり気にしてないようで。
「まぁ、みずきはすごいからね。ちょっといじっただけで、もうあれ、自分のモノみたいに使いこなしたんだから。整理番号、自動で出せるようにしてさ。」
「え?それはすごいな。」
「あ、いや別に、そんなことないです。
いじってたら、面白くて。でも、あれ以上やったら、戻せなくなりそうで、やめました。」
それはホントのことで、元々興味があったモノだから、触り出したら色々やってみたくなって、止まらなくなっていたのだ。
「それじゃ、今度ウチに来るといいよ。使わなくなった古い箇体があるから、それを思う存分、いじっていいから。ね。」
「おぉ、それ、いいじゃん。来いよ、みずき!」
「あ、ありがとうございます。」
ホントは飛び上がりたいくらい、嬉しかったけど、ちょっと抑えて、お礼を言った。
「すげぇ、さすが大病院だな。」
輝が驚きながら、焼きそばを食べていた、その時。
「たこ焼き、買ってきたぞー!」
たく兄とちい姉が両手にたこ焼きが山盛りになった舟を持って帰って来て、みんなの前にそれを置いた。
(あれ?なんか、これ…。)
それを見た途端、オレの中の、何かがザワついて、体が固まった。
「あ、たく兄、さんきゅ!これ、分けちゃっていい?」
輝が何かに気が付いて、すぐにオレの前からたこ焼きを取り上げて、希良と手分けして、あっという間にみんなの皿の上に乗せてしまった。
「ほら、みずき、熱いからね。」
輝が差し出してくれた紙皿に乗ったたこ焼きは、さっきと、打って変わって、ただ美味しそうに見えた。
「うん、ありがと。」
ザワついて固まった体の感じは、もう消えて、輝から笑顔でたこ焼きを受け取ると、ハフハフ言いながら、頬張った。
「うま。かがやも食べなよ。熱いうちが良いよ。」
輝がその言葉に、安心したように頷いて、同じようにたこ焼きを頬張って笑った。
「ホントだ、美味いな。」
その顔にオレも安心して、振り返ると、希良もホッとした顔で、たこ焼きを手にしていた。
多分だけど…今の感じ。
2人の反応からして、この前聞いた中学3年の文化祭の話、希良が話してくれなかったところに、たこ焼き、それも舟に盛られたヤツが関わっているんだと思う。
でもあの時、希良に言いたくないと強く言われて、その事はもう聞かないと、心に決めていた。
知ることで、乗り越えられることもあるけど、知らない方が、思い出さない方が良いこともあると思ったから。
「みずき、口のとこ、ソースついてる。」
え?と、自分で拭おうとするより早く、輝の手が伸びてきて、ヒョイっと口元を撫でられた。
「オケ、取れた。」
「あ、さんきゅ。」
ソースのついた親指を、どこかで拭くでも、舐めることもなく、そのままで、焼き鳥に手を伸ばす輝の右手を掴んで、手元のウェットティッシュを取った。
「そのままじゃ、汚れるだろ、白いのに着いたらどうすんだよ。」
怪盗キッドの白いタキシード姿のままで、お構いなしに食べてる輝が、さっきから気になってしかたなかったオレはそう言って、輝の手を拭いた。
「あ、そうだな。」
「なんかウケる。珍しく、かがやがみずきに世話やかれてる。」
後ろから希良の笑い声が聞こえて、輝が照れたように顔を背けた。
それから、しばらくみんなでワイワイと、楽しかったけど、休憩が終わり、オレたち3人はそこから抜けることになった。
「じゃ、みんな、楽しんでね。」
「またね。」
「気をつけて。」
口々にそう言って、オレたちはクラスに戻った。
「樺沢くん、さっきはごめんなさい。もう大丈夫?」
クラスに戻ると、目黒さんが一番に声をかけてきた。
「あ、うん。オレの方こそ、ごめん。心配してくれてありがとう。もう大丈夫。」
すっかりオレに対するアタリが柔らかくなった目黒さんは、普通に可愛いくて賢い女子に見えた。
「それなら良かった。先生に樺沢くんの体調のこと、聞いていたのに、無理させちゃったと思って。」
「え?そうだったの?それはマジで、逆に申し訳なかった!
そんなに気にしてもらうほどじゃないからさ。」
先生、そんな事、目黒さんに話したのかと思うと、ちょっと恥ずかしくなって、目を逸らした。
「そんな風に言わないで。
誰だって、調子悪くなる事なんてあるんだし。
あ、当たり前だけど、他の人には話してないから、安心してね。」
「あー、ありがとう。ホントに。」
それでもやっぱり、恥ずかしくて、軽く頭を下げて、離れた。
「みずき!」
呼ばれて振り向くと、郡司が立ってた。
「お!郡司!きたか。待ってたよ。
何、並んでたの?声かけてくれれば良いのに。」
「いや、これだけ並んでるの見て、それはなかなか。でも、すごいな。」
首をぐるぐる回しながら、教室全体を見回して、郡司が感心して声を上げる。
「え?あれって田宮?」
「あー、そう。すごいだろ?アイドルだよな、どう見ても。」
「ホント、前からすごかったけど、なんか磨きがかかったっていうの?」
ガンダムの前でお客さんと写真に収まってる希良を見つけて、郡司がさらに、目を丸くする。
「郡司も撮ろうぜ。まずは1人で撮ってやるよ。それから、オレと、せっかくだから、きらも一緒に。きら!」
声をかけると、希良がこっちを見て、笑って手を上げた。
「お、郡司!久しぶり。撮る?」
うわー、これはもしかして、郡司を威嚇してる?と思うくらいのキラキラスマイルが返ってきた。
「あ、うん、そうだな…。」
明らかに郡司がビビっていた。
そりゃそうだ。この前は道の駅で、オレをあっという間に遠ざけられて、輝に殴られそうになったのに、今度はこの笑顔なんだから。
最初に郡司1人をオレが撮影してる間に、何故か希良が隣のクラスから、輝を呼んできた。
そこから、オレとのツーショット、4人揃っての撮影になって。
何も知らないヤツらから見れば、同じ中学出身の3人が、同級生と楽し気にガンダムを囲んで写真を撮っているように見えたと思う。
でも、希良と輝が入ってきてから、郡司は落ち着かない様子だった。
「なんか飲む?ご馳走するよ。」
「あ、うんじゃあ、コーラで。」
「オケ、ちょっと待ってて。」
そう言って、オレはその場を離れた。
「田宮、保里。この前はごめんな。悪かった。」
「いや、オレの方こそ、悪かったよ。お前のこと、殴るところだった。」
「郡司は悪くないんだ。でも、オレたちはあそこで、みずきを柳田に会わせるわけには、いかなかったんだ。
それは分かって欲しい。」
「うん。まち姉が、あの後、連絡くれて。みずきが夏休みに入ってから、思い出してることが多くて、だからこそ、微妙な、気をつけないといけない時期なんだって、そう言われて。」
「あのさ、今、撮った写真、きらとみずきとお前と、撮った写真、柳田に見てもらって。なにも説明とか、しなくていいから。見てもらってくれよな。」
コーラの入ったグラスと、セットのケーキを持って、郡司のところに戻って来ると、希良と輝と3人が、何か深刻な雰囲気で話していた。
オレのことかなぁ、と思って、一瞬、立ち止まったけど、すぐに思い直して、わざとらしく大きな声をかけながら、近づいた。
「お待たせ〜。ケーキ、アップルパイで良かったよな?」
その声に、3人とも、やっぱりワザとらしい笑顔で振り向いた。
「お、さんきゅ、大好物。いただき〜。」
「じゃ、またな郡司。」
輝が、これまたワザと白いマントを翻してみせて、隣のクラスに戻って行く。
「ひゃー、ホンモノより、カッコ良くね?」
郡司がおどけて笑った。
「ははは。確かに。ま、ゆっくりしてって。」
その様子を見て、希良も笑いながら、離れて行った。
「郡司、2人に何か、言われた?大丈夫だった?」
「ん?ぜんぜん。あの2人が優しいの、お前が一番良く知ってるじゃん。
この前の海でのこと、揃って謝られたわ。」
アップルパイをモグモグさせている郡司に、そう言われて、自分が恥ずかしくなった。
そうだ。あの2人は、誰よりも優しい。
オレを守ろうとする時以外、誰かを責めることなんてない。
そして、郡司は、何にしても、いつまでも根に持つようなヤツじゃない。
「それにしても、よく出来てるな、あのガンダム。お前、ホント、すげぇな。」
「んー、みんなにドン引きされたけどな。ヲタが過ぎるって。
でも、校長先生が同じガンヲタだったんだよ。で、アレ、ホントはこの後、後夜祭で燃やす予定だったのが、保存することになったんだ。」
「えー?マジか、それ?
S校、恐るべしだな。」
郡司がまたまた、目を丸くした。
「オレも、そう思った。」
オレも同じように笑う。
「そか。良かったな。みずき、頑張ってS校入って、正解だったな。
オレ、正直、高校もお前と同じって思ってたし、そうだと良かった、って思っていたんだけど。」
そうだ。オレもそう思っていた。郡司の言葉に黙って頷いた。
「ほら、みずき、去年は文化祭、出られなかっただろ?
それを知った時も、やっぱりオレ、そう思ったんだけど。
今日来て、良くわかった。
お前のいる場所は、オレと一緒の学校じゃなくて、やっぱりあの2人の間なんだな。」
郡司は寂しそうでも、悲しそうでもなく、ホントに安心したって感じにそう言った。
「あ、もちろん、オレも、ずっと友だちだぜ。それは忘れんなよ。」
「そんなの、当たり前だろ。いつからかの付き合いだと思ってんだよ。」
オレは笑いながら、郡司の肩を叩いた。
オレのいる場所。
郡司を見送ったあと、希良を振り返ると、そのオレを見つけて、笑って手を振ってくれて。
あまりの笑顔の眩しさに、逆に苦笑いして、手を振り返した。
文化祭、盛り上がってます。すみません、そのせいで、ダラダラと長くなってしまってます。
この後、大きなことがあったり、なかったり…しますが、3人の関係が少しずつ、変化する…はずです。




