文化祭〜其の肆・助走と本番
楽しいひと時の前の、ワクワクする気持ち。けれど、どこかに落とし穴がありそうで、ドキドキもする。
それでも、走り出したら、そのまま、走り続けるしかないもの、それが青春かもしれない。
クラスのみんなと別れて、オレたち3人は、朝と同じ、職員用のパーキングで兄ちゃんたちどう合流した。
「みー!大丈夫か?」
オレの顔を見た途端、2人が駆け寄ってきて、例によって頭をぐしゃぐしゃにしてくる。
「大丈夫だよー。
もー恥ずかしいじゃん。慧さんもいるのに。」
「なんだよ、みー助はいつからそんな、冷たい子になった?兄ちゃんは悲しいぞ。」
その様子を見て、慧さんが笑ってる。
「大丈夫だよ、みーくん。気にしなくてもさ。
以知、みーくんがいないところでも、こんなんだからさ。あ、ついでにこっちもな。」
そう言って、弟の輝を指差した。
「なんだよ、それ。だったら、きらも同じだし。
てか、兄ちゃん、みーくんとか、呼ぶなよな。」
「なんでよ。いいじゃん。」
こっちの兄弟はこっちの兄弟で、なんだかだ。
それを見て、ひとりっ子の希良が羨ましそうにしてると、それに気づいたたく兄が、すかさず希良を引き寄せる。
「良くないよな〜、きら。」
「え、ああ、うん。」
戸惑ってるような、照れてるなような、でもそんな風にされてる希良は、嬉しそうに見えた。
「はいはい。もー、なんとでも呼んでくれていいし。
行こ、腹減ったー。なんかご馳走してくれるんでしよ?」
オレも希良に腕を絡めて、兄ちゃんたちにアピールした。
「おう、いいぞ。文化祭の前祝いだ。
焼き肉、行くか?」
「あー、いいな。でも、今日はキングだな。スポンサーいないから。」
いち兄の言葉を受けたたく兄が、そう言って笑った。
「あ、そういえば兄ちゃん、里沙子姉は今日はバイト?」
「里沙子?あーどうだろ?何、呼ぶ?」
「姉ちゃんいると、みずきが面白いから。」
突然、輝がそんなことを言い出すから、オレはマジで焦った。
「ちょ、かがや、何言うんだよ、やめろよ。」
「え?何、どういうこと?」
いち兄が目を見開いて、オレを見てくるし、希良がオレの首に回した腕を締めてくる。
「え、そうなの?みずき?聞いてないんだけど。」
「おい、なんだそれ、兄ちゃんも初耳だぞ。」
たく兄もオレに詰め寄ってくる。
「いや、だから、なんでもないって。
かがや、どうしてくれんだよ、この始末!」
オレが文句を言っても、輝はかまわないといった風で、話を続ける。
「でも、この中に、姉ちゃん1人じゃ、来たがらないかなぁ。」
「いや、里沙子ちゃんに声かけるなら、こっちの、まち姉と千枝にも声かけないと、後が面倒…いや、そうじゃなくて…。」
たく兄がそう言ってから、慌ててごまかしたけど、まあ、その通りだと思うし。
「だったら、全員に声かければいいじゃん。
来られるかどうかはわからないけど。大人数の方がいいし。」
そう言いながら、輝と希良の腕を解いて、オレはちょっと不貞腐れてみせた。
「え、ごめんて、みずき、怒った?」
「別に。」
慌てる輝が可愛くて、ワザと背中を向けて姉ちゃんたちにメッセージを送った。
「あーあ、かがや、やっちまったな。」
明らかに面白がってる希良の声。
姉ちゃんたちからは、秒で返信が返ってきて。
「2人とも来られるって。店が決まったら、連絡してって。」
オレは振り返って、そう言いながら、輝の頬を摘んで、舌を出した。
「知らないよ、かがやのバーカ。」
輝が、ますます慌てて何か言おうとするけど、そこに慧さんがかぶせるように。
「お、里沙子も来るって。久しぶりに全員集合だな。」
「よし、じゃ、店、予約するな。」
いち兄がそれを受けて、スマホで予約を取って。
「おっけ。取れた。みー、2人に連絡たのむ。
かがやも里沙子ちゃんに、よろしくな。じゃ、車乗って〜。」
そう声をかけると、輝がオレの後を追ってきて、3人で、当たり前のように、いち兄の車に乗り込もうとしたんだけど。
「おい、何やってんの、お前はこっちだろ。」
慧さんがそう言って、輝を自分の車の助手席に乗せてしまった。
「あー、かがや、かわいそうに。」
「まー、慧さんにはお前らの関係性、まだわからないだろうから、今日のところは仕方ないな。」
「でも、かがや、みずきが怒ったままだと思って、今頃、凹んでるぜ、きっと。」
オレと並んで、後部座席に座った希良が、輝の乗った車を振り返って、そう言った。
前回の焼き肉会とは違って、今回はオレたち高校生に見合った、ファミレス系の焼き肉屋に、前より多い人数が集まった。
でも、その賑やかな様子にオレはちょっと付いて行けてなかった。
さっき慧さんが言った「久しぶりに全員集合」ってことに、オレはぜんぜんピンときてなくて。
こんな風に集まったこと、今までもあったのか?ぜんぜん覚えていないんだけど…と、1人、考え込んでた。
「みずき、まだ怒ってる?」
輝がそんな様子を見て、恐る恐る、声をかけてきた。
「ううん。もう怒ってない、ってか、最初から怒ってないよ。ちょっとふざけただけ。
でも、かがやのお姉さん、やっぱりキレイだよな。」
そう輝に笑いかけてみたけど、多分、どこかぎこちなかったのかもしれない。
「もしかして、何か混乱してる?」
「え、バレた?」
「何?どうした?みずき、やっぱ、まだ調子悪い?」
希良がオレたちの様子を見て、体を寄せてきた。
その言葉に首を振って、輝にも大丈夫、と答えて、なんとか、その混乱と折り合いを付けた。
それから、みんなでワイワイ、盛り上がって、お腹もいっぱいになった頃、話はオレたちのガンダムのことになった。
「今日、写真撮りに行きたかったんだけどな。」
いち兄がそう言って、兄ちゃん、姉ちゃん全員が頷いた。
「明日は、さすがに、激混みだろうしな。」
「でもほら、みずきの力でなんとかするから、来たら声かけてくださいよ。な?」
希良がオレにそう言って、オレも頷いた。
「あ、でも、アレ、予定では明日の後夜祭のキャンプファイヤーで燃やすってなってたじゃん?それが、ちょっと変わりそうで。」
「え?何それ、聞いてないけど。」
希良が驚く。
「うん、オレも帰り際に、目黒さんから聞かされて。」
「目黒?なんて?」
目黒さんの名前に、希良は警戒心むき出しの顔をした。
「きら、そんな顔しない。
うん、なんかね、校長先生が、あんなによく出来ているのを燃やすのはもったいないから、あのまま、校内のどこかに展示したいって言ってきたらしくて。」
オレの言葉に全員が色めき立った。
「え?何それ?すごいじゃん!」
輝が興奮して、目をキラキラさせてきた。
そんなこんな、前祝いは楽しい時間だったけど、明日の本番に備えて、早目にお開きとなった。
初めは混乱していたオレも、時間が過ぎるウチに違和感が薄れて…ホッとしていた。
そして、帰りは3人、バラバラの車ってことになって、オレはまち姉の車に乗ろうとした、その時。
ふと振り返った先に、慧さんとまち姉が2人でいるのが目に入った。
(あれ?なんか、あの2人…?)
「どうした?みー?あぁ、慧さんとお姉ちゃん?」
同じ方を見て、ちい姉がそう言いながら、あんまり見ないの、とオレを車に乗るように促した。
「え?あの2人って?」
車に乗ってから、我慢出来ずに、ちい姉に聞くと。
「んー、まぁいいか。みーも高校生だもんね。でも、私から聞いたって言っちゃダメだよ。」
そう前置きしてから、話してくれたのは、オレがまったく知らない、まち姉のことだった。
「慧さんは、まち姉のことが好きなの。もうずっとね。告白されたって初めて聞いたのは、いつだったかなぁ。
それに、お姉ちゃんも慧さんのこと、嫌いではないと思うんだけどね。何故か、まだ付き合うとか、なってないみたい。」
「そうだったの?知らなかった。」
そっと振り返って、もう一度2人を見た。
その瞬間、オレの中で何か、電気が走った。
まち姉を見る慧さんの表情、眼差し。
それは遠目で見ても全部、この前、図書館の裏で輝がオレに向けてきたそれと、そっくりそのままだったから。
あの兄弟はきっと、大切なものを見る時、愛しさを表す時には、ああいう顔をするんだ…と、何か、腑に落ちたような…そんな気がした。
あれ?大切なもの…って?オレは?何を考えてる。
ちい姉に気づかれないように、慌てて、下を向いた。
次の日。文化祭の当日。
オレたちのクラスのロボットカフェは、開店と同時に長い列が出来るほどの大人気で、1時間くらいしたところで、整理券を配る事態になった。
その影響で、隣の輝のクラスも待ち時間を過ごす人たちが押しかけて、これまた大騒ぎになっていた。
「なんか、すごいな、まさかこんなことになるなんて。」
アムロのコスプレをしたオレが、赤い彗星のシャアのをコスプレをした希良に向かって、ぼそっとつぶやく。
ちなみに、希良のはコスプレはオレからのリクエストだ。
最初のうちは、仮面も付けていたけど、ビジュが見えない、とのクレームを受けて、今は外している。
「そう?オレはこのくらい、予測してたけどな。
ま、もうちょっとで休憩だから、かがやも誘って、回ろうぜ。」
「シャア大佐!写真、お願いします!」
そんなことを言ってるうちに、希良に声がかかって、嫌そうな顔を一瞬、オレにだけ見せて、呼ばれた方に向かって行った。
それでも、ガンダムの頭を挟んで、きゃあきゃあ、言ってる女子と一緒にポーズをしている希良は、もうアイドルにしか見えない。
「はー、カッコよ。」
誰もいないと思って、そんなことが口から出る。
「ホント、そうだな。」
突然、耳元で言われて、思わず飛び上がる。
「うわ!何?あ、かがや?え、その格好て?」
振り向くと、白いタキシードにシルクハットを被って、マント姿の輝が後ろから、顔を寄せてきていた。
「これ?怪盗キッドだって。」
あーなるほど、いや、そういうことじゃなくて。
「え、そんなのするって、言ってなかったじゃん?」
「うん、言ってなかった。驚かせようと思って。どう?似合ってる?」
そう言って、頭の上のシルクハットのツバをつまんで、いつものイタズラっぽい顔で笑った。
「お前も、すげぇな。」
もう、ため息しか出ない。再現度とかを超えて、カッコ良すぎる。手足、長過ぎて、スタイルお化けだ。
「すげぇ、何?」
「え?」
「ちゃんと、聞かせて?」
「え、いや、だから、すげぇ…」
「うん?」
「すげぇ、カッコイイよ。ガチで。」
イヤ、オレ、何、照れてるんだ?
「ありがと。みずきも可愛い。顔、赤いよ。」
そう言うと、右の耳を軽く、噛んできた。
「!?!」
声も出さず、というか、声も出ないくらいに、驚いて、あたりを見回した。
幸い、誰もオレたちのことを見てはいなかった。
でも、オレは上辺は平気な顔をしていても、心の中では、飛び上がって、逃げ出していた。
その場から。輝の前から。
「あ、そこの2人、ちょっといい?」
案内係をしている、制服姿のアスカのコスプレをした目黒さんがオレたちに声をかけてきた。
呼ばれた方を見ると、入口から兄ちゃんと姉ちゃんたちが6人まとまって、手を振っていた。
身内のオレが言うのもなんだが、その辺り一帯、エラい美形祭りになってた。
「樺沢くんと保里くんのご家族って?」
さすがの目黒さんも、ちょっと圧倒されている。
「あー、ごめんね、目黒さん。うん、そうなんだ。悪いけど、ちょっとだけ割り込んでもいい?写真撮るだけだから。」
「ごめん、オレからも、お願いします。」
輝も揃って、頭を下げると、目黒さんはなんだか含みのある声で。
「いいよ、大丈夫。でも、そのかわり、と言ったらなんだけど。後でちょっとお願いきいてくれる?」
お願い?なんだろう?ちょっと怖いけど、この際、あれこれ言ってる暇ないし、オレと輝は顔を見合わせて頷いた。
すぐに終わると思っていた撮影は、撮ってる間に、それぞれの両親も来たりして、結構な時間、かかってしまった。
「目黒さん、ありがと。助かったよ。で、お願いって?」
「終わった?じゃあ、お願い!3人でそこに並んでくれる?3人揃って、写真撮らせて!」
恐る恐る聞いた答えは、まさかの?いや、容易に想像できたことだったんだけど。
「えっと、2人、じゃなくて、3人?オレもなの?
地味じゃない?オレ、入らない方がよくない?」
出来れば写りたくないオレは、苦し紛れに言ってみたけど、希良と輝は、もうオレの場所を空けて、スタンバイしているし。
「全然!3人の方が絶対、良いし、3人でなきゃ意味がないよ。はい、並んで。
みなさん、時間、少ししかないですからね、撮りたい人は準備してね。」
目黒さんの掛け声で、すごい人数がオレたちの前に並んだ。
ってか、その中に、家族も全員混ざってるの、おかしくない?
「あ、目黒さん、写真、撮るのはいいけど、SNSに上げるとか、拡散はしないで欲しいんだけど。」
撮影が始まる前に、慌ててオレが付け加えた。
「了解。そうだよね!
みなさん!これから撮影した写真は、SNSにアップするとか、拡散するのはやめてくださいね!
拡散禁止です!もし、見つけたら、出るとこ出ますので!よろしくお願いします!」
最後の方は少々、脅しとも取れる言葉だったけど、家族が法律家で、自分も法曹界を目指している彼女の言葉は、なかなか凄味を持って、その場の人たちに伝わったみたいだった。
その後。
オレはこれまでの人生で、浴びたことのない量のシャッター音とフラッシュを浴びて、めまいがしそうだった。
「ごめん、ここまで!終了!」
これ以上は無理…!と、オレの体がふらついた瞬間、両脇から手が伸びてきて、同時に希良が叫んだ。
「みずき、大丈夫?」
まだ、カメラやスマホを構えてる、大勢の人たちに背中を向けて、ガンダムの後ろに隠れると、2人がオレを覗き込んだ。
「うん、なんとか。すごかったな。」
オレが苦笑いしていると、そこに目黒さんが来た。
「ごめんなさい!樺沢くん、大丈夫?思った以上に人が集まっちゃって。ほんと、ごめんなさい。」
目黒さんがオレたちの様子を見て、本当にすまなそうに、そう言って。
「これ、樺沢くんのスマホでも、撮影したから、後で見て。
それと、このまま休憩入ってね。ゆっくりしていいから。
保里くんも、そうしていいって。C組の人が。」
オレのスマホを差し出しながら、心配そうに、でも優しく笑ってくれた。
彼女、キツいところもあるけど、根は優しい人なんだと思う。
「ただ、今、出ると、まだ人が多いから、もうちょっとそこで休んだ方が良いかも。狭いけど。
あ、石川くん、ここに椅子、3つ、持ってきてくれる?うん、ありがとう。」
目黒さんの言葉に、石川が椅子を運んできてくれて、大丈夫か?すごかったなって、こっちも笑って声かけてくれて。
まだ目がチカチカして、どこかふらふらしてる感じはしたけど、みんなが暖かくて、ホッとした。
それから、オレたちは3人で窓の方を向いて座ると、体を寄せ合って、しばらくの間、人の波が引くのを待った。
「なんか、目黒、思ってたより、イイやつだな。」
昨日まで、彼女に警戒心しかなかった希良が、小さい声でそう言って、輝とオレは黙って頷いた。
「げ?」
ポケットから、自分のスマホを出した輝が、おかしな声を上げた。
「え?何?」
希良とオレが揃って覗き込んだ。
「なんか、体育館のフードコートに、三家族?いや、四家族だな。いち兄たちも、兄ちゃん、姉ちゃんたちも、全員集合してるらしい。」
「げ!」
「マジかよ?」
3人揃って、変な声が出て、それぞれ自分のスマホを確認した。
「ホントだ…。写真付きできてる。」
希良がなんともいえない声で言う。
オレの方にもほぼ全員から、似たような内容のメッセージが流れてきてた。
「ここ、行かなきゃダメ?」
「そーだなぁ。ちょっと面倒だけどな…。」
やれやれって感じで3人、顔を見合わせた。
「なんか食べもの沢山ゲットしたって、たく兄が。」
「あー、兄ちゃんもそう言ってる。小学校の運動会じゃないんだからさ。宴会だな、こうなると。」
もう、笑うしかなかった。
でも、その時、オレはもう一つのメッセージに目を奪われていた。
それは郡司からだった。
夏休み、海の近くの道の駅で、あんなことがあってから、しばらくは連絡出来ずにいたんだけど、文化祭でガンダム作ることになったから観に来いって、数週間前、オレの方から連絡したのだ。
『すげぇな、絶対、見に行く。楽しみにしてる。』
そう返事が返ってきたのに、それ以降、何の連絡も来なくて、ちょっと気になっていた。
両隣にいる2人に気付かれないように、そっと見ると、午後、1人で来るって書いてあった。
てっきり彼女を連れて来ると思っていたから、ちょっと驚いたけど、希良や輝のことを考えると、その方が良いのかもしれない気もして。
『これから休憩に入るから、着いたら連絡して。待ってる。』と返した。
少しして、人が少なくなったから、今なら大丈夫と、石川が声をかけてくれて、オレたちはようやく、休憩に入ることか出来た。
目立つから、ホントは制服に着替えたいところだったけど、時間がもったいないので、輝と希良はマントだけロッカーに押し込んで、そのままの格好で体育館に向かった。
すみません!またまた長くて…。
話が進まず、ちょっとダラダラしてますが、飽きないで読んでいただきたいです〜。




