文化祭〜其の参・巡る想い・好きの意味
いつも同じ形でも、それぞれがいつも同じ位置にいるとは限らない。
想いは巡る。同じ場所、同じ形をしたそのままでも。
色んな意味を変えながら。
輝とオレは、久しぶりに朝練に行く時間に待ち合わせて、希良もそれに合わせたバスで登校してきた。
そして、誰もいない教室で、持参したセルカ棒も駆使して、思う存分、完成したガンダムの頭と写真を撮った。
まぁ、映らなくていいという、オレの気持ちより、ここまで助けてくれた2人に報いたいという、そんな思いでオレも写真に収まった。
「よし、じゃあ、運ぶから、台車に乗せるの手伝って。」
そう言って、前の日に職員室から借りてきたおいた台車に、3人で息を合わせて慎重に乗せると、その上から見えないように、ブルーシートで覆いをかけた。
「これで文化祭前日までしばらくの間、お別れだ。」
「良かった〜、今日みんなで写真撮れて。
当日なんて、絶対、無理だよな。」
誰もいない廊下に、そんなオレたちの声だけが響いて、なんだかおかしかった。
職員用のエレベーターを使うことは昨日、台車を借りた時に許可を取っていたので、壁にぶつけないように一層慎重にエレベーターに乗せようとしていた。
が、その時、思いがけない人に、声をかけられた。
「樺沢!お前、それ、もしかして?」
振り向くと、物理の永田先生が、職員室から顔を出してこっちを見ていた。
「あ、おはようございます。えっと、文化祭のヤツで…。」
「あー、いい、いい。そんなのは。
ガンダムだろ?お前が図面起こして作ってるってヤツ?それ、完成したのか?」
なんか、オレたちの想像を超えたテンションの高さで先生が近づいてきた。
「そう、ですけど…。」
自分がかなり引いてるのを感じながら、答える。
「なんだよ!言ってくれよ。
楽しみにしてたんだぞ。ちょっと見せろよ。」
「いや、ここじゃダメですって!
3B室に持って行くんで、そこでなら、
でも、ちょっとだけですよ。時間ないんで。」
せっかくかけたブルーシートを外されそうになって、オレは慌てて、ガードした。
「わかった、3Bだな。すぐ行くから。待ってろよ。」
永田先生の捨て台詞みたいなのを置き去りに、オレたちはエレベーターにのりこんだ。
3階に着くとまた、そろそろと台車を押して、やっと3B室にガンダムの頭を運び込み、前もって机をいくつも繋げて作っておいた置き場所に、恭しくそれを置いた。
「ふー、2人とも、ありがとな。助かった。」
「いやいや、オレらも楽しかったし。てか、まだこれからだよな。本番、楽しみ。」
希良のそんな言葉に、頷いてた時だった。
「樺沢!いるか?」
開け放したままだった入り口から、永田先生が飛び込んできた。
それだけでも十分、驚くのに、なんと、先生は1人じゃなくて。
「校長、谷先生、これですよ、ウワサのガンダム。」
え?校長先生?なんで?
そこには永田先生だけじゃなくて、校長先生、化学の谷先生ほか、理系科目の先生がほぼ勢揃いしていた。
「おい、約束だろ、ちょっと、シート外してくれよ。」
永田先生が急かしてくるが、それを制して校長先生が前に出た。
「いや、樺沢君だったね。せっかくキレイにカバーしたのに申し訳ない。
でも、少しでいいから、見せてもらえないかな。」
さすが、校長先生はきちんとしてらっしゃる。
「ホント、時間ないのに悪いな。ちょっとでいいんだ。 実はみんな、これが完成するの、楽しみにしていたんだよ。」
「樺沢君だったら、相当すごいのが作るんじゃないかって、職員室で我々、ずっと前から大盛り上りで。
あ、校長先生も元々物理の先生でね。
まぁ、我々揃って、ガンヲタの先輩って思ってもらって構わないんだ。」
先生たちからそんなことを口々に言われ、お願いされて、なんかもう、逃げ場がなかった。
「はぁ、わかりました。でも、もう、教室戻らないと…。」
「それなら、大丈夫。担任の田辺先生と葉山先生には、君たちが校長先生の用事でちょっと遅れるって、話し通してきたから。」
マジか?そこまでして?
「田辺先生には、今まで散々、自慢されてたんだよ。
先生は途中、見てたんだろ?」
「はあ、担任なんで。昨日も完成したって報告した時に、見に来てますし。」
そういえば、理系の先生、勢揃いなのに、担任の田辺先生はいなかった。
「えぇ?それ、聞いてないよ。」
「いや、もう、校長、ちょっとこれは問題です。」
「うん、確かにそうですね。」
すでに引けるだけ引いてるオレは当たり前のことしか言えないが、それに対してのリアクションが、全て斜め上に行ってる。
オレたちのそんな様子に構うことなく、先生たちの圧は増す一方で。
仕方なく、2人に手伝ってもらって、ブルーシートを外した。
『おぉ〜!』
すごい歓声と巻き起こるフラッシュの嵐。
「やっぱりファーストガンダムの、このゴツい感じ、たまんないな。」
「何分の一スケールだっけ?」
途中、そんなマニアックな言葉が出てきて、先生たちの撮影会の盛り上がりは、とどまることを知らなかった。
自分を棚に上げて、ヲタクってこえぇなぁと、輝に耳うちして、声を立てずに大笑いされた。
その週の金曜日。
オレたちは文化祭の準備や、修学旅行の係を早目に抜けて、塾に来ていた。
選択は違っても、基本科目の授業は一緒だったから、5年ぶりに3人、机を並べて授業を受けてた。
この状況、オレは素直に嬉しくて。
なんか、これからも頑張ろうと、密かに思っていた。
「今日、ちょっと一緒に帰れない。
なんか、残れって言われた。」
授業が終わって、さあ帰ろうという時になって、希良がつまらなそうに言ってきた。
「あー、アレか、医薬系選抜?」
輝がなるほどと、頷きながら言った。
そう、希良は病院の一人息子だから、医学部志望で、選抜クラスに呼ばれるのは当たり前というか。
聞いた話では、医学部合格は問題なくて、どこまで上を目指すか?というから、なんかすごい話だった。
「みずきも一緒に行こうよ、医薬系選抜。
同じ理系なんだから、いいじゃん。」
「はぁ?なんてことを。
簡単に言うなよ、そんなん無理に決まってるだろ。」
「ダメだよ。みずきはまだこっちにいて。」
もう慣れっこになってる2人の掛け合いも、今のオレには心地良いし、嬉しくて仕方ない。
文化祭の準備や塾のことに追われて、慌しく過ごしていたけれど、最近は発作が起きることもなくて。
一見、落ち着いていたけど、まだまだ、オレの中ではパラレルワールドのように、2つの時間軸、2つの記憶が混ざり合って、1人の時に混乱することも多かった。
だから、こんな風に2人に挟まれてると、何も考えず、安心して過ごすことができた。
でも、その日は、ふくれっつらの希良を残して、輝と2人で帰ることになった。
途中、電車の中で、ふと、輝に元気がないことに気がついた。
希良と別れるまではそんなことなかったのに。
いつもなら、オレの顔見て、ニコニコ話してくれるのに、今日はなんだか黙って下を向いてる。
「かがや?どうかした?なんかあった?」
そう言って、輝の顔を下から覗き込んだ。
「最近、みずきがちょっと遠い。」
聞き取るのがやっとくらいの小さな声で、輝がボソッと言った。
「え?なんで?そんなことないよ。」
即答でそれを打ち消したけど、輝は黙ったまま、下を向いていて、オレがオロオロしてる間に、降りる駅に着いてしまった。
「かがや、降りるよ。ちょっと話そ。」
オレは輝の手をひいて、電車を降り、改札を出ると、いつものファミレスじゃなくて、図書館のある公園に輝を連れて行った。
図書館の裏手、誰もいないベンチはもう、肌寒かったけど、輝を座らせると、オレはあらためて顔を見て、言った。
「文化祭の準備が忙しかったから、あんまり一緒にいられなくて、ごめんな。
かがや、クラス違うのに、たくさん手伝ってくれて、オレ、すっごく感謝してる。ありがとな。」
「ううん、それはいいんだ。オレの方こそ、仲間に入れてもらって、色々やらせてもらって。ありがと。」
輝の声は沈んだまま、顔も下を向いたままだ。
なんかオレ、拗ねた恋人の機嫌を直そうとしてるみたいだな。
そんな風に思うと、ちょっと笑えたけど。
なんか輝が可愛くて、仕方なくなった。
「輝、こっち見て。オレの顔、見て。」
そう言うと、やっと、輝が顔を上げてオレを見た。
で。
その輝の顔を、両手で挟んで…そのまま、唇を、軽くだけど、重ねた。
「え?」
「な、遠くなんてないだろ?」
驚いた輝に、オレはにっこり、笑って、そう言った。
でも、次の瞬間、輝が泣き出すかと思うくらい、眉がぐっと寄って、整った顔が歪んだ。
「ど、どうした?あ、嫌だった?ごめん!」
オレは慌てて謝ったけど、輝はそれに首を振って、
「イヤじゃない。」
そう言うとオレの首に腕を回してきた。
「オレ、最低だ。」
「なんで?そんなことない。いつも優しいじゃん。
オレ、かがやがいなかったら、ここでこうしてられない。」
「違う。」
体を離して、輝が首を振る。
「オレはそんなヤツじゃないよ。
ここんとこ、ずっと、思ってるんだ。
みずき、きらのこと、思い出さなきゃ良かったのにって。
そしたら、オレだけのみずきだったのにって。」
泣いてはいないけど、今にも泣き出しそうな声だった。
「それだけじゃない。石川たちや、他のヤツら、この前の先生たちにだって。
みずきがすごいとか言う人たちに、そんなのオレがもっと、ずっと前から知ってる、オレのみずきがすごいのは、ずっと前からなんだって。」
一息でそこまで言うと、また、下を向いた。
「うーん、それは、そんな風に思うのは、仕方ないな。」
そう言いながら、オレは横に並んで、輝に体をくっつけた。
「え?」
「まぁ、ちなみに、オレも最近、かがやのことで、似たようなこと、思ったけどな。」
泣きそうに目を潤ませて、やっと、オレの顔をみた。 それはもう、めちゃくちゃキレイな顔で。
「いつ?どんなこと?」
「先週、かがや、1年の女子に告られてただろ。」
「え、なんで?」
「その何日か後にも、A組の女子から、手紙、渡されてた。」
「見てたのか。」
「まぁ、どっちも偶然ってか、たまたま通りかかったんだけどな。
あとさ、その前に、オレが葉山先生にポスターカラー貰いに、美術室に行った時。
かがや、クラスの、青木だっけ?メリーゴーランドの馬に色塗ってて。」
「ああ、あったな、そんなこと。」
「うん。その時、青木がかがやのこと、仕事が早くて丁寧だし、仕上がりもキレイだって、褒めてて。
オレ、それ聞いて、なんだよって思ったんだ。」
「え?なんて?」
「かがやと同じ。何言ってくれてんだよ、そんなの当たり前だろ、って。
オレはそんなの、ずっと前から知ってんだよって。
まぁ、ちょっと、忘れてたけど…。」
そう言って、輝の顔をみて、笑った。
「告ったり、手紙渡してた女子に対しても、何してくれてんだよって、そう思った。オレのかがやに。」
そこでちょっと目を逸らすと、今度は輝がオレの顔を覗いてきた。
「そんな風に思ってくれたのか。」
輝がやっと少し、笑った。
「あ、その女子たちには、ちゃんと断ったから。」
「うん。」
そこで2人、なんかハハハって笑って、空気が緩んだ。
「だからさ、オレはかがやの事が好きだから、かがやはオレの事が好きだから、そんな風に思うのは、仕方ないんだよ。」
その「好き」の意味について、オレは、深く考えてなかった。
今は、まだ。
ただ、輝がそんな風に思うことを、否定したくなかったし、さっき言ったことも嘘じゃないから、自分でそれを否定したくなかった。
「まぁ、きらの事は、ちょっとな。」
「うん、それだけは、ごめん。」
「謝らなくていいけど、ここだけの話にしとこ。」
「うん、そうだな。」
そう言うと、輝がオレの手を握り、オレも、それに応えて、握り返して。しばらくお互い、黙っていた。
気まずい沈黙、じゃなくて、何かの余韻を味わうように、2人とも、何も言わなかった。
瑞稀と輝が先に帰ってしまったので、オレは1人で駅のホームにいた。
「あれ、どうした?1人か?」
そう声をかけてきたのは、たく兄だった。
「あ、たく兄。うん。今日はみずきたちは先に帰った。
オレ、塾の選抜クラスの説明受けてて。」
「あー、そうか、医薬選抜?
もうそんな頃か…お疲れ様。」
「たく兄は?バイト?」
「いや、ゼミの集まりだったんだけど、ちょっと先に抜けた。でも、抜けて正解だったな。きらと会えるとは、ラッキーだな。」
その顔を見て、声を聞いているうちに、なんか全身に無駄にかかっていた力が抜ける気がした。
ホントに、この人がオレの兄ちゃんだったらいいのに…。
「どうした?疲れたか?なんか、あれだろ?
きらは修学旅行の委員になって、大変なんだろ?
みー助が言ってた。」
「あー、うん。みずきと離れちゃって、なんかつまんなくて。」
「その上、医薬選抜になれば、ますます2人と離れるから、寂しいか。」
「え?」
「そうだろ?」
そうなんだけど、何かもうちょっと違う気持ちもあって、たく兄になら、言ってしまいたくなった。
「それだけ、じゃなくて。」
言ったものの、続けられずに黙ってしまった。
「そか。わかった。車、駅に置いてあるから、送ってくよ。乗ってから、聞かせて。良かったら。」
その言葉に何も言わずに頷いた。
そうは言ったけど、車に乗っても、たく兄は無理に聞き出そうとすることもなく、車も出さず、ラジオをいじったり、寒くないかと聞いてエアコンをつけてみたりしていた。
「おれ、なんか、おかしいのかな。」
たく兄が作ってくれる、暖かくて、のんびりした空気に気が緩んだのか、そんな言葉が口から出た。
「うん?何が?」
「うーん、なんか、色々、ちょっとモヤモヤしてて。」
そか、と軽くうけて、オレの頭をポンポンっと撫でる。
「きらたちくらいの頃は、モヤモヤして当たり前だけどな。まぁ、お前ら3人は、あんな事もあったから、色々考えるだろうし。」
明るかったたく兄の声が、あの事を話す時だけ暗くなる。
「そう、なのかな。当たり前、なのかな。」
「ってか、お前たち3人、順番に凹んでないか?」
でも、暗くなったのほ、ほんの一瞬で、すぐに茶化すような口ぶりで、オレを見て来た。
「順番?」
「そう。2週間くらい前?
そこら辺で、かがやを拾ったことあって。
今のきらと同じ、みー助ときらが文化祭のことでクラスに残ってるから1人だって、やっぱりどんよりしてて。
そのすぐ後には、みー助がウチに1人で来て、いち兄相手に何か知らんがどんよりしてたし。」
笑うとこじゃないな、と言いながら、それでもたく兄はちょっとおかしそうな顔をしてオレの方を見た。
それはどっちも、知らないことだった。
「そんなこと…知らなかった。」
理由はないけど、自分だけがこんな風にモヤモヤしてて、瑞稀も輝も、そんなことないような気がしてた。
「まぁ、全部は話せないけどな。かがやが言ってたのは、さっき、きらが言ってたのと大差ないかな。」
「そう、なの?」
「ん、2人はクラスが一緒で、自分だけ1人で、なんか寂しいって。同じだろ?」
そう言うと、オレの頭を、いつも瑞稀にするように、ぐしゃぐしゃにして、撫でた。
「みー助のモヤモヤはアニキが聞いてたから、オレは知らないけどな。」
瑞稀は何があったんだろう。
ここ最近はずっと一緒にいたから、そんな様子に心当たりがなかった。
「まぁとにかく、悩むのまでお揃いて、ホント、仲良いな。」
そう言うと、ギアをドライブにいれて、ゆっくり、車を発車させた。
「でも、それだけじゃ、ないんだろ?
きらのモヤモヤは。」
そうだった。さっき駅でそんなことが口から出てしまったこと、思い出して、何をどう言えば良いのか、分からなくて、言葉を飲み込むと、ゴクンと喉がなった。
「ノド、渇いた?」
「あ、うん。ちょっと。」
誤魔化すために言ったことに気が付いてるのか、たく兄はちょっと笑って、近くのコンビニに車をとめた。
「何がいい?きらはいつもウーロン茶か?」
買って来てやるぞーと、スマホを手にして降りようとするたく兄の腕を、オレは無意識に掴んでいた。
「ん?どうした?違うのがいいか?」
「そう、じゃなくて。」
ちょっとの間の沈黙。そして。
「ハグ、して欲しい。」
たく兄の顔を見られないまま、オレは知らないうちにそう言っていた。
「ん?」
たく兄が、確かめるように、オレの顔を覗き込んだ。
「あ、うそ、なんでもない。ごめんなさい!」
やばい、オレは何を言ってるんだ。
慌てて掴んでいた腕を離すと、助手席側のドアを開けて、外に出ようとした。
でも、それより早く、腕を引かれて、気が付いた時にはたく兄の腕の中にいた。
「おいで。大丈夫だから。」
たく兄の腕の中は思っていたよりずっと熱くて、広くて。
そして、思っていたより、ずっと強く、抱きしめてくれた。
「心配しないで、大丈夫。オレがいるから。な。」
その言葉に縋るように、オレもたく兄を強く抱きしめていた。
またまた長くてすみません!
3人の色々な思いを書いていたら、途中で切れなくなってしまいました。
でも、ガンダムを囲む先生たちのシーン、どうしても、入れたかったのです。
この先生たちは、ほぼほぼ筆者自身の写し身で…ww
これからも登場しますので、お見知りおきくださいねww




