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文化祭〜其の貮・深まりゆく心

どんなに幼くても、社会は形成されて、誰もがその中で生きていく。

高校生は子どもではないけれど、大人というにはまだ少し幼い。それでも、理不尽な社会というものの中で、生活して、成長していく。

 文化祭の準備が本格化してくると、学校全体が落ち着かない空気になってくる。


 しかも2年生は後半、修学旅行の準備も並行してしなくちゃいけなくなるので、その空気感は濃密なだけじゃなくて、殺伐とさえしてる。


 そのあおりをくらったとでも言えばいいのか、希良のふくれっつらが治らない。

 オレと一緒にロボカフェを全力で作り上げるつもりだったのが、修学旅行の準備委員に選ばれて、宮﨑ともう一人の女子と組んで、しおりの作成やら、諸々の手配のために、文化祭の準備から外れることになったからだ。


 それには多少の策略めいた感じもあって。

 田内なんかははっきり、希良に向かって言っていた。

「やられたな、田宮。

 あいつら、最初から、樺沢とお前を引き離すつもりだったんだぜ。」

 それでますます、希良は不機嫌になった。


 とはいえ、傍目から見れば、ちゃんと推薦されて、挙手によって選ばれたんだから、何も文句は言えない。


「みずきと一緒なら、なんでもやるし、頑張るけど、そうじゃないのに準備委員なんて、何ひとつやる気しないし、頑張れない。」

 バス待ちの空き教室で、そう言って不貞腐れる希良に、オレも輝も何も言えなかった。

 何故なら、2人とも同じ気持ちだったから。

「係は違うことになったけど、お互い頑張ろう。」

 なんてこと、軽々しく口にしたくもなかったのだ。

「せっかく、一緒にここまで作ってきたのに、オレもロボカフェ、もうやめたい。

 1人でなんか出来ないよ。」

 そう言って、オレも、凹んだままの気持ちが、どうにも上を向かない。

 輝は元々、クラスが違うのが面白くないから、オレたちを慰めるとか、励ますなんてことは、まずないし。

「なんだよ、その話。聞いてるだけで、気分悪い。」

 オレたちの中で誰も、立ち直ろうとするヤツがいなくて、3人揃って闇堕ち上等と言ったところだった。


 それでも。

 高校生でも、社会的にやらなきゃいけないことはわかってて。

 実際、それは毎日こなすだけ、起こってくるもので。

 理不尽でも、無情でも日々は続いて行くわけで。

 

 オレは石川たちに助けられて、何とかロボカフェを形にしていったし。

 希良は宮﨑に対して色々思いながらも、なんとかやっているようだった。


 宮﨑は希良がオレたちと離れてる時、一番一緒にいたヤツなんだから、気が合わないわけではないのだ。

 まぁ、毎日のように、地元のファミレスに3人集まって、愚痴こぼし合い、時にはうまくいった事を喜び合うことで、3人で、なんとか支え合っているところが大きかったけれど。

 

 そんなこんなで、文化祭を間近に控えた、ある日の放課後。

 オレは石川たちと、出来上がった、段ボール製のガンダムの頭(というか、胸から上)に色を塗り終え、みんなが絵の具類を片付けに行ったあと、床を拭いて、余った段ボールをまとめてる時だった。


「あれ?珍しい。樺沢ひとり?」

 突然、教室の入口から、声をかけられた。

「おお、お疲れ。うん、ちょうど作業終わって、みんな片付けに行ってる。宮﨑は?終わったの?」

 今日は先生たちも含めてのしおりの詰めだと、希良から聞きていた。

「うん、こっちも終わったとこ。

 結構、時間かかったー。

 あ、田宮なら、まだ校内にいるかもよ。連絡したら?」

 意外な言葉をかけられて、ちょっと驚いた。

「そか、ありがと。でも大丈夫。まだ、もうちょっとかかるし。」

「そっか。」

 宮﨑は自分のロッカーを開けて、荷物を取り出したあと、オレの後ろに置かれたガンダムの頭に近づいて、じっと見ていた。


「なんか、すげ〜な、お前。」

「へ?あ、そう?ありがと。」

 突然、そんなことをいわれて、またまた驚いたオレは、思わず変な声が出た。

「田宮から聞いたけど、樺沢、これの本物作ろうとしてるんだろ?だから、ロボット工学やりたいんだって?」

「あー、まぁな。田宮、そんな話したんだ。ちょっと恥ずかしいんだけど。」

 いつものクセで、オレは冗談っぽい方向に持って行こうとした。

「なんで?オレ、それ聞いて、お前のこと見直したっていうか。

 あ、悪いけど、それまでは、ただの理系オタクだと思ってて。」

「ははは、それ、間違ってないから、ぜんぜんいいよ。でも、見直してくれて、サンキュ。」

 まったくその通りなので、否定する気にもならず、前に「半端なヤツ」と言われたことはまだ、心の底にあったけど、褒められた事は素直に嬉しかった。


 そう言えば。

「宮﨑、オレ、ずっと言いたかったんだけど。」

「え?何?」

 今度は、宮﨑が驚いて、身構えた。

 突然、そんな風に言われたら、まぁ、そうなるよなって反応だった。

「二学期になってから、オレが田宮と一緒にいるようになって、宮﨑、それまで一緒だったのに…うまく言えないけど、なんか、ごめんな。」

 宮﨑の肩から力が抜けるのがわかった。

「なんで、樺沢が謝るんだよ。

 お前たち、保里も入れて3人、元々、こうだったんだろ?それが元に戻っただけだって、田宮が言ってた。

 そんで、田宮にも謝られた。」

「え、そうだったんだ。」

 気まずい沈黙が流れた。


「あのさ、樺沢は、わかってくれるかもしれないから、正直に話すけど。」

 思い切ったように宮﨑が沈黙を破る。

「うん?何?」

「オレ、きらのこと、好きなんだ。

 なんていうか、友だちとしてじゃなくて、恋愛っていうか。今も。」

 下を向いて、オレの顔を見ずに、最後は消えそうな声だった。


 学年トップ争いの常連で、オレ様キャラの代表選手みたいなヤツだと思っていた宮﨑が、こんな風なのは驚かされるけど、なんか、意外と可愛いヤツなんだな、と思った。


「そうか。わかるよ。田宮、いいヤツだし、一緒にいて楽しいもんな。可愛いくて、魅力的だし。」

 宮﨑に合わせたわけじゃなくて、オレもいつも思っていることだったから、そう言って、宮﨑の肩を叩いた。


「お前はどうなの?」

 急に顔を上げて、目を覗き込まれた。

「オレは…。まだよくわからない。正直なところ。

 前から一緒にいたけど、ちょっとブランクあって、また最近一緒にいるようになったのは、嬉しいんだけど。今は、一緒にいるってことだけが大事な気がしてて。」

 多分、誰にも言ったことのないだろう、宮﨑の本心。 それを聞かされて、適当なことは言えないと思った。

 でも、これが今のオレの本心で。


「そか。良かった。その言葉が聞けて。」

「え?」

「樺沢がきらのこと、いい加減な気持ちで見てるんじゃないって、わかったから、今はそれでいい。

 オレの気持ちは変わらないから。」

 最初の印象が強すぎたからか、宮﨑のこと苦手だと勝手に思っていたこと、ちょっと反省してた。


「ごめん、お待たせ!意外に時間かかって…あれ?

 宮﨑、どうした?」

 そこに石川たち3人が戻ってきた。

「おう、お疲れ。いや、ちょっと鞄取りに来て。これ、すごいって話してたとこ。すごいな、マジで。」

「だろ〜!オレら、渾身の作だからさ。あ、なんなら今、写真撮る?」

「いや、オレが撮るから、お前ら並べよ。

 ほら、樺沢、真ん中。」

「え、オレ?」

 宮﨑がそう言って、お互いのスマホを構えて、しばらくの間、撮影会になった。


「じゃあな、お疲れ〜。」

「いいの?樺沢、最後頼んで?」

「うん。大丈夫。これ、先生に渡して、報告してから帰る。お疲れ。」

 そう言って、石川たちと教室の前で別れて、オレは諸々、担任の先生に預けるものを持って、1人、職員室に向かった。


 途中、スマホを確認すると、希良と輝から、それぞれメッセージが届いていた。

『みずき、今、大丈夫?なんともない?

 宮﨑から、みずきと話したってLINEきて。

 何言われた?大丈夫?』

 宮﨑、オレと話したなんて、希良に言わなきゃいいのに、正直なヤツだなぁ。

 でも、何を話したか、は言ってないのか。

 それはそれで、宮﨑らしいのか?

 で、希良は相変わらず、過保護だし。


『きらが落ち着かないから、早く来て。』

 こっちは輝からだった。

 どうやら、2人はもう合流して、輝が希良をなだめてるみたいだった。

 オレは1人で、ニヤニヤしながら、廊下を歩く怪しいヤツになっていた。

『大丈夫。これから学校出る。』

 その言葉と一緒に、さっき撮った写真、ガンダムの頭を挟んで、宮﨑とオレが笑顔のヤツを送って、その反応を見ずに、スマホを鞄にしまった。

 

「みずき!遅いよ!」

 いつも集まる地元の駅前のファミレスにオレが入って行くと、もう希良がキレかけてた。

「あんな写真送っておいて、既読スルーかよ。」

「ごめん、ごめん。

 職員室でナベせんとちょっと話が長くなって。

 そこから急いだから、返信する余裕なかった。」

 苦笑いして希良に謝りながら、輝の方を見ると、何も言わないけど、目の奥に心配を溜め込んでる顔をしていた。

「かがやも、ごめんな。心配かけて。でも、大丈夫だから2人とも、安心して。」

 いつものように2人の間に座ると、まずは希良の首に腕を回してギュッとした。


「きらも宮﨑にオレたちのこと話してくれたんだな。ありがと。」

「あ、いや、うん。前みたいなことになるのは嫌だったから。あ、シメたんじゃないぞ!」

 慌てて付け加えた希良が可愛くて、回した腕にちょっとだけ力を入れた。

「わかってるよ。それがあったから、宮﨑、別にオレを攻撃するみたいなこと言わなかったし、出来上がったガンダム、めっちゃ褒めてくれて。

 その写真、宮﨑が撮ろうって言ってくれて、石川たちも一緒に、めちゃくちゃたくさん撮ったんだ。他のも見る?

 ちょっとな、オレは映るのイヤだったんだけど。」

 希良から腕を離すと、輝の方に体を寄せて、スマホを取り出し、さっき撮った写真を2人に見せた。


「え、何これ、羨まし過ぎるんだけど。オレも撮りたい。みずきと一緒に。ダメかな、クラス違うと?」

 それまで黙っていた輝が食いついて、オレの方にグイグイ近づいてきた。

「大丈夫だよ。明日の朝、いつもより早く行って、これ隠すんだ。

 まぁ隠すっていうか、クラスの保管場所に移動させるだけだけど。

 シートかけて運ぶの、2人に手伝って欲しいって思ってたんだ。

 そしたら、その時、撮る時間ある。

 オレは、もういいよ。映らなくて。」

 輝とオレは毎朝、待ち合わせているから、元々、明日は早く行くって言うつもりだったし。

「なんでだよ。すぐそんなこと言う。

 みずきが一緒じゃなかったら、意味ないだろ。」

 輝があきれた顔をして、俺を見る。

「え、もちろん、オレもやる。何時のバスで行けばいい?」

 希良も当然、一緒に撮りたいって言ってくる。

 同じクラスでも、文化祭の当日はそんな暇ないと思うし、お客さん優先にしなきゃいけない。

 ゆっくり撮影したいなら、文化祭前、しかもクラス別の保管場所に持っていく前の今が一番のチャンスなのだ。

 そんなわけで、希良の心配も落ち着いて、輝も次の日をワクワクして待つ状態で解散することになった。

 

 ところが次の日、事はオレたちの想像を軽く超える事態になる。

いよいよ、文化祭編が本格化しました。

3人の関係が、色々あって変わっていきますが、ちょっと長いので、飽きないでいただけるとうれしいです。


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