文化祭〜其の壱・秋の入り口
秋の初め、まだまだ夏の気配が残る中。
清んでいく空気にいろいろな思いもゆっくりと冷めていく。けれどある温度からは、絶対に冷えることはない。
二学期は何かとイベントの多い季節だ。
10月の半ばには文化祭があって、それが終わると、中間テストの後、オレたち2年生には修学旅行が待っているのだから、とにかく、慌しい。
しかも、超のつく進学校だからって、イベントに力を入れないかと言うと、そういうこともなく。
新学期早々に、文化祭の企画を出し合うことになったのだけど。
正直、希良も輝もオレも、こういうのは苦手、というか、進んで盛り上がるタイプじゃない。
係を割り振られれば、それなりにこなすけれど、そこまでだった。
なのに。
「え、ロボカフェ、良くない?」
そう言ったのは、なんと、石川だった。
「思った!良いよな?」
石川と仲の良いヤツらが、次々と賛同する。
(マジ?やめてくれ。)
その様子を、オレは出来るだけ、感情を出さずに見ていた。
途中、希良が心配そうにチラッと見てきたが、煽らないように、すぐ前を向いた。
ロボカフェ、つまりロボットをテーマにしたカフェ、というのは、必ず1人一案と言われてオレが出した、苦し紛れのやっつけ企画だった。
他のヤツがもっと面白い企画を出すだろうし、ロボットなんて女子が食いつかないだろうと、たかを括っていたのだけど。
事前の文化祭実行委員の選考をくぐり抜け、全員で選ぶ十個の候補に何故か残って、今、ここである。
オレが出したと知れば、希良のファンとか、反対してくれる人?もいるのかもしれないけど、この段階で誰の案かはわからないようになっている。
そして。
「では、我がクラスの文化祭、ロボットカフェ、に決まりました。拍手〜!」
こういうのは、一度盛り上がると、どうにもならない。
1人、こんなの女子の出番がない、と反対意見も出たが、何がなんだか、説き伏せられてた。
「ありえねー。」
机に突っ伏してつぶやくオレ。
「大丈夫か?みずき?」
「いいじゃん、お前の案なら、ちゃんとした企画と設計、してくれそうで、安心した。
オレ、めっちゃ楽しみ。」
「オレも、オレも。」
「オレら、協力するからさ、楽しもうぜ。」
HRが終わって、希良は心配して、石川とその仲間2人は、盛り上がりの余韻で、オレの周りに集まってきてた。
「じゃあ樺沢君、来週の月曜日までにもうちょっと、具体的な企画、作ってきてね。」
実行委員で、クラス委員の目黒さんが、ちょっと、いやまぁまぁキツめに言って、教室を出て行った。
目黒さんは希良の大ファンだから、前からオレにアタリが強いのだ。
「うわ、キツいな、目黒。」
「アイツ、田宮推しだから、樺沢にキツいんだろ。」
石川たちがオレの心を代弁してくれて、オレは心の中で(お前たち、いいヤツだなぁ。)と涙していると。
「え?何それ。感じ悪。」
希良が吐き捨てるように言って、石川たちがドッとウケる。
「田宮〜、お前、面白いな。」
石川の仲間の田内がさらに笑う。
「乙女心、分かってやれよ。」
同じく松尾が茶化してきた。
「いや、知らんよな、田宮。お前は樺沢の方が大事だもんな。」
最後にワケ知りに石川がまとめる。
石川と松尾は一年の時から同じクラスで知ってるけど、もう1人田内は今回初めて喋ったくらいだった。
けど、なんか囲まれてても、気持ちいいヤツらだった。
「おう、そういうこと。石川、分かってんじゃん。」
多分、希良もそう感じたんだと、その言葉で分かった。
「え?マジか、それ?みずき、大丈夫?
それ、中心になってやるってことだろ?」
「ダメ。既に心が折れてる。」
放課後、いつものようにバス待ちをしながら、オレは思いっきり、輝に愚痴ってた。
「でも、みずきが考えるロボカフェか。
確かに面白そうだよな。
ウチのクラスの企画より、ずつとさ。」
「かがや、それ、ダメ!」
希良が輝を止めるのとほぼ同時に、オレは輝をジロって、恨めしそうに見た。
「なんで、みんなそんなこと〜。
オレがロボットヲタクだって、なんでみんな知ってんだよ。」
その言葉に2人が顔を見合わせる。
「いや、見てれば…な。」
「まぁ、高校でガンダムのペンケースってのも、な。
あ、それにほら、この前、発表会の準備中、オレとかなり熱く、エヴァとガンダムについて語ったことあったじゃん。あれ、結構、聞かれてたと思う。」
確かに。言われてみれば、思い当たることだらけだ。
「もーどうすりゃいいんだよ。」
頭を抱えるオレを、2人が肩を抱いて、慰めてくる。
「土日、オレ、空いてるからさ。みずきんちに行って良い?一緒に考えよ。」
「オレも行く。クラス違うけど、手伝わせて。」
この2人にそんなことまで言われて、いい加減なヤツ作るわけにいかない…オレのヲタク心に小さく火が付いた瞬間だった。
土曜日の朝。
希良と輝がウチに来た時にはもう、オレの部屋はプリントアウトした紙ですごいことになっていた。
「うわ、何これ?みずき、1人でやったの?」
「すげ〜、寝てない?もしかして。」
輝と希良に驚かれたけど、その通りで。
「ん、なんかやり出したら、止まらなくて。
ごめん、せっかく来てくれたのに、ちょっとだけ寝ていい?
ざっくり、分けてはあるから、見てもらえる?」
「オケ、このあとはオレたちが見ながら仕分けるから。
寝ていいよ。みずき。」
希良にそう言われて、実際、ほとんど寝てないオレはもう、ベッドに倒れ込んだ。
「やっぱ、みずき、すごいわ、」
希良がそんなことを言ってるのが遠くで聞こえる。
「だな。なんだかんだで、地頭いいのは、みずきなんだよな。」
そんな声が聞こえて、優しく、頬を撫でられ、額にキスされたような気がした。
「かがや、襲うなよ、まだ。
これ片付けてから、一緒にだぞ。」
(いや、片付けてからも、一緒にも、襲うとかないし。)
そう思ったけど、もう意識を保つことも出来ず、オレは眠りに落ちていった。
「みー、起きて。起きなさい!」
目を覚ましたのは、まち姉に起こされたときだった。
「え、ごめん、今、何時?」
寝ぼけた頭で聞き返す。
「もうお昼だよ。ダメじゃない。
2人に来てもらってるのに。」
そう言われて、飛び起きた。
「ごめん!オレ、すっかり…。」
はっきりしてきた意識の中で、自分の部屋を見回すと、キレイに分類されて、整えられた紙の山が目に入ってきた。
「あー、ありがと。ごめん、ちょっとだけ寝るつもりだったのに。」
「大丈夫。よく寝てたから、起こさなかった。」
輝がニコニコして、重ねた紙の山を整えてる。
「でも、そろそろお腹空いてきたから、起こすか、って思ってたとこ。」
希良も笑いながら、紙のたばを留めていた。
「今日、お母さんいないって言ってたでしょ?
お昼、焼きそば作ったから、3人とも降りておいで。」
そう言われて、3人ゾロゾロと付いていく。
ダイニングに行くと、テーブルの上にホットプレートが置かれて、その上で焼きそばがソースのいい匂いをさせていた。
「おー、うまそう。すみません、ご馳走になります。」
輝がそう言って、希良も一緒に頭を下げた。
「いえいえ、遠慮なく食べてね。
あ、でもちょっと量を控えめにしてあるのよ。
夜があるから。」
「夜?何かあったっけ?」
「お母さん夜もいなくて、希良くんと輝くんが来るのにそれじゃ申し訳ないって言って。」
そこまできいて、オレはピンときた。
「まさか、夜は…?」
「あ、それって?」
希良もわかったらしい。
「そう、そのまさか。
夜はみんなで叔母さんとこ、行くから。
お母さんが頼んだら、叔母さん、大喜びしてたみたい。」
まち姉の笑顔が少し硬いのか気になるけど、2人が喜んでいるから、それには気付かないふりをしておいた。
「6時くらいに車で出発するから、それまで頑張って。」
焼きそばを食べ終えたオレたちは、食後のアイスを手に、部屋に戻った。
「うわー、あらためて、ごめんな。
ここまで整理してくれて。大変だったよな。」
「いや、でも、大体、分類されてたから、そこまでじゃなかったよ。」
「うん、それに、面白かった。
ガンダムだけかと思ったら、エヴァもあるし、まさかのアンパンマンにドラえもんまで。
もうこれ、箇条書きにまとめたら、大丈夫なんじゃね?
「そう?ありがと。良かった。
2人がそう言ってくれたら、なんか出来そうな気がしてきた。」
オレはなんか安心して、そこから、途中、休憩を挟みながら、2人に相談に乗ってもらって。
なんとか企画書のようなものを作り上げた。
「なるほど、ロボットカフェね。
面白そうじゃない。みーらしい。」
車に乗ってから、やっと、今日の主旨をまち姉に話していた。
「でもオレ、企画はともかく、それをみんなに説明して…とか、無理そうで。
で、2人が力を貸してくれるって。
かがやなんて、クラス違うのにさ。
ごめんな。ありがと。」
今日はまち姉に気を遣って、2人が後ろの席、オレは助手席に乗ってたので、降り向いてそう言った。
「えー、逆にありがとうだよ。
クラス違うのに、オレも仲間に入れてくれてさ。」
「いや、この状況で、かがやを仲間に入れないのはないだろ。な、みずき。」
「そう、きらの言う通り。あ、でも他のヤツらには内緒な。」
「それは、もちろん!」
ちょっとふざけて言ったら、輝が大真面目に答えて、なんか笑えた。
「よう、いらっしゃい。久しぶり。」
「いらっしゃい!みんな、良く来てくれたわ。
待ってたのよ〜。」
たく兄と叔母さんが、オレたちを待ち構えていた。
「お邪魔します。
叔母さん、ごめんなさい、また大勢で押しかけて。
たく兄、久しぶり。今日はいち兄は?」
「みーちゃんったら、もう、そんな遠慮しないで。
以知はちょっと出かけてるけど、みんなが来るって連絡したら、急いで帰ってくるって。
まちちゃん、ありがとね。ウチに来るの久しぶりよね。ゆっくりしてって。」
「ありがとうございます。お邪魔します。」
まち姉はまだ少し硬かった。
「まち姉、この前はごめんな。
今日はみんなを連れてきてくれて、ありがとな。」
後ろでたく兄が、そんなことを言っているのが聞こえたけど、まち姉がそれになんと答えたのかは、聞こえなかった。
「へー、やるじゃん、みー助。
ロボットカフェなんて、面白そう。
オレ、絶対、見に行く。
部活の後輩から、手伝いも頼まれてるし。」
「別にいいよ。来なくて。
そもそも、やっつけで出した企画だったのに、なんか盛り上がっちゃっただけだからさ。」
なんか照れくさくて、素っ気なく言うオレ。
「えー、最初はやっつけだったのかも知れないけど、今日の見てたら、ぜんぜん、そんなことないよな。」
希良が輝に同意をもとめ、輝もそれに同調する。
「うんうん、思ってた以上に盛りだくさんで、絶対、盛り上がると思う。
でも、たく兄、うちのクラスにもきて。」
野菜の肉巻きを口に入れながら、そう言う輝は、その肉巻きがよほど気に入ったのか、もう3個は食べてる。
たく兄はもちろん、と答える。
「あ、そうだ!忘れてた。」
こっちは前からお気に入りの唐揚げ、4個目に手を伸ばしてる希良が突然、叫んだ。
「なに?びっくりするだろ。」
相変わらず、2人には敵わないオレは、それでもポテトグラタンを山盛りにして食べていた。
「ごめん、ごめん。
いや、オレさ、昨日、父さんにこの話して。
ダメ元で、文化祭の前日と当日の2日間、病院のペッパーくん、貸してもらえないかって頼んだんだ。
そしたら、良いって言われて。」
突然、希良がとんでもないことを言い出した。
確かに、希良の家の病院に受付と案内用にペッパーくんがいるのは知ってたし、興味はあるけど。
「何それ?いや、そんな、大変な、とんでもないんですけど。」
あまりのことに喉に詰まりそうになったグラタンを、お茶で流し込み、驚きを隠せない。
「きら〜、お前、それ、反則ギリだから。」
輝が真面目なのか、からかってるのか、わからないけど、大笑いしてる。
「いや、でもな、自分たちで取りに来て、運べるならっていう条件付きなんだけど。」
希良のトーンが少し下がる。
「お、なんだよ、それなら、オレ、やったげるし。」
たく兄が、ことも無さ気に言った時だった。
「それなら、オレがやるし。
オレの車の方がデカいから。」
と言う言葉とともに、後ろからオレの頭をぐしゃぐしゃにする手が伸びてきた。
「いち兄!お帰りなさい。え、聞いてたの?」
「ただいま、みー。久しぶりだな。みんなも。
うん、さっきから聞いてた。」
そう言って、オレの頭をギュッとしてから、そのままの体勢で、いち兄はまち姉に声をかけた。
「まち、この前は悪かった。ごめんな。
ちょっと、やり過ぎた、オレ。」
そして、まち姉に頭を下げた。
「おかえりなさい、以知。もういいわよ。
さっき、匠にも謝られて。2人にそんな風に言われたら、私が悪モノみたいじゃない。」
まち姉がちょっと不貞腐れたみたいな顔したから、オレは慌てて。
「まち姉は悪くないって!
悪いのは、全部オレだから…!」
「みー、もういいから。」
まち姉がそう言うのと、いち兄の腕がオレの頭をギュッとするのと、たく兄が前の席から手を伸ばして、オレの頬っぺたを摘むのと…全部同じタイミングで。
「みーは知らないだろうけど、オレたちはずっと、こんなんだから。
気にしなくていいんだよ。」
「そう、なの?」
まち姉を見ると、やれやれって感じで、苦笑いをしてた。
これまでは、平凡男子として書いてきたみずき君ですが、実はかなりのポテンシャルの持ち主です。
これから、少しずつですが、それを書いていきますので、お楽しみにしてください!




