夏の夜〜海の出口・失われた時を
夏の夜にはいろんなものが湧いてくる。
魑魅魍魎、妖怪にお化け。でも、一番怖いのはやっぱり人間と人間の思い。そして、それらに勝てるのも、それらから大事なものを守れるのも、やっぱり、人の思い。
※夏休みのクライマックス第2弾です。
テラスに出ると、混み合っている人混みの向こうに、ポツンと立っている見慣れた背中が見えた。
「かがや。」
人混みを抜けて、近づいてから声をかけた。
振り向いた輝の顔は涙でぐしゃぐしゃになってる。
「そんな、泣くなよ。もう怒ってないから。ほら、オレの好きなイケメンが台無しじゃん。」
これ以上、輝を泣かせたくなかったから、フザケてそう言って、首にかけてたタオルで輝の顔を拭った。
「ちょっと汗臭いけど、ごめんな。」
「大丈夫。みずきのは臭くない。」
「ウソつけ、この前、部活の後、オレのTシャツ、汗臭いって投げたくせに。」
「え、あれは、その場のノリで…。」
「なんだよ、それ。」
そこで、やっと、2人で笑った。
その時、すぐ近くのベンチが空いたので、オレが輝の手をひいて、2人で腰を下ろした。
「聞いてもいい?」
輝も、そしてオレも、やっと少し落ち着いたから、でも慎重に声をかけた。
「うん。」
答えた輝も身構えてるのが空気で感じとれる。
「答えたくなかったら、いいんだけど…。かがやは、一度、オレを、オレのことを、失ったって言ったけど、そうなの?」
輝がオレの汗臭いはずのタオルに顔を埋めて、ただ、頷いた。
「それは…いつ?もしかして、オレがその、かがやときらのこと、それまでのことを、忘れちゃったから?それで3人がバラバラになったから?」
輝は何も答えず、タオルから顔も上げない。
沈黙はイエスってことなのか?それとも、何かの理由があって、言えないのか。
「かがやはオレのこと、好き?」
思い切って、質問を変えた。
「え?」
やっと、タオルから顔を離して、輝がオレを見た。
「好き、だよ。オレはみずきのこと、好き。」
「良かった。オレがかがやのこと忘れたから、嫌われたかと思った。きらもそうだといいんだけどな。」
涙で腫れた目をオレに向けて、かがやは首を横にブンブン振った。
「そんなこと、あるはずない。きらだって、同じはずだよ。みずきは何も、悪くないんだから。悪いのは…。」
「かがやも、悪くないんでしょ。もちろん、きらもさ。」
輝が言い終わる前に、そう言うと、輝の顔を覗き込む。
「誰にも話したことないんだけど、かがやには、正直に言うね。」
「え?」
「オレさ、最近、って言っても、ここ1、2ヶ月?色々、違和感感じてて。例えば、今回のこの勉強合宿とか海とか。すごい楽しいし、みんなでいること、当たり前に思うんだけど。どこかでコレが当たり前じゃなくて、何か違うような気がしてるんだ。」
輝が泣き腫らした目をみひらいて、オレの顔を見返してきた。
「それって、どういうこと?」
「うん、うまく言えないんだけど。例えば、オレ、かがやのことも、きらのことも、高校に入ってからずっと、保里、田宮って呼んでたじゃん?で、5月?だったよな。かがやって呼んでって言われたの。初めて一緒にもんじゃ食べに行った時だった。まぁあれも、初めてじゃなかったのかもしれないけど。」
「ああ、そんなことあったな。」
そう頷いた輝は、少し寂しそうというか、残念そうな表情をしてた。
「オレがおかしいのかもしれないけど、そっちの時間軸が当たり前だと思っていたんだ。でも、この前から、オレの中にもう一つ、別の時間軸が見つかって。」
「なんか、みずきらしいな。そのSFみたいな言い方。あ、ごめん、真面目な話ってわかってるよ。」
「ううん、いいんだ。そのくらいに思って聞いてくれた方が気楽。」
なんとなくオレは輝の手を握って、話を続ける。
「そのもう一つの時間軸では、オレたち、かがやときらとオレの3人は、中学生の頃から、ずっと仲良くて、名前で呼び合って、2人がいつも、オレを間に挟んで、わちゃわちゃしてて。な、今がそんな感じじゃん?」
「そう、だな。」
輝がまた、泣き出しそうになった。
「あ、勘違いしないで。それがおかしいとか、イヤだとか思っているわけじゃなくて。いま、オレ、どっちがホントなのか、わからなくて、ずっと混乱しているんだ。」
繋いでいる手を、ギュッと握ると、輝が強く握り返してくる。
「痛いよ、かがや。」
思わず笑ってしまう。
「だから、2人にわけわからないまま、あんな風にされて、余計、納得出来なかったって言うか、腹が立って。」
「ごめん、あれは…。」
「わかってる。オレを郡司の彼女に会わせたくなかったんだろ?理由はわからないけど。」
輝が唇を噛み締めて頷いた。希良も、相当嫌ってたから、輝も似たようなものだろうと思っていたけど、この様子だと、それ以上なのかもしれない。
そう考えると、2人がオレの気持ちを無視するように、振り回したことを責める気持ちは、もうなくなっていた。
「さっき、かがやが、オレをもう二度と失いたくないって言った時、なんかやっとわかった気がして。あー、オレもオレの何かを一度、無くしたんだなって。そして、その中に、もう一つの時間軸、3人でわちゃわちゃしてるオレらがいるんだなぁって。」
そこで一度、言葉を切って、空いてる方の手で、輝の涙を拭った。
「そういうことだろ?」
輝の頬に手を添えて、目を見て…輝を安心させたくて、にっこりと、笑った。
輝はYESともNOとも、何も言わなかったけど、いつもよりかなり強く、オレを抱きしめてきて、オレの頭を、背中を、ゆっくりと撫でてくれる。
輝は泣いているのに、オレは不思議と冷静で。
「もう、泣くなよ。オレはもう、いなくならないから。かがやときらのこと、大好きってことは、ちゃんと思い出したから、そこは取り戻したから。そんで、それはかがやのおかげだからさ。」
それでも、輝の涙が止まるには、しばらく時間がかかった。
その間にまち姉が心配して、様子を見にきた。
でも、オレたちをみて、何も言わずに、オレの隣に座って、オレの背中と輝の肩を一つにまとめて、ギューッと抱きしめてくれた。
すっかり暗くなってから、道の駅を出たオレたちは、浜辺に戻って、予定通り、花火をしようと言うことになった。
「きら、さっきはごめんね。オレもう怒ってないからさ。」
オレが輝の方に行った後、多分、希良もたくさん泣いたんだと思う。
ぱっちりした二重の目が腫れていた。
希良の首に手を回して、ギュッと、抱き寄せながら、ふらふらと砂浜を歩く。
「オレの方こそ、ごめん。みずきの気持ち、無視するようなことして。」
希良と額を合わせて、気にすんなよという思いを伝えようとした。
「オレを守ろうとしてくれたんだろ。ありがとな。」
泣き腫らした目をした希良がやっと笑って。
あぁ、オレ、希良のことも好きだなって、希良もオレのこと好きでいてくれるんだなって感じて、ホッとした。
「かがやと、何話したの?」
「うん、まぁちょっと。きらにも、今度、ちゃんと話すよ。今日は、とりあえず、ごめん。」
輝と話したこと、希良には話せないわけじゃなかった。でも、今、これから話すには、ちょっとオレの心がもたない感じがして、謝った。
「うん、いいよ、それで。無理しなくていいから。みずきが話せるとき、話したい時に、聞かせて。」
そう言って、涙で腫れて、それでもやっぱり可愛い笑顔を見せてくれて。首に回した腕でギュッと、もう一度、抱きしめた。
オレたち3人だけじゃなくて、兄ちゃん、姉ちゃんたちも、みんなが心の中に何かしら抱えて、言いたい事を堪えているのを、それぞれが感じていた。
でも、たくさんの花火に火をつけて、両手に持ってはしゃぎ回り、飛び散る火花と一緒にそんな思いも、弾けさせてしまえとばかりに、ワザとらしいくらいに、大騒ぎした。
そして、消えて行った花火とともに、すっきりしたと思ったのに、いざ帰ることになった時、思いがけないことが起きた。
「みー、今日はこっちの車に乗って。まっすぐ、ウチに帰るから。」
何故かまち姉がそう言って、譲らなかった。
「え、でも…。」
そう言っている間に、いち兄の車に載せてあったオレの荷物は、まち姉の車に移し替えられ、オレも助手席に座らせられてしまった。
「おい、まち、ちょっと待てよ。」
「以知、匠も、今回は色々、ありがとう。希良くんと輝くんもありがとね。悪いけど、今日はここで。2人のこと、送ってあげてね。よろしく。」
いち兄が止めるのも構わず、ちい姉が慌てて後ろに乗り込むと、まち姉はあっという間に車を出してしまった。
「お姉ちゃん、どうしたの?何怒ってるの?」
走り出してすぐに、ちい姉が身を乗り出して聞いた。
「いいでしょ、もう、十分一緒にいたじゃない。みーが疲れちゃうよ。」
「でも。みーは…」
「ちい姉、いいよ。大丈夫。」
オレがちい姉をとめたのは、車を運転しているまち姉が、怒っているというよりも、なんか悲しそうに見えたからだった。
「まち姉、さっきはありがと。来てくれて。」
途中でも一度、コンビニに寄ってアイスコーヒーを買って、まち姉にそう言って渡した。
「そんなこと言わなくていいの。みーは、私の弟なんだから。以知みたいには…してあげられないけど。」
「ううん、そんなことないよ。まち姉もちい姉も、オレのこと、いつも心配してくれて、今回だって、着いてきてくれたじゃん。そういうの、当たり前じゃないってわかってるからさ。」
「生意気なこと、言って。」
ペットボトルの紅茶を飲んでいたオレのおでこをまち姉が、後ろからちい姉が肩をつついて、オレがお茶を吹き出して…3人で笑った。
そしてオレは、その後まち姉の運転で家まで爆睡してしまって。まち姉の言ってた通り、疲れてたんだなと思った。
週2回の投稿、4月の初めまで、と思っていましたが、もう少し、続けたいと思います。
理由はやっぱり、下書きが溜まっているのと、話を進めたいからですww
お時間あれば、是非おつきあいください。よろしくお願いします。




