夏の午後〜海の入口・溢れ出る思い
夏。暑さとその空気に紛れ込んで、色々なことが起きて、様々なことが急に動いてしまう。感情がそれらに振り回されて、心の振り幅が大きくなる。どこに行くのかもしれないまま。
※夏休みのクライマックス第一弾?です。
3日目。
待ちに待った海に行く日。
朝早く、叔母さんが作ってくれた山のようなお弁当や、大きな浮き輪、レジャーシートなどなどを、いち兄の車に詰め込んで、オレたちはまるで小学生みたいにはしゃぎながら、後ろに3人並んで乗り込んだ。
途中でオレの姉ちゃん2人もまち姉の車で合流して、車2台で1時間ちょっとのドライブの後、海水浴場ではないけど、きれいで静かな海岸に到着した。
遠くに島が見える海辺にシートを敷いて、椅子を並べて。
がっつり泳ぐことはしなくても、全員、水着にTシャツ姿になって波打ち際で水を掛け合い、オレはたく兄に抱えられて、海の中に放り込まれるわ、希良と輝に水鉄砲で追いかけられるわで、あっという間に全身ずぶ濡れになってた。
「ひでー。オレだけ〜。」
そんな様子をビーチチェアに座って、笑いながら見ていた姉ちゃんたちに助けを求めると、タオルを投げてくれた。
「あはは。やられてたね。でも、いいじゃない。楽しそうで。久しぶりに見たわ、そんなはしゃいでる、みー。」
「ホント。動画撮ったから、お母さんたちに送っとく。」
「えー、オレ、やられっぱなしなのに、情け無くない?」
ずぶ濡れなオレは椅子には座らず、姉ちゃんたちの横、砂の上にそのまま腰をおろした。
「じゃ、これ飲んだら、やり返しておいで!」
「オケ!」
まち姉から渡されたサイダーのペットボトルをごくごく飲んで、オレはたく兄に向かって行った。
後ろで姉ちゃんたちが「来て良かったね。」と言っているのが聞こえて、オレもだよ!と、心の中で、心の底から叫んでた。
オレがたく兄を海の中に倒そうと掴みかかると、見ていた輝が空いているたく兄の足を取ってくれて、2人がかりで海に沈めることに成功した。
「いえーぃ!」
「やったな。」
ハイタッチしていたオレたちの、隙が出来た足元に、たく兄が飛びついてきて、結果3人とも海の中に尻もちをつくように座り込む。
「何やってんだよ、3人で。」
波打ち際で見ていた希良が指差して笑ってる。
1人だけ、濡れずにキレイなままなのは、ちょっと納得いかない。
そこで。
「おーい、きら〜。」
ずぶ濡れ、砂まみれのオレが希良目がけて駆け寄り、抱きつこうとする。
「わ、来んな、みずき!そんなんで、こっち来んなよ〜。」
逃げ回る希良を追いかけ回し、最後には捕まえて、一緒に倒れ込んだ。
「もー、やめろよー。」
「いいじゃん。みんな一緒にずぶ濡れな。」
「そうそ。お揃いでイイじゃん。」
後から輝もきて、砂のついた手で希良のキレイな顔を撫でた。
「うわ、何すんだよ、かがやーー」
嫌そうに、でもちょっと嬉しそうに、希良が言う。
「あーもう、どうにでもしてくれ。」
ヤケになって、希良がオレたち2人に逆に抱きついてきた。
最後にはたく兄も含めた4人が、昼メシ前に海の中で念入りに、砂を洗い流すことになった。
「なんか、塩気が効いてて美味い。」
「てか、それはお前の手がもう、塩漬けになってるってことだろ。」
何個目かのおにぎりを頬張りながら、たく兄が言うと、すかさず、いち兄が突っ込んだ。
「あー、そういうことか。」
オレは妙に納得して、同じように何個目かのおにぎりにかぶり付いた。
「みー、よく食べるじゃない。何個目?」
まち姉が驚いて言いながら、お茶を渡してくれる。
「でも、海で食べるおにぎりとか、お弁当って、三割増ってくらい、美味しいのは確かよね。」
叔母さん、良くこんなに作ったねと、感心して、ちい姉が言うと、男子全員が口の中に何かしらを詰め込んだ状態で、声もなく賛同した。
それからオレたちは、暗くなったら花火をしようと決めて、それまでの時間を近くの道の駅で潰すことにした。
「あ、あの話題のアイスクリーム屋が入ってるって。みずき、食いたいだろ。」
「お、そうなの?食いたい、食いたい。」
姉ちゃん、兄ちゃんたちから、ちょっと遅れて、3人、腕を絡ませたり、肩を組んだりしながら、わちゃわちゃと歩いて、道の駅に着いた。
「あれ?みずき?」
突然、呼ばれて振り向くと、なんとそこには郡司が立っていた。そして、その少し後ろに、見覚えがあるような、ないような、可愛いけど、ちょっと気が強そうな女子の姿。
「お、郡司?」
思いがけず会えた嬉しさが声に出た。
でも、そこからの展開は何がなんだか?だった。
「あ、保里と田宮も…いたんだ。」
何故か急にテンションが下がる郡司。
その言葉を聞き終わるより早く、輝が希良にオレの体を押し付けて、自分の体をまるで盾にするように、郡司たちとオレの間に立ちはだかった。
「きら!」輝が希良に声をかける。
「いち兄!たく兄!」
希良は輝から押し付けられたオレの体を自分の前に抱えるようにして、兄ちゃんたちを呼び止め、振り向いた2人にオレを預けて言った。
「ごめん、ちょっとみずき、外に連れてって!」
そう言われた兄ちゃんたちは何も聞かずにオレの肩を抱えるようにして、店の外へ出た。
それまでの時間、多分、一分もかかってない。
「え、なに?いま、なにがあったの?」
外へ連れ出されたオレは訳がわからなかった。
「いや、オレたちもわかってないんだけど。誰かいたの?知り合い?」
いち兄が逆に聞いてくる。
「うん、郡司って、ほら、小学校からの友だちの。あと、多分、ヤツの彼女?」
兄ちゃん2人が顔を見合わせる。
「みー、なんか言われたのか?」
「イヤ、そんな暇なく、今、ここだよ。わけわかんない。」
オレは少し腹を立てていた。それくらい、わけがわからなかった。
「みー助、落ち着けよ。きっと何か理由があるんだよ。そうじゃかなきゃ、きらとかがやがこんなことするわけないだろ。」
それはそうなんだけど、それでもやっぱり、腹が立った。
「いち兄。」
そこに輝の呼ぶ声がして、いち兄がたく兄に「頼むな。」とひと言かけて、店の方に戻っていった。
オレも呼ばれた方を見たけど、輝は目を合わせてこなくて、なんか、それにも腹がたった。
「みー助、先にアイス、食べようぜ。兄ちゃんが奢ってやる。」
残ったたく兄に、なだめられながら、アイスクリーム屋の売り場に連れて行かれ、冷たいアイスの甘い感触に少しだけ、落ち着いてはきたけれど。
「あー、いた、いた。急にいなくなるから、探しちゃったじゃない。」
「お、悪い!っていうか、アニキたちに会わなかった?」
すっかり忘れてた姉ちゃんたちが、文句を言いながら、近づいてきた。
「以知たちなら、フードコートで並んでるわよ。2人を呼んできてくれって、それで私たち、探しに来たんだから。」
オレとたく兄は顔を見合わせて、一緒に首を捻った。
「なんかわからんが、片づいたのかもな。行こうぜ、みー助。何かあれば、説明してくれるだろ。」
フードコートに行くと3人が7人分の席をキープして、オレたちを待っていた。
いち兄の前に並んで座っている希良と輝は、項垂れて、元気なく、肩を時落としていた。
「お、きたな。まち、悪いけど、千枝と2人でなんか適当に買ってきてもらえるか。
オレらちょっと話すことあるから。
もちろん、後でちゃんと、説明する。悪いな。」
そう言われてまち姉はかなり、不満そうな顔をしたけど、一瞬、オレの顔を見て、言いたいことを飲み込むみたいに、ちい姉とその場を離れて行った。
オレたちも座ろうとした時、並んで座ってた希良と輝が腰を浮かせて、間の席を空けた。オレをそこに座らせようと思ったんだろうけど、なんかまだ腹が立ってたオレは、ワザとそこには座らず、いち兄の隣、2人の向かい側に腰を下ろした。
「そんな、怒るなよ、みー助。まだ腹立ててんのか。」
たく兄がからかうように、宥めてくる。
「だって、わけわかんないよ。」
声にだすと、思っていた以上に声に怒りが滲んでいた。
「ごめん、みずき。」
そう言った輝が下を向いたまま、ポロポロと涙を流した。
何も言わずに、ただ涙が輝の握りしめた両手をポタポタと濡らしていく。こんな輝は初めてだ。
「かがや、泣いてないで、ちゃんと話して。みーだって、ちゃんと話せば、わかるよ。」
いち兄がそう促すが、輝は首を振って何も言わない。
希良は泣いてはいなかったけど、眉をよせて、堪えるように、やっぱり黙ったままだった。
「みー、2人には、オレから言ってきかせたから、許してやってくれ。
みーにしてみれば、わけわからなかったと思うけど、2人とも、みーのこと、守りたくて、やったことだから。」
いち兄の言ってることはわかる気がした。
悪気があるとは思えなかったし、多分、オレのためにやったことなんだろう。
そうは思っても、オレも素直になれず、ふくれっつらのまま、黙っていた。
「もう、イヤなんだ。」
沈黙を破ったのは。輝だった。
「二度と、みずきを失いたくないんだ。
もう、イヤなんだ、あんなこと。」
小さく叫ぶような輝の言葉に、それまで我慢していた希良の目からも、涙があふれだした。
「どういうこと?」と、オレが聞くより前に、輝は立ち上がって、テラスの方に出て行ってしまった。
オレはまだ納得してなかったし、そこで泣いてる希良のことも心配だったけど、いつもと違う輝のことが気になって、いち兄に目で、希良のことを頼むと伝えて、輝の後を追った。
夏はやっぱり海。近くの馴染みのある海岸をイメージして書きました。道の駅は少し前にできたので、何度も前を通っても、混んでいて、まだ行けてません。
わかる方には、分かるかな?アイスクリーム屋さんは、この前まで放送されていたBLドラマで主人公CPが食べていたお店が出店しているお店です〜。




