夏の夜〜其の壱・近すぎる距離
薄い布越しでも、夏の体温は暑く伝わってくる。
心の温度が乱高下するほどに暑く、それは中毒性を持って、夏の夜を侵食して行く。
※今回は少しだけですが、BL度高めですので、ご注意を。
いち兄が出て行くのを見送って、オレは床に置いていたままにしていた、スマホに目をやると、なんか、メッセージが届いていた。
「あ、郡司からだ。」
「何?どうした?」
2人がこっちをみて、希良が聞いてきた。
「あー、ウチに行ったらしい。それで、勉強合宿って聞いて。おちょくってきた、アイツ。」
「なんだよ、それ。変わんないな、郡司。」
輝はそう言いながらも、あんまり興味無さそうに笑う。
「んー。」その先のメッセージを読んだオレが、ちょっとうなると、2人が近づいてくる。
「どうした?」
「うん、郡司の彼女がオレに会いたがってるから、夏休み中に会えないかって。なんでオレ?」
と、スマホから顔を上げて、驚いた。
2人とも、凍り付いたようなキツい顔をしていた。
「ど、どうしたの?2人とも。なんか、変なこと言った?オレ。」
「あ、いや、ごめん、ちょっと…」
希良が言葉につまる。
「確かにな、郡司、何でそんなこと言ってくるんだろな。」
輝の言い方はいつもと変わらなかったけど、なんだか冷たい響きだった。
「そんなの、会う必要なくね?」
今度は希良が怒ったように言う。
「え、きら、何怒ってんの?」
「別に、怒ってないし。」
「いや、怒ってんじゃん。何で?オレ、なんかした?」
「みずき、きらはお前に怒ってんじゃないよ。きら、分かるけど、今はやめとけよ。」
輝がオレたち2人をなだめる。
「ごめん、ちょっと、イラッとして。でも、隠しても仕方ないから、言うけど…。」
希良はまだ何か収まらない気持ちを持て余しているみたいだった。
それを輝はまたなだめようとする。
「きら、お前、だから、やめとけって。」
「別にいいじゃん。これはみずきに言っても。郡司の彼女がオレたちと同じクラスだったのは知ってんだろ。」
「きら!」
「あ、うん、3組だったって郡司から聞いて。卒アルみたら、2人と同じクラスだったって思い出したんだ。あ、そういえば、2人の写真に、その彼女がたくさん写り込んでて…。」
オレの言葉に、輝が諦めたみたいにため息をついた。
「そこまで見たのか。みずき、なんともなかった?」
「え。ああ、えっと…ちょっとだけ、大丈夫じゃなかった。」
今さら隠しても仕方ないと、正直に言うと、2人が顔を見合わせる。
「なんでそれ、言わなかったんだよ。」
希良はまだ怒ってる。これはオレに対してだ。心配してのことだとわかるけど。
「いや、忘れたてたんだってば。きらたちといる時には、郡司のこととか、忘れてるし。それに…。」
オレはチラッと輝を見てから、続けた。
「郡司の彼女のこと、かがやに話した時、なんか、すごい、イヤだったから。」
あの時のことをあまり思い出さないようにした。思い出すと、またさっきみたいになりそうで、オレは自分がめんどくさ過ぎらと思った。
「ごめん!ごめんな、みずき。あの時はオレが…。」
でも、やっぱり、輝は思い出したんだと思う。
「かがやは何も、悪くないよ。なぁ、もう、この話やめない?オレ、郡司に断るし。」
せっかく3人、楽しい夏休みのイベント中なのに、オレのことでかき回してばかりなのは、マジでイヤだった。
「そうだな、もうやめよう。郡司の彼女なんて、オレたちには関係ないし。」
希良はさっきまで、何か言おうとしてたのに、それもやめてしまった。それはちょっとだけ気になっていたんだけど。
その後すぐ、オレは郡司に「せっかくだけど、夏休み中はちょっと難しいから、彼女に断って欲しい」とメッセージを送った。
郡司は小学校からの大切な友だちだ。
でも、希良と輝は、それとは違う、何かもっと、特別な存在だと感じていて。
今も、これから先も、ずっと、そうだと思うから、この話はなかったことにすると決めた。
例によって、夕食には大量のご飯が用意されていて、たく兄も帰ってきて、ワイワイ賑やかで楽しかった。
この日はオレも結構食べたので、おばさんは大満足していた。
そしてその夜は、和室に3人、布団を並べた。
昼間、勉強に集中してた分、夕食後には兄ちゃんたちも一緒にゲームをして、その後はくだらない話ばかりして、笑い転げていた。
布団に入ってからも、話はつきなかったけど、そのうち、眠くなって、会話が途切れがちになって、誰からともなく、落ちて行った。
輝が寝息を立て始めたのに気がついて、オレは希良に声をかけた。
「きら、寝ちゃった?」
「ん?どうした、眠れない?」
希良が体をゴロンと動かして、オレに近づいてきて、オレの体に腕を回してきた。
「さっきのこと、気になって。」
「さっき?」
ぐっと力が入って、オレは希良の胸に抱え込まれ、腕が腰に回された。
輝ほどの身長差はないけど、それでもオレより5センチ以上背が高い希良の顔が近くなる。
「え、あの、ちょっと近いんですけど。」
「イイじゃん。で、何?」
いや、イイのか?この距離感?気になりながらも、話しを続ける。
「さっき、何言おうとしたの?郡司の彼女のこと。」
「あー。」
そんなに?ってくらい、嫌そうな声を上げて、腰に回した腕が背中にも回されて、さらに力が入って。
耳元でぼそっと言われた。
「オレとかがやに、ずっと付きまとってきてた何人かのうちの、1人だから。」
「え?それって?」
抱きしめられてる腕の中で、体を動かして、希良の顔を見上げる。
「もういいよ、あんなやつの話は。思い出したくもない。」
「あ、ごめん。」
「悪いと思ってるなら、キスして。」
「えっと、なんでそうなる?」
「してくれないなら、こっちからするけど。」
そう言って、希良の顔が近づいてきて、この前よりずっと長く、深く、唇を吸われた。
「イヤ?」
唇を離してから、希良がきいてくる。
「それ、する前に聞くことじゃない?」
「だな。」
まぁ、でも、何故か、イヤじゃないけど…と答えようとした時、反対側から、急に腕を引っ張られた。
「イヤだって、はっきり言ってやれよ、みずき。」
寝てると思った輝が、希良の胸の中からオレの腕をつかんで、自分の方に引き寄せた。
「か、かがや、起こしちゃった?ごめん。」
輝は何も言わずに、オレの首に手を回して、引き寄せ、こっちもキスしてきた。
希良よりも、ちょっとだけ長く、なんだか熱く思えた。オレの腰には、希良の腕が巻き付いたままだ。
「取るなよ、かがや。」
「はあ?抜けがけすんなよ、きら。」
「いやいや、2人とも、何すんだよ。」
『え?イヤ?』
2人が声を揃えて、聞いてくる。
いや、だから…イヤじゃないんだけど、なんていうか。わけわかんない。
「もう、寝る。」
返す言葉か見つからず、オレは足元の夏掛けがを、頭の上まで引っ張り上げた。
「あ、逃げられた。」
「かがやが割り込んでくるからじゃん。」
「きらが無理矢理するからだろ。」
「え?オレは別に。」
オレの体を挟んで、2人がまだやり合ってて、その声はなんだか耳に心地よくて…でも胸がドキドキしてる。
輝の腕が首に、腰には希良の腕が回されたままで、オレは眠りに落ちて行った。
次の朝、目を覚ました時、オレの体には4本の腕が絡みついていた。まるでホラーだ。正直、良くこれで眠れたなオレ、と思う。
でも、さすがに、体のあちこちがギシギシ言ってる。
「きら、起きて。腕、痛くない?」
オレの腰の下にある希良の右腕を退けながら、まず、声をかける。同じように、首に回された輝の左腕から頭を動かして、輝も起こす。
「かがや、起きて。朝だよ。」
しかし、2人ともすぐに起きるどころか、そのままの状態で、腕に力を入れてくるから、オレの体は変に捻れて、左右に引っ張られる。
ええっと、これはさすがに勘弁してほしい。
「ちょ、ちょっと、2人とも!起きて!体が壊れる!」
たまらず、声を上げると、今度は2人、弾かれたように起き上がって、オレを見下ろしてきた。
「ごめん、大丈夫?」
「大丈夫じゃないよ、2人とも!ってか、オレも!よく寝てたな。この状態で。」
2人をからかってやろうと、ちょっとだけプンスカしてみた。
「え、ごめん、マジで。怒った?」
希良の焦った顔、久しぶりに見たけど、可愛い過ぎるし。
「体、大丈夫?ホント、ごめん、つい嬉しくて、オレも、きらも。」
輝がしょんぼりと言うキレイな横顔も、なんか愛しく思えてくる。
「ウソだよ。怒ってないし。」
そう言うと、舌を出して、笑った。
あ、希良が言ってたケラケラ笑ったって、こんな感じだったかも…と思い出してきた。自分のことなのに。
「なんだよ。」今度はふくれっつらをする、希良。
「良かった。怒ってない?」輝はホッとしてる。
「起きたか〜?メシだぞ!」
部屋の外からたく兄が声をかけてきた。
「はーい、起きてる。今行く。行こ、顔洗お。」
オレが答えて、2人に声をかける。さっきのことはもうなかったことにして。その言葉に、2人のキラキラの笑顔が返ってきた
嬉しいって、輝が言ってたこと、ホントにそうだな、とオレも思った。
2日目は、高校1年から2年の1学期までの復習をした。
いち兄がどこかから探してきた問題を、黙々と解いていき、最後に、小テストみたいなことをやって、この勉強合宿は終わりになった。
「3人とも、よく頑張ったな。」
「いや、ホント、まだ受験生でもないのに、よくやったよなぁ。やっぱ、3人だったから、頑張れた感じ?」
いち兄は単純に褒めてくれて、たく兄がからかい半分で言ってきたことも、まったくの見当違いってわけでもなかったから。
「そりゃそうだよ。オレ1人だったら、そもそも、こういうの成り立たないし。」
「確かに。みー助だけだったら、オレ、途中でゲームしようって誘惑してるわ。」
たく兄が目の前のポテトを口にいれながら、頷いてる。
「あ、でもさ、この後、昨日の続き?」
希良がこっちを見てきた。
「お、そうだな。明日、早いから、あんまり遅くならないようにして。リベンジだ。」
そう、昨日の夜にやったゲームで最後、たく兄は希良に負けてしまい、リベンジを誓っていたのだ。
「きら、頑張れ!」
「なんだよ、みー助はきらの味方かよ。」たく兄が拗ねて言うが、その前にオレはたく兄にコテンパンにやられてるのだから、仕方ない。
その夜、早く寝ないと、と言いながら、ゲームは白熱し、布団に入ったの12時を回ってからだった。
「2人とも、今日は普通に、寝かせてくれよな。」
灯りを消して、オレがそう言うと、両隣から、不満そうな声が上がる。
「普通って、何?」希良がとぼけて言う。
「いや、だからさ。」
「じゃ、何もしないから、くっついて寝て良い?」
輝は甘えたように、そんなことを言ってくる。
「いや、暑いだろ、くっついて寝たら。」
そんなことを言ってはみたが、結局は2人に抱き抱えるようにされながら、その夜も眠りについた。
もうなんか分からなくなって、色々バグってる。
夏の和室に布団を並べるって、いかにも夏休みって感じがします。昭和世代なのでww
ホントは、蚊帳吊って…とも思ったのですが、流石にやめました。
でも、ベッドより、近づくのも、離れるのも、布団の上なら…ね。3人くっついて寝て欲しかったんです。




