夏の午後〜其の貮・3人の立ち位置
青春には、色んな障害が待っている。それを超えることも大切だけれど、避けて進むことも一つの方法。
傷つくことを避けるなら、それも正しい。どうせいつかは傷つくのだから。
※このあたりは一進一退で、ちょっとモヤモヤするかもしれません。
夏休みが半ばを過ぎた頃、オレたち3人はいち兄の休みに合わせて、勉強合宿という名目で集まることになった。
オレ的には一泊でも十分だと思ったのに、まだ受験生でもない3人を勉強だけで帰すのは可哀想(?)だと、たく兄が言いだして、最後の1日、海に行く計画が立てられ、二泊三日の合宿になった。
「海が、楽しみ。それ以外、わけわかんない。3人でなら、勉強にも力が入るだろ?なんて。」
2人と違って、乗り気でないオレは、集合場所の駅に集まってすぐに、愚痴モード全開だった。
「そりゃ、そうだよな。たく兄もあざといっていうか、最後にご褒美置いといて、オレたちを頑張らせるってことだろ?」
希良が感心したような、呆れたような、微妙な笑いを浮かべた。
「でも、ほら、3人一緒いれば楽しいし、勉強でもなんか、イイじゃん?」
「また、かがやが、おりこうさんなこと、言うし。」
オレが絡むと、希良が間に入ってくる。
「まあまあ、みずき、勉強がイヤなら、流してろよ。オレらだって、そんなガッチガチには続かないからさ。」
そんなくだらないことを言い合ってるときだった。
「え?ウソ!」
「マジ?信じられない、3人揃ってる!」
道の反対側から、そんな声が聞こえた。
見ると、オレたちが卒業した中学のジャージを着た女子数人がこっちを見て、指さすように、歓声を上げていた。
「何?2人のファン?知ってる子?」
「いや、知らない。ファンって、やめろよ。」
輝がいつも通りに拒否反応を示す。
「オレも知らない。でも、3人って聞こえたから、みずきも入ってるんじゃないか?」
希良は既に呆れたというか、相手にしないというか。
「え?なんで、オレ?ないだろ。」
責任を押し付け合うみたいに、3人でわちゃわちゃ言ってると、女子たちとの間に割り込むように、いち兄の車が止まって、3人にホッとした空気が漂った。
「写真とか、撮られてないよな?」
例によって、後部座席に3人で乗り込んでから、希良が警戒感むき出しの声でそう言った。
「距離、あったから、大丈夫だと思うけど。」
輝が不安そうに答える。
「え?なんかあった?」
車を出そうとシフトレバーにかけた手を離して、いち兄が振り向いた。
「あー、うん、ちょっと…。」
3人、顔を見合わせてから、オレが代表して、さっきあったことを話した。
「あそこにいる子たち?」
「うん、そう。」
「了解。」
そう言うと、一旦、エンジンを止めて、いち兄が車を降りて行く。
え、まさか、と思っているうちに、その子たちに近づいて、何か話しかけている。何を言ってるんだろう。
「写真、削除させてるみたいだ。撮られてたのか。」
運転席の後ろに座っている輝からは、その様子がよく見えたみたいだ。
「なんだよ、それ。ありえない。」
希良が怒って、声を荒らげた。
その声にオレはちょっと動揺してしまう。
「きら、怒るなよ。」
左手を伸ばして、希良の右手を包むように握った。
「きら。」
輝もなだめるように、声をかけた。
「ごめん。悪い。みずき、怖がらせちゃったか?」
声のトーンが柔らかくなって、笑顔になった。
「ううん、大丈夫。でも、きらは、そうやって笑ってる方が、可愛くて、好き。」
その言葉に希良が手を握り返してきた。
「お待たせ。ちゃんと話してきたから、とりあえずは問題ないよ。安心して。」
いち兄が戻ってきて、そう言った。
「写真、撮られてたの?なんて言ったの?」
「3人は芸能人でも、何でもないから、そういうのはやめて欲しいって。そのままだよ。写真はそれぞれ1枚しか撮ってなかったけど、削除してもらった。」
3人って言った?2人なら分かるけど、オレも入ってるのか。
「やっぱり、オレがみんなの家まで迎えに行くんだったな。」
いち兄が後悔するように言う。でも、そんなのおかしいって、3人とも、クビを振った。
駅で待ち合わせて、立ってただけでこんなことになるなんて、なんなんだろう。2人はずっと、こんな思いをしてきたのか?
考えれば考えるほど、さっき希良が怒ったのは当然だと思えてくる。
「なんか、腹立つな。」
ぼそっと言った、自分の声に驚く。
「みー?どうした?」
「みずき、大丈夫?」
「ごめん、オレが怒ったから?」
2人といち兄が同じく驚いてこっちを見てきた。
「あ、ごめん。つい。大丈夫だよ。いち兄、行こう。」
オレに言われて、いち兄が車をだした。
黙り込んだオレの様子を、両側から2人が伺っているのを感じる。
「あ、あのさ。」
思いきって、声を出した。
「2人は、今みたいなこと、よくあるの?っていうか、中学の時、一緒にいた時も、こういうこと、あったっけ?オレ、覚えてないんだけど。」
一息でそこまで言って、2人の顔を交互に見た。
2人は一瞬、顔を見合わせてから頷いた。
「よくあったよ。オレたち2人の時も、みずきが一緒にいる時も。みずきはあの頃はいつも、オレたちがかっこいいから仕方ないって、ケラケラ笑ってた。」
そうだったのか。そんなことが。
確かにオレの言いそうなことだけど。
「そうそう。みずきにそう言われると、オレたち、なんか気が楽になって、気にしないでいられたんだよ。まあ、高校に入ってからは、3人バラバラで、一緒にいなかったから、それでも少なくなったんだけどな。」
「あー、ホント、それな。」
希良が嫌なことを思い出したって感じで顔をしかめた。
そうだ、高校に入ってからは、オレたち全然、一緒にいなかった。
「それはさ、良かったの?2人には、オレのそういうとこ。それが嫌で、高校になって、一緒にいなくなったんじゃないの?」
「何言ってんだよ。」
希良がそう言って、オレの首に腕を回してくる。
「そういうみずきだから、オレもきらも、好きになったんだよ。それもよく言ってたんだけど、忘れちゃったか。」
まぁ、いいけど…と、輝も反対側から、同じことをしてきた。
「忘れてもいいよ。何度でも言えばいいんだから。オレとかがやは、みずきが間にいてくれることが、ホントに大切なことなんだよ。」
「だな。他にも何か、忘れてても大丈夫。オレたちが覚えてるし、いつでも、何でも、話すから、聞いて。でも、なんで3人バラバラになったかは、そのうち、もうちょっとしてからかな。」
2人の言葉にオレは何も返せない。嬉しくて、気持ちが追いつかず、両手で顔を覆って下を向いた。
「こらこら、ここに保護者がいるんだぞ。いちゃつくのもそれくらいにしとけよ。」
いちゃつくって、なんだよと、指の間からいち兄を見たが、バックミラーに映ったいち兄は、嬉しそうにオレたちを見ていた。
初日、午前中はこの前の期末テストを振り返って、苦手なところを集中的に復習するという課題がだされた。
オレの苦手は古文全般。
やりはじめてすぐに眠くなってきた。
「みー、寝るな。」
すぐにいち兄に見つかって、怒られる。
それを見て、希良が笑いながら、近づいてきた。
「みずき、今、どのへん?あ、そこか。オレもそこ、わかんなかった。」
そうは言っても、希良は理系選択なのに、古文も漢文も強い方だ。
輝は文系選択だけど、ほとんど苦手科目がない。
オレだけじゃない?ホントにこの合宿が必要なのって。と、思いながら、昼までの時間をやり過ごした。
昼メシ後、3人で休んでる時に、オレは2人にそんなことをまた、愚痴のように話した。
「いや、そんなことないよ。逆にみずきは勉強嫌いだとか、出来ないとか言いながら、いつも平均以上で、理系科目はほぼトップだし。学年でも上の方にいるし…」
輝は優しいから、いいことだけ言ってくれる。でも、それがオレに、あることを思い出させた。
「でも、そんなんだから、半端なヤツって言われちゃうんだ。」
それまでニコニコしてオレたちの話を聞いてた希良が、急に真顔になった。
「みずき、お前?」
「なんだよ、半端なヤツって。誰がそんなこと?」
事情を知らない輝も驚いて、顔を強張らせた。
「あ、ごめん、オレ…」
「聞いてたのか、やっぱり、あの時。」
希良がため息をついた。
「あの時って?」
オレは何も言えずに黙ってしまい、それを見て希良が、仕方なく輝に話し始めた。
「かがやにも話したじゃん。ほら、オレが宮﨑をしめたって。」
いや、しめたって何?そりゃあの時の希良はそんな感じだったけど。
「あ、ああ、あの、みずきが息もしないで走ってきた時だ。」
「そう、その時。宮﨑がみずきのことを、そう言ったんだ。」
「半端なヤツって?それでみずき、あんな?」
「違う、そうじゃなくて。」
あの時のこと、思い出すと、つらくて…また息が苦しくなってきて、思わず胸を押さえた。
「みずき?どうした?苦しい?」輝が気がついて、近寄ってきた。
「みずき、ごめん、嫌なこと思い出しちゃったよな。ゆっくり、息吸って、吐いて…。」
希良はそう言って背中を撫でてくれる。
机の上にあった麦茶に手を伸ばすと、近くにいた希良がそれを取って、渡してくれた。
「ありがと。ごめん、盗み聞きするつもりはなかったんだ。」
「いいよ、もう、そんなこと…無理に話すな。」
「でも、きらの、きらの声が聞こえて。それも、聞いたことのない怒った声だったから…。オレ、どうしたらいいかわからなくなって。」
「うん、そうだよな、オレ、めちゃくちゃ怒ってたから。ごめんな、驚かせたよな。」
「違う、きらは悪くない。オレが、ただ、逃げるしか出来なかった。きらはオレのこと庇ってくれてたのに。」
気がついたら、オレは希良にしがみついていて、その背中を輝が撫でてくれてる。
「逃げて、いいんだよ。ツラい時は、逃げていいんだよ、みずき。」
輝がそう言った。
「みー?どうした?」
そこにいち兄が、3人分の新しいお茶を持って部屋に入ってきた。
「あ、ちょっとオレが…」
「違うよ、いち兄。きらは何もしてない。オレが勝手に、イヤなこと思い出しちゃって。それで。」
希良が自分のせいだと言いそうだったのを遮って、オレが言った。
「大丈夫。分かってる。この3人の中で、誰が悪いとか、そういうのはナシだろ。な?」
いち兄が3人それぞれの顔を見て、オレたちはそれぞれに頷いた。
「よし、じゃあ午後の部、ぼちぼち始めるぞ。みー、お前はそこで休みながら、好きな物理でもやっとけ。」
2人はさっきの続きを始めて、オレはいち兄に言われた通りに、物理の問題をやり始めたんだけど。
真剣にやってる2人を見て、逃げずにやらなきゃいけない気がしてきて、古文のやりかけに手を伸ばした。
イヤなことがあったら逃げていい、さっき輝はそう言ってくれたけど、これはそういう事じゃないよな。
きっと希良も輝も、オレがもし古文で赤点取っても、塾の特進クラスを落ちても、何も変わらないと思う。
だからこそ?2人と一緒にいるなら、半端でも、もうちょっとちゃんとしようとか、そんなこと考えた。
とはいえ、問題をやり始めてすぐに詰まってしまい、希良に漢文を教えてたいち兄の背中をつついた。
「ちょっと次、教えてください。」
「お、わかった。待ってて。」
少しして、いち兄がオレの方にきて、手元のプリントを見て、驚いた。
「なに、みー、ちゃんと古文やってたのか?無理すんなよ。」
「いや、物理は一問解いて、満足したっていうか。こっち、わかんないままなのも、気持ち悪いっていうか。」
偉そうに言っても、ぜんぜんわかんないんですよ…と正直に言って、笑われると思ったけど、もちろんそんなことはなくて。
3人それぞれ、そんな風に、分からないところを聞きながら、ひたすら問題を解いて、気がついたら、5時近くになってた。
「よし、今日はこの辺りで終わりにしようか。」
そう声をかけられて、オレたちは口々にお疲れ、などと言い合ってバタバタと参考書類を片付け始め、いち兄が夕食の様子を見に、部屋を出て行った。
理系に強い人って、羨ましいです。特に物理に強いなんて、もう神の域ですww
夏休みの出来事はまだまだこれからです。
楽しみにお待ちください!




