夏の午後〜其の壱・爆食と恋バナ
わからないこと、それは多分、自分自身が一番。
それを踏まえて、人は先に進むしかない。
けれど、自分自身はどこまで行っても、わからない。
※夏休み、夜、お泊まり、となれば!やっぱり、恋バナですかね〜。でも、量が多いのに、あまり進まないです。
「3人とも、お疲れ様だったね、腹減っただろ。」
「いや、そんな。」
「色々、ありがとうございました。」
「いち兄こそ、ずっと待っててくれて、ごめんね。」
いち兄からそんな言葉をかけられて、オレたちはそれぞれ、恐縮してしまった。それなのにさらに。
「いや、オレが無理やり試験受けさせたみたいなもんだから。それでさ、ウチの母親が、昼メシ用意して待ってるらしいんだけど。もちろん、みんなの分ね。」
「え?おばさん、まさか。」
「うん、そのまさかね。3人とも連れて来いって。」
「え?」
「え?」
輝と希良が、まったく同じ反応して、オレは思わず笑ってしまった。
「キタね、おばさんのご飯攻撃。
もしまだ、時間大丈夫なら、一緒に行こ?おばさんのご飯、美味いよ。2人とも、オレより食べるから、きっと喜ぶと思うし。」
「いいの?」
先に答えたのは希良。この前の焼肉でもそうだったけど、細いのに、よく食べるんだ。
「みずきがいいなら。お邪魔します。」
輝は多分、3人の中で一番食べると思う。モデル体型のスタイルお化けなのに、ちょっとずるい。
オレは最近、というか高校生になってから?なんかあんまり食べられない時が多くて。実は前より痩せちゃったんだけど。
でも、おばさんのご飯はいつも美味いし、2人と一緒なら、今日は食べられそうな気がしてた。
案の定、いち兄宅のダイニングテーブルには、絶対、4人分ではない量の料理が並んでて、さらにオーブンからまだ何か焼けている、良い匂いがしていた。
「えーっと、おばさん、たく兄、帰ってきてるの?」
あまりの量に、オレが一応、確認する。
「え?匠?帰ってないわよ。なんで?」
おばさんが、不思議そうに聞き返してきたけど、不思議なのはこっちの方だよ。
おばさん、高校生男子の胃袋を過大評価してないか?
「ほらほら、みんな座って。急に試験までやったんでしょ。お腹空いてるわよね。たくさん食べてね。」
飲み物は何がいいかしらと、冷蔵庫の中から、今度は何本ものペットボトルを出してくる。
ここは合宿所か?
一番慣れてるはずのオレが面食らっているのに、希良も輝も、平然とテーブルについている。
それぞれ飲み物を手にして、お疲れ様、と声をかけて、食べ始めた。
オレはさっきの疲れた感じからまだ立ち直れてなかったから、手近にあったポテサラとかをちょっとずつ口に入れてたが、他の2人はおばさんの期待を裏切らない食べっぷりだった。
「みーちゃん、温かいスープあるわよ。飲む?」
「あ、うん、お願いします。」
オレの様子を気にして、おばさんが温かいミネストローネをもってきてくれた。
「みずき、まだ、調子悪い?」
輝が手を止めて、オレの顔を覗き込んだ。
その言葉に希良も心配そうにみてきた。
「大丈夫?」
「うん、大丈夫。ゆっくり食べるから、気にしないで、2人はどんどん食べて。あ、唐揚げ、美味いよ。オススメ。」
そう言って、山盛りの唐揚げを2人に勧めた。
「そうそう。お料理も時間も、たくさんあるんだから、ゆっくり食べていいのよ。」
おばさんの言葉はシャレにならなかったけど、2人が美味しそうに食べている様子は見ていて、なんだか幸せな気持ちになってきて、オレは無意識に笑いながらスープを飲んでいた。
「美味い?」
「めちゃくちゃ、美味いよ。」
「この唐揚げ、今まで食べた中で一番かも。」
オレの質問に答えながらも、2人の箸は止まらないかった。
そしてオレは、唐揚げをモグモグしている希良の唇から、目が離せなかった。
「お、食べてるね。さすが、高二男子。」
いち兄がどこかから、戻ってきて、オレの前に座った。
「なんかあった?」
「おう、春おばさんに電話してた。心配してたから。電話するって約束してたし。」
その言葉にオレの両隣の2人が反応した。
「あ、ヤバ。」
何個目かの唐揚げをモグモグ言わせながら、希良が慌てた。
「オレも、連絡してない。」
輝も手元のコーラを飲んで、ポケットからスマホを取り出した。
「食べ物は逃げないから、2人とも、電話してらっしゃい。帰りはこのお兄さんが送るからって言ってね。」
おばさんの言葉にいち兄が頷いてる。
「え、でもそれは…。」
希良と顔を見合わせて、輝が遠慮して言うが、さらにオレが言う。
「送ってもらった方がいいよ。まだ暑いし、2人だって疲れてるだろ。オレの心配、ずっとしててさ。ね、送ってあげてよ。」
最後は、オレからいち兄にお願いした。
2人とも、それを見て、ちょっと首を振ったあと、頷き、それぞれ、スマホを手に立ち上がった。
「みーは今日、このまま泊まっていくといいって、おばさんが。」
「え、なんで?」
「匠ももうすぐ帰って来るし、オレ、明日も休みだから。久しぶりにいいだろ。夏休みなんだし。」
いち兄はそれ以上言わなかったけど、オレが調子悪くなったことを聞いて、母がはそう言ったんだと思う。
そういう時は、その通りにした方がいいのかも。
「わかった。ありがとう。おばさん、お世話になります。」
おばさんは何も言わずに、笑ってOKサインを出してきた。
「そうだ。この夏休み中に、2人ともみーと一緒にここに泊まりに来て、勉強合宿するの、どう?」
戻ってきた2人に、いち兄がそう言った。
「え、それ、楽しい?楽しくなさそうなんだけど。」
オレが異を唱えるが、輝も希良もなんか、乗り気で。
「えー、ぜひお願いします。」
と、輝が言うと。
「オレもぜひ。今日でもいいくらいだけど、何も用意してきてないから、あらためて。お願いします。」
希良がそう言って、オレを見るとにっこり笑った。
2人がいいなら、まぁいいか…いいのか?
そしてそこからまだ、オレ以外の4人の爆食いは続いて、一度、終わったと思ったら、帰って来たたく兄に煽られて、結局、テーブルの上はほぼ空になった。
その日の夜はいち兄の部屋に布団を運んで、たく兄と3人、枕を並べた。
「な、せっかくなんだから、恋バナしようぜ。」
たく兄が突然、そんなことを言い出した。
「なんだよ、それ、高校生じゃないんだから。」
いち兄が呆れて言い返す。
「いいじゃん。高校生が1人いるじゃん。みー助だって、好きな人くらい、いるだろ?もう高二なんだからさ。」
「あー、確かにそれは気になるな。」
いち兄があっという間に取り込まれる。
「え?何それ、オレ?」
キョトンとしてるオレの顔を、2人が両隣から覗き込んだ。
「いや、好きな人とか、そんなのありませんけど…。」
「えー?なんだよ。」
がっかりするたく兄。
「まぁ、そんなことだと思ったけどな。」
ニヤリと笑ういち兄。
「なんか、ごめん。」
訳もなく、とりあえず謝る。
「あ、じゃあ、別のこと、聞いていいか。」
まだ諦めずに、たく兄が話しを続ける。
「みー助はさ、あの2人のどっちが好きなの?」
「え?2人って。」
「決まってんじゃん、きらと、かがや。」
「いや、それは、2人とも…友だちだし。」
「違う、違う。友だちとかってことじゃなくてさ。恋人にするなら、どっち?」
「匠、ふざけんなよ。そのくらいにしておけ。」
「ふざけてないし。だって、あの2人はどう見ても、みー助のこと好きじゃん?」
「もう、やめろって。みーが悩んじゃってるじゃないか。」
確かにそうですに、オレはたく兄の言葉に考え込んでた。
2人とも、オレのことが好き?友だちとしてじゃなくて?
だから、ハグより強目に抱きしめられたり、希良からはキス…されたのか?
でも、それよりも。
「どうして、そう思うの?たく兄が見てて、なんで2人がオレのこと好きだって思うの?」
「ほらみろ。お前のせいだからな、匠。みー、いいんだよ。そんな深く考えんな。」
「いいじゃん。ホントのことだよ。高二の男子にしては、距離が近いんだよな。友だちとつるむとか、ジャれるとかより、なんかもっと親密な感じかするんだよ。」
「それは…オレがなんかちょっと、おかしい時があるから…心配して、じゃなくて?」
つい、思っていたことが口から出た。
「何言ってんだよ、みー。」
「おかしい時って、何だよ。」
2人がオレの思っていた以上に反応したのを見て、あぁ、やっぱりそうなのかと、思った。
「兄ちゃんたちだって、そう思うから、いつも心配してくれてるんだよね?ウチの姉ちゃんたちだって、親も、おばさんもそう。オレ、なんか時々、おかしなこと言うし、記憶が曖昧なこと、忘れてること、多すぎるし。理由もなく、体調が悪くなることあるし、自分でもよくわからないんだけど、どうしたらいいのかも、わからないんだけど…。」
枕に顔を埋めて、そのままさけんでいた。ずっと思っていたこと、心の中に溜まっていたことが溢れ出てしまった。
「ごめん、兄ちゃんが悪かった。変なこと言ったのはオレの方だよ。だから、泣くな。」
薄い夏掛けの上から、たく兄がオレの体に覆い被さってきて、ギュウギュウ、抱きしめてきた。
ベッドに座っていたいち兄がオレの横に降りてきた気配がした。
いつもと違ってゆっくり、優しく、頭を撫でられる。
「みー、オレたちが心配するのは、みーがおかしいからじゃなくて、お前のことが好きだからだよ。わかるだろ?」
オレはやっと、顔をあげて、いち兄の顔を見た。
「みーがたまに混乱することは、わかってる。それがみーにとって、辛いことだっていうのも、わかってるよ。」
「うん。」
いち兄の言葉に、我慢出来ずに泣き出してしまった。
「オレ、自分で自分が分からない。自分を、どうしたらいいのか分からない。」
もう、何を言ってるのかもわからないまま、オレは泣いていた。
「驚いたな。」
たく兄の呟きで、何故かオレは目を覚ました。
泣きながら、眠ってしまったらしいオレは、2人の腕の中にいた。
「匠、お前、わかってて、ワザとあんなこと言ったんじゃなかったのか?」
たく兄と同じく、囁くほどの声で、いち兄が言う。
オレを起こさないようにしてるんだと思うと、目が覚めても、そのままいち兄の胸に顔を埋めて、目を閉じたままでいた。
「まさか。兄貴みたいな計算、オレに出来るかよ。
この前の焼肉屋でのことで、やっぱりキーになるのはあの2人なんだって思ったから。
あとは単純に、ちょっとからかってみただけだったんだけど…。可哀想なことしたな。」
やっぱオレ、からかわれたのか。まぁ、たく兄の性格を思えば怒る気にはならない。
でも、キーってなんのことだ?
「ホントにな。ここまで回復してるとは思ってなかった。混乱しているっていう自覚があるだけじゃなかったんだな。」
「あの2人、どっちかと、何かあったんじゃないのかな。」
たく兄の鋭い一言に、反応しないように体を固くした。
「何かって、何?」
「いや、それはわかんないけど。
ずっと一緒にいたかがやと違って、きらは今まで、一緒にいられなくて、色々、我慢していたと思うから…急に何かしちゃうのも、あるかもって。」
2人の言ってることはわかるような、わからないような、だった。回復って、どういうことだ?
そしてたく兄の鋭さには驚かされた。
希良が我慢してきた…オレと一緒にいたかったのに、いられなかった?
だから、キス…?
いや、それはそれで、全然、訳がわからない。
そして、本当は…一番わからないのは…。
オレがその全部、何も嫌じゃないということだった。
希良と輝に両側から取り合うように腕を取られることも、輝に「おまじない」をされたことも、希良にキスされたことも。
その時は驚いたり、戸惑いはしても、いま、それを思い出しても、嫌じゃない。それどころか、ちょっとドキドキして、嬉しいような気持ちになってしまう。
オレは一体、どうしちゃったんだ?
それが一番、わからなかった。
やっぱり、高校生の男子はたくさん食べる方が好きです。
そして、知り合いの男の子がいるお母さんで、たくさんご飯を作るのが上手い人がいて、そういうのも、憧れるのです。




