ギルドとフルアーマー
「女神ファルナスよ。聞いてください」
今朝も、女神は僕の方を向いてくれない。
本を開いているのに、読んでもいない。
でも、話を続ける。
「あなたが授けてくださった『墓守』という職業。僕は有効な使い道を見付けることができました」
僕は後ろを指し示した。
そこには、バニが立っている。
「【スペル・セメタリー】! あれは素晴らしい! 僕は女神の偉大さを改めて実感しました。やはり、女神は間違いを犯さない。にも関わらず、僕はあなたを疑ってしまった。すみません。お許しください」
僕は頭を下げるが、女神は無視する。
でも、僕は話し続ける。
「しかし! しかしです! 僕はあなたに言いたいことがあるのです。あのバニという少女です。食べすぎです。大喰らいなんです。なんとかしてください。そのうち、路傍の石まで食べるんじゃないか。僕は不安でなりません」
僕は息を吐いた。
言いたいことは言えたので、すっきりした。
回れ右して、バニの方を向く。
「ライド。終わったのー?」
「うん。ばっちりだよ」
教会はいいものだ。
屋根があるので、雨の日でも風の日でも、女神と会話ができる。
それに広い。ほとんど朝一番に来たので、人も少なくて静か。
今は老人が数人ほど、椅子に座って手を組んでいる。
シスターの姿も見える。こちらも数人ほどが、朝の作業をしている。
案内板によれば、薬を売っていたり、魔導書を置いていたりするようだ。
聖職者と言えば、薬学に明るく、魔法についても詳しい人が多い。
今度、機会があれば、色々と聞いてみるのもいいかもしれない。
「じゃあ、行くよ」
「行くって、どこにー?」
「仕事だよ」
「仕事?」
「そう。僕はこれから働くんだ」
「なんで働くのー?」
「お金がないからだよー」
今更だが、僕は実家から追放されているのだ。
もともと手元にあったのは、一ヶ月程度の生活費だけ。
それがバニを起こしてから、一夜にして消え去ってしまったのだ。
まさに魔法。【トゥルー・バニッシュ】である。本当に恐ろしい。
冗談はともかく、僕は早急に働き口を見つける必要がある。
「というわけで、町にある掲示板までやってきました」
「おー、いろいろ書いてあるー」
ちなみに、僕たちがいるのは『クラウンタウン』。
クラウンとは冠のこと。
この町は戦争中に国王をかくまったことがあった。
そのときに、王様から頂いた王冠が名前の由来なんだそうだ。
「仕事はあるな」
只今、国の経済状況は良くもなく、悪くもなく。
しかし選ばなければ、仕事の需要はあるようだ。
「……でも、時給が安い」
ラグエードは貴族であり、僕はこう見えてもボンボンのお坊ちゃんだ。
暮らしは贅沢であったので、あんまり給料が安いのはちょっと……。
「……ああ! やっぱり、お約束に行くしかないのか!」
「おやくそくー?」
追放された人々がやる仕事。
誰もが知ってるお約束。当然、あれのことだ。
「というわけで、ギルドまでやってきました」
「わー、冒険者がいっぱいー」
特に経歴が必要なく、危険さえ犯せば、一日で大金が稼げる場所。
冒険者ギルド! お約束の仕事場だ。
中に入ってみると、まさにギルドって感じの場所だった。
正直に言うと、何度か入ったことがあるので特に驚きはない。
まだ朝早いが、冒険者はわりといる。みんな仕事熱心のようだ。
受付は複数あるが、僕は奥側の受付を使うことにする。
優しそうなお姉さんが、僕を迎えてくれた。
「どういったご用件でしょうか?」
「クエストを受けたいんだ。ダンジョンにも入れるようにして欲しい」
「それなら、まずは冒険者登録からですね」
お姉さんは、僕に紙とペンを手渡した。
紙は契約書であり、署名と捺印の欄、それから契約内容がつらつらと記されていた。
「むずかしいこと書いてあるー」
バニには難しいようだが、よくあることしか書かれていない。
さっと流し読みしたところで、僕は手を止めた。
「あの、質問があるんだけど」
「なんでしょうか?」
「この個人情報を記録、保管というのは」
「はい。これはですね……」
お姉さんの簡単な説明を聞いたあと。
僕はペンを机に置いた。
「おかしくありませんか? 冒険者は身元が不明でもなれるものと聞いていたんだけど」
もっと言うと、名前は偽名でも良かった。
『ボブリン』みたいなジョークネームでも登録できたのだ。
「はい。おっしゃるとおり以前はそうだったのですが、近年は条例が厳しくなり、ギルドとしましても……」
頭を抱えて、数歩さがった。
「どうしたの?」
「僕の情報がギルドに登録される」
「それの何がダメなの?」
ダメダメなのだ。
これでは父上に、僕の居場所から受けたクエストまで、全て筒抜けになってしまう。
父上は、僕に興味がないかもしれない。
だが、束縛されているようで、僕には受け入れられない。
「でも、働かないといけないし、どうしよう」
僕が受付の前で右往左往していると、お姉さんが右手を上げた。
どうやら、後ろの人を呼んでいるようだ。
「なんだ? なにかあったのか」
僕の前に現れたのは、フルアーマーだった。
頭の上から足の先まで、ガチガチに防具で固めている。
顔の部分だけにわずかな隙間があり、そこからシューシューと息をしている。
これから戦場にでも行くのかという出で立ちだ。
そして赤い。全身が赤で染められている。
ちなみに、この赤色は魔法防御の高さを示している。
素材の関係で、魔法耐性の高い防具は赤く染まりやすいのだ。
「えっと、どちらさま?」
僕が訪ねると、中の人は仮面を外してくれた。
なんというか、普通の美人だ。
長い髪を後ろでまとめており、女神ファルナスのような雰囲気の女性だ。
あと、バニに続いて、この人も僕より背が高い。
「紹介が遅れた。私はミネアだ。よろしく」
ミネアが手を出して来たので、僕たちは握手をする。
「僕はライド・ラグエード。彼女は、バニ」
バニがぺこりとお辞儀をした。
よし。ちゃんと僕が教えた通り、礼ができたようだ。
「ラグエード……そうか、君はラグエードの一族か」
「ええ。追放されたんだけど」
「君のお父さんの書いた本を読んだよ。冒険者として、とても参考になった」
あれを読んだのか。けっこう難しいことが書かれていた気がするが。
理解できるということは、魔法に関しても詳しいのだろう。
「……ゴホン」
受付のお姉さんが咳き込んだ。
会話を先に進めろということらしい。
ちなみに、名前はローズ。最初に紹介された。
「何か困ってることがあるようだが、私が相談に乗ろう」
「えっと、実は……」
僕が打ち明けると、ミネアがウンウンと頷いた。
そして、ドンと胸を叩いた。
「それなら簡単だ。私と一緒にダンジョンに潜ろう」
「……え? どういうこと?」
「私に同行という形を取れば、ギルドに登録しなくてもダンジョンには潜れる。私の名義であれば、クエストも受けられる」
「……なるほど」
そんな抜け道があったのか。
「どうかな? 嫌なら別の方法を考えるが」
「いえ、願ってもない話だ。ぜひ一緒に」
「そうか。私は基本的にギルドにいる。準備ができたら、声をかけてくれ」
僕は良い人と知り合えたようだ。
これで、お金を稼ぐことができる。




