スペル・セメタリ―
数百年前の書物『怪奇現象伝』には、こう書いてある。
いったい、どこの誰が作ったのか。
この世には、言葉にするのも恐ろしい危険な魔法が存在する。
レッド・スペル。
人々は他の呪文と区別するため、そう呼ぶことにした。
そして、その呪文は忌み嫌われ、誰にも使われないように隔離された。
赤い呪文は深い深い眠りについた。
暗い暗い墓の中。
魔法の墓場『スペル・セメタリー』にて。
「スペル・セメタリーか」
有名な話ではあるが、あれはお伽話のようなものだ。
僕も子供の頃に父上に聞かされたことがある。
『倉庫には、赤い呪文が眠っているんだ。絶対に近づいてはならないよ』
僕はそれを聞いてから、薄気味悪くて倉庫には近寄れなくなった。
もちろん、それは子供の頃の話。
今は僕を倉庫に近づけないための嘘だったと分かっている。
まあ、要するに『スペル・セメタリー』は、よくある怪談の一つということだ。
「しかし、まさかね」
魔法の墓場が、実在するのか。
驚きだが、まだ確認はできていない。
「うーん。これかな」
老人の言葉に従い、看板から東に128歩、南に104歩と進んだ結果。
僕はついに鍵穴らしきものを発見した。
長い草をずいぶんとかき分けたが、どうやらこれはカモフラージュのようだ。
そばを歩くと、足音が他とは違う。
この下には何かあるのだ。
「えっと、鍵は……」
鍵の種類は、至って普通のもの。おそらく、シリンダー錠を開ける鍵と形が一緒だ。
しかし、素材は変わったものが使われていて、魔力によって変形することが分かる。
僕は少しだけ魔力を注ぎ、鍵穴に近づけてみる。
はたして、開くのだろうか。
「ようし」
考えていても仕方がない。
とにかく、鍵を差し込んでみる。
穴にはぴったりと嵌った。僕はそのまま右に捻る。
カチッ! 音と共に、地面が揺れた。
ズズズズッと石板が動くと、そこから地下へと続く階段が現れた。
「驚いたな」
階段は暗闇へと続いている。
たしか、松明があったと思うので、カバンから取り出して、火をつける。
「行ってみよう」
僕は足を踏み入れた。
石段は古いもののようだが、あまり汚くない。
老人は『管理人』と名乗っていたので、掃除などはしていたのかもしれない。
暗闇の中を松明を頼りに、一歩ずつ進んでいく。
100段ほど降りただろうか。
底が見えて来た。
「よっ! とっ! とっ!」
僕は段を飛ばして降りていく。
かなり明るいようなので、そこで松明を消す。
奥は眩しくて見づらいが、どうやら間違いないようだ。
「魔法の……墓場」
墓場というものは、独特の匂いがするものだが、まさにそういう匂いが立ち込めていた。
大きな鉄の柵で囲まれており、天井では光が灯っている。
石畳は途中で途切れている。
踏むと軟らかい。緑が混じったこの地面はたぶん腐葉土だろう。
「普通は、こんなところに墓場なんか作らないよな」
つまり、眠っているのは人間以外だと、僕は考えている。
もっと近づき、入口のところまで行ってみる。
金網の扉だ。ここを開けて、中に入らないとならない。
柵には隙間があるが、周りには鉄条網が幾重にも張られているからだ。
「ふんっ……ふうんっ」
金網に指を入れて、扉を揺らしてみる。
開く気配がない。
先ほどのように、鍵穴も見当たらない。
どうすれば、開くのだろう。
「困ったな……」
今更、引き返すことになるんだろうか。
老人も、この扉については何も言ってなかったし、僕が考えてみるしかない。
こういう場合は、呪文のことが多い。
扉を開く魔法の呪文。代表的なものは、『開け、ゴマ』だ。
「開け、ゴマ!」
一応、言ってみるが、無反応。
しばらく考えて、僕はカードのことを思い出した。
さっき見たとき、『スペル・セメタリー』と書かれていたのだ。
また、何か書かれているかもしれない。
「……」
どう考えても、呪文のような一文が追加されていた。
しかし、これは……。
「ええい! 言ってみよう!」
僕は両手をかざした。
そして、唱えた。
「扉よ、消え去れ!」
すると、扉が。
シュウウウウッ!
白い蒸気なようなものが噴き出すと、瞬く間に姿を消した。
「これで合ってるのか」
『開け、ゴマ』のパチモンくさい気はしたが。
☆ ☆ ☆ ☆
ここは墓場で間違いないようだ。
中を確認してみたところ、墓らしきものを発見した。
その数は七。
表面には何か書かれているが、これは古代文字だろう。
しかし、僕には読める。古い魔導書には普通に使われているもので、何度も解読したことがある。
No.3
魔法名: ???????
効果: ???????
説明: ???????
解放条件: ??????
「不明な点だらけだな」
しっかりと解読したはずだが、解読できていない。
解読には、条件が必要ということか。
しかし、一番下の『解放条件』という項目も、読むことができない。
つまり、解放条件も分からない。
どうすれば、いいんだろう。
「この墓はあと回しだ」
上部には、『No.3』と書かれている。
墓には番号付けがされており、順番があるということだ。
この場合は、まず一番目の墓を解読するべきだろう。
〇
〇 〇 〇
〇 〇 〇
単純に図にしてみると、墓の並びは上のようになっている。
本当は地面が盛り上がっていて、位置がずれている。
墓の間隔も、もっと離れている。
これほど奇麗には並んでいないのだが、それはどうでもいい。
数が七なので、一つだけ仲間外れがいる。
ちょっと気になってしまうが、今は無視。
右端の手前の墓を調べてみる。
No.1
魔法名: トゥルー・バニッシュ
効果: ???????
説明: ???????
解放条件: スペル・セメタリーに入る
『No.1』を見付けることができた。
名前と解放条件が解読でき、しかも条件はすでに満たしている。
『No.1【トゥルー・バニッシュ】を解放しますか? 【A:はい B:いいえ】』
新しい文章が表示された。
どうやら、解放は任意のようだ。
まあ、条件を満たしただけで勝手に解放されたら、僕としても迷惑だ。
「さて、どうしようか」
僕は考える。
魔法の墓場。ここには危険な魔法【レッド・スペル】が眠っているのだ。
もしも、解放してしまったら、どうなってしまうのか。
老人はどう使うかは自由だと言っていた。
それに、これが女神ファルナスの意志であるなら……。
「いや、違うな」
僕は見てみたいのだ。
おそらく、父上も世界中のどんな魔導師も使ったことがない。
そんな魔法を使ってみたい。
独り占めしたいのだ。
「解放だ。僕は【トゥルー・バニッシュ】を解放する」
すると、墓に書かれた文字が、赤い文字へと切り替わった。




