リフレクト・チョーカー
僕は街道沿いの道を歩き、ひたすら北へと移動していた。
「赤い看板か。どの辺りにあるんだろう」
看板の大きさや形状も、よく分からない。
「……ん? あれかな?」
木々の生い茂る森に差し掛かったところで、看板らしきものを発見。
近寄ってみる。
人の大きさほどもある看板で、長方形。
その色は全面に渡って赤色で、文字が書かれていない。
『赤い看板』というのは、これに間違いない。
そう確信した僕は、看板の前まで行く。
すると、そこには二人組の男がいた。
老人の関係者かと思ったが、どうやら違うようだ。
おそらく、ただの山賊で、この辺りを縄張りにしているのだろう。
小太りのおじさんと、ひょろ長いノッポ。
僕に気づくと、すぐに取り囲んできた。
「ラグエードの長男だな。どこ行く気だ?」
「外れ職業なんだって? 追放とはおまえの親父も酷いことするなあ」
彼らの目的はすぐに分かった。
ラグエードの長男なら、大金を持ってるはず。
そう考えて、僕の身ぐるみを剥がす気だ。
いつもなら馬車に乗って街道を移動するうえ、そばには使用人が付いている。
しかし、今の僕は一人だ。ラグエードとは縁も切れたので、仕返しに怯えることもない。
逃げてもいいが、看板はすぐそこ。
それに賊相手に逃げ出すというのもな。
「袋だ」
「……これ?」
「そうだ。その袋を置いてけ。そうすれば、命だけは助けてやる」
僕の肩にかけてる袋の方に目を付けたのか。
珍しい奴らだ。背負ってるカバンには目も暮れないとは。
「袋の中身は分かってるんだ。杖だろ? ラグエードの長男が所持する杖なんだ。おそらく、高値で売れる。数万Gはするに違いない」
数万Gか。もちろん、どんなに高価でも売るつもりはないが。
僕はカバンを地面に置くと、男達と距離を取った。
それから、肩にかけた袋を降ろす。
130センチほどの長い袋だ。僕はその袋の口を開いた。
「おっ、魔法を使うのか?」
「ラグエードが使う魔法か。きっと、すげえ威力なんだろうな」
男達が僕を挑発してくる。
「おらおら、撃ってこいよ」
「ぶっぱなしてみろよ。すげえ奴を」
魔法を撃って欲しいのだろうか。
「……様子がおかしいな」
おそらく、こいつらの目的は最初から、僕だった。
この道を通ると思って、待ち伏せしていたのだ。
そこまではいいが、どうして僕の魔法に興味があるのだろう。
何か狙いがあるということか。
僕が魔法を使えば、彼らに良いことがあったり。
「まあ、いいか」
僕は開いた袋から武器を取り出した。
毎日やってることと変わらないのだが、それを見たとたん、男達の顔が青ざめた。
「……なっ! どういうことだ」
急に焦り出す彼らに構わず、僕は武器を突きつけた。
「そ、それ、剣じゃねえか!」
「話が違うぞ!」
杖だと思っていたら、剣だった。
それだけのことで、急に慌てだした山賊達。
ラグエードは魔導師の名門、というのは有名な話だ。
中には勘違いする者もいるだろう。
「知らないようなので、教えておこう。僕の先祖――メギド・ラグエードは、魔導師でありながら、剣聖と肩を並べるほどの剣の腕前を持っていた。彼は属性剣の使い手、つまり魔法剣士だったのさ」
僕は剣を構えた。
両刃の剣で、柄には特別な意匠が施されている。
この剣に魔力を注ぎ込むことで、様々な能力を引き出すことができる。
僕の愛用の剣だ。
父上になんと言われようと、この剣だけは手放すつもりはなかった。
「当然、僕も剣が使える。幼い頃から、師匠の元、剣の修行を受けて来たんだ」
彼らに歩み寄っていく。
男たちも腰に提げていた武器を手に取った。
太い方は斧。ヒョロ長の方は短剣。
及び腰ではあるが、武器は使い慣れていそうだ。
「しかし、君たちの予想は当たっていた。この剣は高価なんだ。売れば、確実に数十万はする。まず、素材からして、他の剣とはまるで違う。この素材は――」
「くそったれええええっ!」
太い方が斧を持ち、突っ込んできた。
そこに、ヒョロ長も続く。
「待ってよ。まだ剣の解説が……ああ! もう!」
仕方ない。僕は剣に魔力を注ぐ。
銀色だった刃が、根元から徐々に赤みを帯びていく。
刃の先まで緋色に染まったとき、ちょうど相手の斧が振り下ろされた。
バチバチッ! 刃に電撃が流れる。
僕は剣を振り抜いた。
「紫電刃!」
一瞬だけ、威力とスピードが跳ね上がる。
僕の技の一つだ。
当然、僕の剣の方が圧倒的に速い。
パキっと音がすると、斧の柄が切れ、刃が地面に転がった。
突然のことに、男は固まっている。
僕は雷属性。その主な効果は、攻速アップ。
具体的には、連続攻撃や詠唱阻害が発生しやすくなる。
男にとっては、目にも止まらぬスピードだったはずだ。
「見たか、この切れ味を。これこそが僕の剣。その名も――」
「ひいいいいっ!!」
声を出したのは、後ろのヒョロ長だ。
太い方に続く気だったようだが、ビビったのか攻撃を中断した。
僕を見て、装備していた短剣を降ろした。
「……くっ」
そして、左手を懐の中に入れた。
懐から、何か出す気か。
僕はヒョロ長に近づくと、すぐに左手を剣で叩いた。
「……あがっ」
男は声を上げると、左手から物を落した。
「これは、なんだ?」
拾い上げてみると、それはチョーカーだった。装備の一種で、普通は首に提げておく装飾品だ。
このドクロをかたどったもの。
これには見覚えがあった。
「リフレクト・チョーカー」
装飾品の名前だ。
効果は『魔術反射』。相手の魔法を跳ね返すというもの。
レアリティは非常に高い。父上でも、手に入れるのは難しいだろう。
裏側をチェックすると、製作者のサインがない。
レプリカか。ということは、使用回数は1~2回程度。
「だから、僕に魔法を使わせたかったんだな」
魔法を反射させて、僕を倒したかったのだ。
気持ちはよく分かる。
良い物を手に入れたら、実際に使ってみたい。
当然の欲求だと思う。
だが、売値は数十万Gを軽く超えるはずだ。
こんな場所で追い剥ぎなどする必要はない。
これを売り払えば、数年は生活できるんじゃないだろうか。
「おまえたち、これをどこで……」
話しかけようとしたら、男達はすでに走って逃げていた。
「覚えてろよー!」
そばにあった森の中に入っていった。
あれを探すのは難しいだろう。
「……ふう」
僕は息を吐くと、剣を鞘に納めた。
「あっ、いけない。カードが」
先ほどの争いで、落してしまったようだ。
僕が拾い上げると、カードに文字が浮かび上がっていた。
『スペル・セメタリ―』
父上の前ではあれだけ念じても出なかったのだが。
しかし、この言葉、僕は聞いたことがあるな。




