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怪しい男


「すみませーん。誰かいませんかー」


 声を張り上げてみるが、返事はない。

 続いて、ドアをドンドンと叩く。


 しかし、誰も出てくる様子はない。

 見てみると、看板が見当たらない。店の中にしまってあるのだろうか。


「……留守なのか」


 仕方ないので、出直すことにする。


「ここは鍛冶屋か?」

「うん。そうだよ」

「ということは、ライドの用事は武器に関することだったんだな」

「ご名答。この剣のメンテナンスを頼もうと思ってたんだ」


 僕は意味もなく剣を抜いた。

 銀色の刃は、夕日に照らされてキラキラしている。


「だが、君は急な用事だと言っていなかったか? 武器の修理を頼むだけなら、後日でも良かったのでは?」


 魔力を注ぐと、刃が緋色に染まっていく。

 属性剣は、使い手の魔力によって、属性が変化する。


 僕の場合は、雷属性。

 人には、それぞれメインの属性があるので、装備する人によって属性は変わる。


 さらに、その属性に応じて、効果まで付与される。

 雷属性の効果は、『攻速アップ』。連続攻撃や詠唱阻害がしやすくなる。


「でさ。この柄のところに、石があるでしょ?」

「ああ。まるで宝石のようだが……」


 彼女が石を見て、目を細めた。


「曇っているな。別の色も混じっている」

「うん。これね。最初はミネアが言うように、宝石みたいだったんだ。ピカピカに輝いていたんだよ」


 この石は、剣を使う度に、どんどん曇っていく。

 最終的には黒ずんで、炭のように粉々になるそうだ。

 要するに、属性剣には使用期限があり、定期的に更新をしなければならない。


「この石を交換する必要があるんだって。僕もメンテは初めてだから、よく知らないんだけど」 

「ほう。それで、わざわざウエスタウンを選んだのか」

「うん。名工がいるからね」


 僕が訪れたのは、その名工がいる鍛冶屋だ。


 名工の名は、『コジロウ』。

 武器の勉強のため、わざわざ遠い国から移り住んできたそうだ。


 そして、数年足らずで、この国の鍛冶をマスター。町一番の名工になったのだとか。

 努力家は好きだ。コジロウは慣れない環境で、いろいろと苦労もあったことだろう。


 僕の強さは、ラグエードの血のおかげ。

 だから、彼には少し憧れるところもある。


「でも、留守なら仕方ないか。また、明日に来てみることにしよう」


 滞在期間は、特に決めていない。

 せっかく珍しい町に来たのだ。しばらく観光してみるのも良いだろう。


「お肉ー。お肉ー」


 バニが僕に寄りかかってきた。

 重い。それに邪魔だ。地図が読みにくい。


「まだ、肉だと決まったわけじゃないよ。大人しくしてて」

「はーい」 


 今、僕たちがいるのは、『ウエスタウン』。

 この辺りはずっと岩石地帯が続いているらしく、地面も岩と同じ色。


 建物も岩石と同じ色だ。屋根も平面だし、『クラウンタウン』とは風景が違う。

 街並みは、けっこう賑やか。


 夕方近くとあってか、通りには仕事帰りの人達も多い。

 鉱山が近くにあるせいか、シャツ一枚の男達が歩いている。


「現地の人なら、お店についても、詳しいんじゃないか」


 もちろん、食事処の話だ。

 肉好きな娘のためにも、早く見つけてあげないとな。


「ちょっといいですか? 道についてお尋ねしたいんですけど」


 僕は地図を持ちながら、男の一人に話しかける。


 すると、男は怯えたように、僕から遠ざかった。

 どうしたんだろう。念のために後ろを見るが、特に何もない。

 明らかに、僕を見て怯えている。


 それから、男は呟いた。


「……ウィザード……」


 魔導師のことだろうか。

 ちなみに、僕はローブを着ている。


 ローブは魔導師にとっては正装で、僕も他所に出かけるときは、よく着ている。

 黒いので暑いが、砂埃を避けるのには、ちょうどいい。

 そのため、男は僕のことを魔導師だと思ったのだろう。


 だが、その言葉には、まだ続きがあった。


「……ファントム……」


 『ウィザード・ファントム』? なんのことだろうか。


「おい!」


 他の男たちにどつかれて、男は正気に戻った。


「……はっ。悪い。観光客だよな」


 大丈夫みたいなので、聞いてみる。


「店なら、いい所を知っているよ」

「ありがとうございます」


 お礼を言って、男たちと別れる。


「お肉ー。お肉ー」

「良かったね。お肉、食べられるよ」

「やったー」


 食堂が見えてきた。

 ここからでも、良い匂いが香りしてくるな。

 僕もお腹が空いてきた。


「……ん?」


 店の前で、男たちが対峙している。先ほどは鉱夫のようだったが、今度の男たちは防具を付けている。

 たぶん、冒険者のようだが、喧嘩だろうか。


「ひひっ。おまえもここで終わりだ」


 やせた男が合図をすると、複数の男たちが一斉に剣を抜いた。


 彼らの相手は、たった一人。


 あの背の高い男だ。

 手には杖を装備。ということは、魔導師か。


「へへっ、ドバイよ。まさか、仲間も連れずに一人で出歩くとはよおっ」


 そう言って、ナイフをペロっと舐めた。


「……ふっ」

「何がおかしい!」

「烏合の衆がどれだけ徒党を組もうと、大差はない」

「何おおっ!」


 ありがちな挑発で顔を真っ赤にする男。


「もう生かしちゃおけねえ! 死ねえ!」


 リーダーの合図で、男達が飛びかかる。


「はあああっ!」


 ドバイが気合を入れると、杖が赤く光った。

 先ほどから魔力を溜めていたが、それでも早い。数秒で、魔法を放つ準備ができている。


「メガファイア!」


 呪文と同時に、炎の球が男の一人に命中する。


「……ごふっ」


 衝撃を受けて、男は吹っ飛び、向かいの壁にぶち当たった。


「ファイア!」


 間髪を入れずに、もう一発。やはり、発動が早い。魔法をかなり使い慣れている。


「ファイア! ファイア!」


 そこから続けて数発を連射。気づけば、男たちは全滅していた。


「……」


 ドバイは無言で杖をしまうと、その場を立ち去る。


「喧嘩だー」

「ああ。喧嘩だ。クラウンタウンでも、見慣れた光景だがな」


 どうやら、バニとミネアには、あれが『ただの喧嘩』に見えたようだ。

 だが、僕は違った。

 ライド・ラグエードは、他の人とは目の付けどころが違うのだ。


「……妙だな」


 僕は、キリっとした顔で呟いた。


「ライド? どこが妙なんだ。私には普通の喧嘩に見えたんだが」

「おそろしく速い魔法! 僕じゃないと見逃しちゃうね!」

「……早く答えろよ」


 僕は、やれやれと肩をすくめた。


「ドバイは、最初に『メガファイア』を使った。あれがおかしいんだ」

「……は?」


 説明しよう。

 魔導師の戦術には、定石というものが存在する。


 その一つが、『攻撃魔法の順序』だ。


 基本的には、弱い魔法から先に撃つことになっている。


 何故なら、強い魔法ほど発動に時間がかかる。

 さらに、発動後に大きな隙が出来てしまうからだ。


 そのため、最初に『ファイア』を連発し、『メガファイア』は決めに持ってくる。

 これが定石。攻撃魔法のセオリーなのだ。


「僕だって、『スパーク』しか撃ってないだろ? あれは定石に従ってるからなんだ」

「うむ。ライドの言い分はよく分かった。だが、たまたまだろ? ミスしただけじゃないか」

「いや、ないね。ドバイは魔法を使うのに慣れていた。彼がそんな凡ミスするとは思えない」

「たまたま撃ちたい気分だったんだろ。『メガファイア』日和だったんだ」

「ありえないね。ドバイは怪しい」


 きっと、何か深い理由があるのだ。

 悲しい過去とか、妹を人質に取られてるだとか。


「追いかけよう」

「えー! お肉はー」

「食事はあとだ。ドバイが気になる」


 バニは、ぷくっと頬を膨らませた。


「シャツのおじさんの方が怪しいー!」

「あの鉱夫か。たしかに意味深なセリフを吐いてたね。『ウィザード・ファントム』だとか」

「ほらー!」

「まあ、ありがちなセリフだよ。意味深だっただけだ」

「……それを怪しいというのでは?」


 とにかく、僕はドバイを追いかける。

 あの男、何か引っ掛かるのだ。


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