お嬢様と決闘
僕たちは、ドバイの跡を追っていた。
「……やっぱりね。思ったとおりだ」
路地裏では、怪しい会合がおこなわれていた。
ドバイは、女と落ち合っていた。
しかも、ふわふわのドレスを着た女と。
「……怪しい」
まず、あの女が怪しい。
あんなドレスを着て、外を歩くことなんてできない。
この町は砂埃が酷いのだ。土が付くし、汚れてしまう。
というより、あれはパーティー用だろう。
でも、一部の階級では、普段から着用しているんだよな。
「彼女は貴族だよ」
見たところ、化粧もしている。
肌も荒れていないし、日焼け対策に日傘を持ち歩いている。
それなりにふくよかで、背筋も伸びている。変な癖も見当たらない。
育ちがよく、美貌にも気を使っている。
そして、それを当然のことだと思っている。
要するに、貴族。99%貴族だ。
「まるで、ライドのような奴だ」
「貴族だー。ボンボンだー」
「……金持ちで何が悪い」
別に、貴族だから悪いと言っているわけじゃない。
こんな路地裏で、貴族と会ってるから悪いのだ。
「ドバイは弱みを握られてるんだ。お屋敷の地下には、きっと囚われの妹が」
「恋人かもしれないぞ」
「ありえないね。こういう場合は、妹なんだ。定石だよ」
「……偏見だろ」
二人は会話しているようだ。僕たちは耳をすませてみる。
「……は……が……」
この位置からでは、何を言ってるのか分からない。
「周り込もうか」
「ダメだ。あちらに行くと、風上。ばれてしまう」
「じゃあ、もう少し近づこう」
僕たちが距離を詰めると、女のかん高い声がこちらまで届いた。
「なんですって! わたくしの言うことが聞けないっていうの!」
男は地面に膝を付け、頭を下げた。
「勘弁してください! お願いします!」
「あなた、わたくしに言いましたわよね」
「ええ。はい。分かっております! ですが……」
強そうな見た目のドバイが、お嬢様に頭を下げ、許しを乞おうとしている。
「……ドバイは借金でもしてるのかな」
「……ああ。ただごとじゃない雰囲気ではあるな」
だが、僕たちは部外者。あそこに割って入る理由もない。
「もう、けっこうですわ。そこに居直りなさい」
ドバイが正座をすると、彼女は傘を両手で持った。
まるで振り被るように掴んだので、僕は息を呑んだ。
あの傘で背中を叩き、折檻でもしようというのか。
何が始まるのかと見守る僕たちに、女は恐ろしい行動を取った。
それはまったく僕たちが、予想していなかったことだった。
ズキュ――ン! ズキュ――ン! ズキュ――ン!
魔法の炸裂音。
僕は使わないが、小型式の攻撃魔法で、凄まじい弾速が出る。
それで、ドバイを撃ち抜いたのだ。
「……うぐ……」
当然、頭を下げていたドバイは避けられるはずもない。
同時に、三発の弾丸を胸に喰らうと、その場で突っ伏した。
「……た、た、大変だ」
僕の顔は青ざめ、気が動転した。
目の前で、人が撃たれたのだ。
殺人事件だ! 非常事態だ!
「ミネア。僕は行くよ」
「当然だ。私も行こう」
二人で頷くと、ドバイに駆け寄る。
すぐに彼の安否を確認しなければならない。
僕は声をかけた。
「ドバイさん。大丈夫ですか?」
ドバイは息も絶え絶えに、答えた。
「……誰だ……あんたは……」
「誰でもいい! それよりも、あの女はなんなんだ。何故、ドバイを」
「……いいのさ……悪いのはオレなんだ……」
撃たれたのに、あの女をかばうというのか。
見下げた根性だ。
だが、僕は納得いかない。
「……お嬢様……ありがとうございます……ガクッ」
動かなくなったドバイに、僕は腹を立てた。
振り向いて、女を睨む。
彼女はきょとんとした顔で、僕の顔を眺めている。
「そこの傘女!」
「傘女? どこにいるのかしら?」
そう言って、キョロキョロと首を動かした。
「君のことだ!」
「わたくし? たしかに、傘は持っていますが」
「僕は君を許さない!」
もちろん、本気だ。真面目に言っている。
善良な市民を撃ち殺す奴は、貴族の風上にも置けない。
しかし、彼女はきょとんとしている。
言われたことが、よく分かっていない様子だ。
口に指を当て、何かを考えている。
しばらくすると、ポンっと手を叩いた。
「なるほど。決闘の申し込みですわね」
「……」
とんちんかんなことを言い出した。
「了承ですわ。わたくし、誰からの申し込みでも、受けて立ちますの」
「ちょっ、ちょっと待て。決闘じゃない。僕はまじめな話を……」
「あら。逃げるんですの。意気地がないのですね」
女に煽られた。
もちろん、僕は受けて立つ。
ライド・ラグエードは、どんな勝負からも逃げたりしないのだ。
「いいだろう。その勝負、受けて立つ」
「決まりですわね。では、広場に行きましょうか」
さて、決闘の準備をしないと。
「いや、待て。おかしいぞ。ドバイの仇を討つんじゃないのか? そういう流れだっただろ?」
「決闘に勝てば、同じことだよ。僕も満足できるしね」
「……もう好きにしろ」
☆ ☆ ☆ ☆
ズキュ――ン!
彼女の杖から炸裂音が響き渡る。狙う先は、ポーション。台の上に置いてあり、中には液体が入っている。
ピキッ! ポーションの容器にいくつものヒビができた。
「ご覧になってください」
ポーションを持ち上げてみると、液体が漏れている。
見ると、穴が一つ。彼女の空けたものだろう。
それ以外には傷がなく、容器が衝撃で落ちることもなかった。
乱暴な魔導師なら、容器を消し飛ばすところだが、彼女は奇麗に撃ち抜いている。
「自己紹介がまだでしたね。わたくしは、レオナ・ファンファーニ。ご存じないかもしれませんが、ファンファーニは早撃ちの名手なんですの。撃ち合いなら、誰にも負けません」
先ほど見た様子だと、嘘ではないだろう。
さすがに早撃ち勝負では、彼女に分がありすぎる。
というわけで、決闘は実戦形式の試合ということになった。
「僕はライド・ラグエード。どんな勝負にもベストを尽くす男。それが例えバトルであっても。歌であっても。決闘であっても」
「おおっ! かっこいい前口上ですわ! わたくしも真似させてもらってもよろしくて」
「いいよ。どんどん使って」
「わたくしはレオナ・ファンファーニ。どんな決闘でも頭を撃ち抜く女。それが例えイヌであっても。クマであっても。ヒトであっても」
なかなかノリの良いレオナ。
ポーズの決め方も、ばっちりである。
「いつまで慣れ合ってるつもりだ。早く決闘をしろ」
ミネアが急かすので、試合を開始しよう。
「では、準備はいいか」
広場の中央に、向かい合って立った。
レオナの装備は傘。
どうやら、あれが彼女の武器であり、杖の役割を果たしているらしい。
「試合開始!」
ミネアの合図で、レオナは地面を蹴り、僕から離れた。
僕もすぐに魔力を右手に溜める。
様子見をするつもりはない。
彼女は最初に自分の得意な戦い方を説明した。僕はそれを対策するだけだ。
「スパーク!」
右手から、魔法を撃ち出そうとする。
だが、それよりも先に、彼女の杖が火を吹いた。
ズキュ――ン!
「……あたっ」
僕は手を抑える。凄まじい速さで、僕の詠唱を阻害した。
溜め込んでいた魔力が一気に体に戻っていく。
「あれ? 説明しませんでしたか? わたくしは早撃ちの名手。あなたが撃つよりも、早く撃つ。それは、わたくしには造作もないことですわ」
痛いな。でも、威力は低い。
早撃ちに特化するために、威力は抑えているのだろう。
でも、魔導師を詠唱阻害できれば、それだけで優位に立てる。
「スパー」
ズキュ――ン!
「……うがっ」
「何度やろうと同じですわ」
あの傘みたいな杖、かなりの高性能だな。
彼女の速射性能をずいぶんと底上げしている。
【トゥルー・バニッシュ】を使いたいところだが、あれも発動が遅い。
「……まあ、早い相手には」
やはり、剣だろう。
「シフトオン!」
高速移動を駆使し、彼女の前に立った。
レオナが「わっ、わっ」と変な声を出して、驚いている。
「急にスピードが上がりましたわっ!」
「紫電刃!」
「……ひにゃあっ!」
僕が連続攻撃を繰り出すと、彼女は態勢を低くして技をかわした。
身のこなしが良い。この剣を避けるとは。
「当然ですわっ…ふぁっ…近接攻撃への対策は……ひゃっ……魔導師の必修です……ひぃっ」
彼女が後ろにさがったので、僕はまた呪文を唱える。
「シフトオン!」
「ひいっ! またそれ」
この魔法が苦手か。おそらく、魔力を溜める動作がないからだろう。
詠唱阻害できないので、彼女では止められない。
しかし、僕の方も決め手にかける。
そんなドレスを着てるのに、上体を逸らして僕の攻撃を避けていく。
「クイック!」
スピードアップの魔法か。レオナの体が光に覆われ、輪郭がはっきりと見える。
彼女がステップを変えて、杖で反撃をしてきた。
かなり好戦的だ。でも、杖と剣なら、どう考えても、こちらの方が有利。
「紫電刃!」
ふたたび稲妻がとどろき、緋色の剣がレオナを襲う。
僕の三連続切りは、その杖では受けられない。
どうするつもりだ。
ピキッ! 僕の耳に変な音が響いた。
金属が割れるような音だ。嫌な予感がしてきた。
「……まさか」
僕は自分の剣を見ると、そこには一筋のヒビが。
『紫電刃』のスピードに、僕の剣が耐えられなくなっている。
「隙ありですわああっ」
彼女が杖を振ってきた。
まずいぞ。
今、衝撃を与えたりしたら……。
「やあああっ!」
「あっ、ちょまっ……」
パリイイイイィン!




