ドラゴン効果
「……はあ」
僕はため息を吐いた。
「主様。先ほどから、ハアハアと言ってばかりです」
「うん。ちょっとね」
「そんなにムラムラしているなら、私の体を使ってくださればいいのに」
「……君は何を言ってるの?」
このウィックという娘、わりと残念な性格だな。
それはともかく、僕はため息が止まらないでいた。
理由は単純。『ウエスタウン』に行けなくなってしまったからだ。
僕は大事な用事があって、あの町に出向く必要があった。
そのために、【シフト・クイン】を使って、墓場を移動させようとしていた。
しかし、先日、動力源だった魔力を使い切ってしまったのだ。
もう魔力を注入するには、時間が足りない。
墓場を移動させることはできないので、僕はへこんでいる。
「主様。それなら、私に馬乗りするというのは」
「ごめん。ちょっと黙っててくれるかな」
ミネアにも相談することにした。
彼女は面倒見のいい性格なので、なんでも話しやすい。
「なんだ。そんなことで悩んでいたのか」
「いや、そんなことって。僕にとっては大事なことなんだ」
「馬車に乗って行けば、いいじゃないか」
それは僕も考えた。
しかし、馬車に乗るには金がかかる。
特にウエスタウンまでの道のりは荒れているので、料金は割高になっている。
バニはよく食べるので、食費がかかる。そのうえ、ウィックまで追加されたのだ。
順当に行けば、これから魔法を覚えるたびに、どんどん数を増やしていくのだろう。
交通費ぐらいはケチりたいというのが、正直な気持ちだ。
「はははっ」
「ミネア。笑いごとじゃ、ないんだって」
「お金ならある」
「どこにあるんだよ」
「はい」
と言って、彼女は僕に袋を差し出した。
中を開けてみると、お金が入っていた。
数えてみたところ、ちょうど三万G。普通に大金である。
「何これ? 盗んだの?」
「優勝賞金だよ。ライドは参加登録してないから、知らなかったんだな」
チャレンジハンティングの登録は全てミネアに任せていた。
しかし、三万Gか。ギルドも太っ腹のようだ。
「それドラゴン退治の褒賞金も含まれているからな」
そりゃあ、そうだろう。
ギルド内の企画で、三万Gはなかなか出ない。
「えっと、ミネアと山分けってことでいいんだよね」
「いや、全て君のものだ。ドラゴンを倒したのは、ライドだ。私は見てもいなかった」
たしかに、そうではある。
だが、これを全てもらうというのは悪い。
「ハイルからも、伝言を預かってるぞ」
『やっぱ、ライドには敵わねえわ。ただ者じゃねえとは思ってたが、ドラゴンを一人でやっちまうとはな。完敗だ。おまえがナンバー1だ!』
「ベタ褒めだったぞ。ついでに、隣のクロも驚いていた」
しかし、僕はあまり実感が湧いていない。
ドラゴンは強かったと思うし、自分は少し侮っていたと思う。
倒せたのは、【ウィーク・メーカー】のおかげだ。
僕は謙虚な性格ではないが、今回は助けられた。あの魔法には感謝している。
「ギルドには行ってみたか? この後、顔を出してみるといい」
言われた通り、ギルドに寄ってみた。
すると、扉を開けたとたん、盛大な拍手を送られた。
いったい、なんだ。
「ドラゴンスレイヤーのライドさんだ!」
「ライドさん、かっけえ。マジ、かっけえ」
「ラグエードのエリートは、俺たちとは格が違うんだな」
僕の呼び名、いつの間にか『ドラゴンスレイヤー』になっている。
冒険者たちの視線が、尊敬の眼差しへと変わっている。
この感覚は、今までにはなかったものだ。
「ラグエード様の席は、こちらです」
ギルドの係員に案内された椅子に腰掛けた。
横の壁には『ラグエード様の特等席』と書かれている。
のんびり座っていると、二人組の女の子がやってきた。
「きゃああっ! ライドさん、サインください。お願いします」
「握手! 握手をお願いします」
僕は彼女にサインを書いてあげた。
隣の子には握手をしてあげる。
「やったあ! 一生、宝物にします」
「もう手を洗いません! お風呂にも入りません!」
その後、大人しそうな女の子が僕の前に立ち。
「あ、あの、こ、これ、読んでもらえませんか」
顔を真っ赤にしながら、手紙を渡してきた。
「ありがとう。あとで読んでおくよ」
それから、バタバタと走って行った。
「……何故だ」
何故、僕はこれほどの称賛を浴びているのか。
「……ま、まさか。これが、ドラゴン効果という奴か」
名声値が一気に跳ね上がり、人々が僕に好意の目を向けてくる。
うん。悪くない。この感じ、悪くはないぞ。
まあ、ブラックオークと聞いても、『誰だよ』という人が大半だろう。
それに比べて、ドラゴンは子供でも知ってる有名なモンスターである。
あとドラゴンはかっこいいし、見るからに強そうだ。
「セリスにもお礼を言っておこうかな」
彼女がいなければ、ドラゴンの居場所すら分からなかったのだ。
耐性値の話も、非常に役に立った。
前はお金がなかったから、花をプレゼントしたんだったな。
今回はお金もあることだし、お菓子ぐらい買って行くとしよう。
クラウン教会までやってきた僕は、セリスに声をかけた。
いつものようにシスター姿の彼女は、僕から離れた席に座る。
「よかったわね」
今日の彼女は、ムスっとしていた。
その声は冷ややかで、目つきも鋭い。
「女の子から言い寄られて。手紙なんかもらったりして。あなたは、ああいうミーハーが好みだったのね。知らなかったわ」
「好みってわけじゃないよ。ただ、断るのは悪いと思って」
「鼻の下が伸びてる」
僕は触ってみるが、別に伸びてはいない。
「ねえ。セリス。怒ってない?」
そう聞くと、彼女は立ち上がった。
「はあ! なんで私が怒るの! 意味が分からない! あなたの女性関係なんて、私には興味がないもの!」
「……どう見ても、怒ってるんだけど」
「用事はそれだけ? 自慢したいなら他所でやってくれる。私は忙しいの」
彼女はプンスカしながら、教会の奥の扉に入って行った。
「あっ、お菓子を渡し忘れた」
仕方ないので、バニにでもあげるとしようか。




