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ウィークメイク


「おい、ドラゴン! これは逃走じゃないからな! 僕は戦略的撤退をするだけだ! すぐに戻って来るから、そこで首を洗って待っていろよ!」

「ガアアアッ!」


 よし。待ってくれそうだ。

 僕はドラゴンのいる洞窟を出た。


「そうか。ライドでもドラゴンには勝てなかったか」

「いや、僕に負けはない。今は作戦会議中なだけだ」

「でも、墓場に戻るんだよねー」


 問題はそこだ。

 どうやら、僕は新しい魔法の解放条件を満たしたようなのだが。


 墓場までは遠い。今から墓場に行って、洞窟まで戻ると軽く数時間はかかってしまう。

 チャレンジハンティングの開催期間は三日間。


 最終日の午後五時には閉鎖されて、それ以降はモンスターを倒してもポイントは入らない。

 そして、なんと今は午後三時。あと二時間しかないのだ。


 これではポイント無効で、ドラゴン退治は無意味になってしまう。

 ついでにドラゴンから逃げ出した男という汚名まで被ってしまう。


「もう今日は山から降りて、また明日に来よう」

「そうだよー。私も疲れたー」

「ダメ! 絶対ダメ! ラグエードに敗北はないんだ!」

「……本当に面倒な性格だな」


 だいたい、僕も疲れているのだ。

 今だって魔力はもうほとんど残っていない。


 何故かと言えば、最近は魔法陣に魔力を注いでるからだ。

 その量は一日に1000。大変な量だ。

 でも、仕方ない。あれは僕が魔法墓場を移動させるためで……。


「……あっ」

「ライド。変な顔してるー」

「戻らなくても、新しい魔法が使える」


 この山まで墓場を移動してくればいいのだ。

 魔法陣に魔力は注がれている。

 【シフト・クイン】を利用すれば、この山ぐらいの距離なら、楽に移動できる。


 でも、それをやってしまえば……。


 僕は『ウエスタウン』まで行けなくなってしまう。

 あの町に大事な用があるのだ。行けなくなると、僕が困る。


「僕はどうすればいいんだ……」


 考えていると、ミネアが僕の肩を叩いた。


「負けてもいい。相手はドラゴンなんだ。敗北しても、誰もおまえを責めたりはしないさ」


 そうだ。敵はドラゴンなのだ。


 勝てば、英雄クラス。

 凡人なら、必ず負ける。


 僕は追放された落ちこぼれ。

 所詮は負け犬。この敗北は必然なのだ。


「……なんて言うと思ったか」


 僕は遠くに向かって、叫んだ。


「シフトオン! 魔法墓場! 僕のところまで来い!」


 すると、遠くの方でズズズッと、地面を引きずる音がした。

 墓場は30分程度で、僕の元に辿り着いた。


「僕はライド・ラグエード。勝ち続けてこそのラグエードなんだ」


 あまり時間はない。

 さっさと墓場に入り、【レッド・スペル】を解放する。


 すると、墓の文字が赤い文字へと切り替わった。


 突然、僕の目の前に女性が現れる。

 茶髪のセミロング。スカートもロングで、上着にカーディガンを羽織っている。

 露出が少なく、とても地味である。


 バニが裸同然の姿で出現したのと比べると、非常にインパクトが弱い。

 だが、見た目のインパクトなどは、僕には関係ない。

 大切なのは、その魔法が使えるかどうかだ。


「……」


 その女性はニコっと笑顔を作った。

 これまた、バニと比べてすいぶんと落ち着いた態度だ。


「僕ね。今、ドラゴンと交戦中なんだ」


 女性は答えた。


「はい。存じております」


 話し方もゆっくりしており、なんだか大人っぽい。


「正直に答えて。僕に勝算はあると思う?」

「はい。主様は必ず勝利することができます」

「……主様?」

「主様は、主様です」


 むずかゆい呼び方だな。

 たしかに、使用人には、名前に様付けをされてたけど。

 けっこう歳が離れていたので、気にならなかった。


「君を起こした理由は分かってるよね」

「はい。存じております」

「君はドラゴンに勝てる魔法なの?」

「いえ。勝利するのは、主様。 私はそのお手伝いをするだけです」


 よく分かってるじゃないか。


「ドラゴンは、弱点のない怪物なんだ。どんな攻撃をしても、余裕で耐えてくる。君はドラゴンから弱点を探し当てることができるの?」


 それを聞くと、彼女は口を抑えて笑った。


「失礼しました。どうやら、主様は誤解されているようですね」

「誤解? 僕が?」

「はい。主様。弱点は探すものではありません。弱点は作るものなのです」

「弱点を作る?」


 彼女は頭を下げると、自己紹介した。


「私は弱点を作る者【ウィークメーカー】。必ずや主様のご期待に添えると約束しましょう」 

 

 ☆ ☆ ☆ ☆


「……いないな」


 やはり、ドラゴンは地中に潜ってしまっており、姿を現わさないようだ。


「困った」

「主様。どうかされましたか?」

「僕は地中に潜っているドラゴンを、探すことができないんだ」

「あらあら。それは大変です」


 まったく大変そうには聞こえないのだが、まあいいだろう。

 自己紹介によれば、彼女は『ウィック』という名だそうだ。


 今度からは、そう呼んでいくことにする。

 さっきまでと違って、バニにも洞窟の中に入ってもらう。

 僕は彼女にも頼みたいことがあるのだ。


「バニ。君にはドラゴンの位置が分かるんじゃないの?」

「んー?」


 彼女の目が泳いでいる。

 なんだ。嘘を吐かないといけない理由でもあるのか。

 その様子を見かねたのか、ウィックが助け舟を出した。


「バニさん。主様が困っておいでです。はっきり答えてあげましょう」

「んー?」

「いいのですか? 主様に魔法を使ってもらえなくなりますよ?」

「それはダメ――っ! 私を使って――っ!」

「では、答えましょう」

「わかるよー」


 やっぱり、分かるようだ。

 バニは魔力感知が得意。少なくとも、僕よりは感覚的な面では優れていると思う。


 ダンジョンでモンスターを見付けるのは、いつも彼女が最初だった。

 だから、前々からそんな気がしていたのだが。


「ちょうど良い機会だから、君の力を借りよう」

「わー。やるー」


 バニとウィックには、端に立ってもらうことにする。


「右だよー」


 バニの指示に従い、さっきから右に行ったり、左に行ったりしている。


「主様。私の魔法は命中率に補正がかかっており、非常に当たりにくくなっております。充分に注意してお使いください」


 では、杖を使うことにしよう。

 杖を装備すると命中率が上昇する。

 といっても、ウィックの話は制約みたいなものだから、杖は関係ないか。


「ライド。真下にいるー」


 近づいてきたようだ。

 僕は杖を構えて、準備する。


 魔力を溜め込み、すぐに魔法を使えるようにしておく。

 目は閉じる。バニの声を聞けばいいのに、視覚に頼る必要はない。


 それに、この方が集中もしやすい。

 少しだけ、緊張してきた。


 よく考えれば、【レッド・スペル】では、初めての攻撃魔法だ。


【トゥルー・バニッシュ】は、防御魔法。

【シフト・クイン】は、移動魔法。

 そして、【ウィーク・メーカー】は攻撃魔法。

 三つともバラバラである。


 今回は戦闘用だが、はたしてモンスターに当たるとどうなってしまうのか。


「来るよー」


 ぎゅっと杖を握り締める。


「来たー。後ろー」


 不意打ちか。僕は振り向きざまに、呪文を唱えた。


「ウィークメイク!」


 それがこの魔法の呪文だった。

 言葉と共に、発射されたのは白いモヤのようなもの。


 噴き出すと、フワフワと揺れ動くように飛んでいく。

 なるほど。たしかに、これは当てにくい。


 だが、バニの合図は完璧だった。彼女の話し方は、間が抜けていて不安になるが、指示は的確。

 ドラゴンは僕の真後ろ。それも振り向くと当たりそうな位置にいた。


 また頭だけ出していて、口には光を溜め込んでいる。

 ブレスを撃つつもりだったのだろう。


 だが、その前に、僕の魔法が命中していた。


「ガアアアッ!」


 苦しんでいるのだろうか。ドラゴンの体が赤い点滅を始めていた。

 それは耐性が0になったことを表している。



 No.3 

 魔法名: ウィーク・メーカー


 効果: この魔法に命中したものは耐性値が0になる。


 説明: 属性配合率は水60%、闇40%。

     もともとは、モンスター捕獲用の魔法。

     性格は、従順。強い主様こそが、彼女の弱点。 


 解放条件: ドラゴンとエンカウントする。



 テキストはやはり単純だが、これは凄いことなのだ。

 僕が実家の杖を使っても八発が必要だった。


 この魔法は、それをたった一発でやってしまった。

 これが人間にも効くなら、僕の戦略の幅はかなり広がったことになる。


「主様。攻撃しましょう。相手が回復してしまいます」

「うん。分かってる」


 僕は右手に魔力を溜め込む。

 最後は自分の手で決めることにしよう。

 バチバチ! 右手から火花が散った。


「スパーク!」


 ドラゴンは反応できない。

 ブレイク状態では、その動きを制限される。

 避けようにも、避けられないのだ。


「ガアアアッ!」


 その唸り声を上げる口に向けて、僕は雷球をねじ込んだ。

 その頭に電撃が駆け巡り、ドラゴンが苦しむ。


 結果は、もちろん大ダメージだ。

 耐性値が0なら、どんな魔法でも、致命傷が避けられない。


「……やった!」


 頭だけのドラゴンは動かなくなった。

 それを見て、僕は歓喜に震える。


「ドラゴンを倒した。僕は英雄に並び立ったんだ」

「まだ言ってたんだー」

「さすが主様です。さすがすぎです」


 ドラゴンには、勝利した。

 あとはチャレンジハンティングの結果だ。

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