弱点のない怪物
「紫電刃!」
お決まりの技名を叫ぶと、僕の斬撃がそのスピードを増した。
同時に数発の連続攻撃が全て命中。
火花を何度も散らしながら、ドラゴンの肌に剣を打ち付ける。
しかし、ドラゴンは動かない。
「シフトオン!」
右に回り込み、攻撃位置を変える。
先ほどは前足だった。では、背中はどうだろう。
僕はまた攻速を上げ、複数回の攻撃を繰り出す。
キンキンッ! と、音がする。
見た目どおり岩のような感触で、まるで手応えがない。
いくら攻撃しても意味がない。
「ガアアッ!」
ドラゴンが鳴いた。
こいつには太い尻尾があるのだが、それが動き出した。
僕が背後に回ったせいだろう。
尻尾を振り上げると、地面に叩きつけてきた。
僕は寸前で「シフトオン」と唱えて、後ろへ退避する。
「セリスの情報どおりだな」
おそろしく固い。それもただ防御力が高いだけではなく、物理耐性が異様に高い。
ハイルも高かったが、あんなものは比ではない。
巨大な壁をひたすら殴り続けているような気分だ。
でも、不思議と悪い気分はしない。むしろ、身体が熱くなり、興奮してきている。
少し触れただけで、強敵だと分かる。
こいつを倒すことができれば、僕はまた一つ成長できる。
そんな期待感を目の前のドラゴンは、抱かせてくれるのだ。
「……さあて、どうしようかな」
僕が笑みを浮かべていると、後ろの方から声がした。
「ライド。手伝おうか?」
ミネアだ。彼女には、僕が苦戦しているように見えたのだろう。
だが、戦いはまだまだこれからである。
僕は後ろを向いて、答える。
「僕がやる! 僕は英雄になるんだ!」
「……意味は分からんが、おまえの好きにしろ」
振り返って、ドラゴンの方を見ると、そこには何もいない。
「あれ? ドラゴンは?」
「ライド。左だよー」
左を向くと、すぐ近くにドラゴンの頭があった。
本当に頭だけだ。それ以外は地面の中にあるのだろうか。
「ガアアッ!」
先ほどと様子が違う。
口の中に光のようなものが溜まっている。
バチバチッ! 光から火花が散る。
ドラゴンの口が更に開き、光が大きくなった。
僕の身体が震えてきた。
あの光から、底知れない魔力を感じ取ったからだ。
「……やばい」
僕は二人に向けて、叫んだ。
「洞窟から出て! 早く!」
二人が駆け出したのを確認すると、僕はふたたび前を向く。
ブレス。ドラゴンの得意技で、その正体は高密度の攻撃魔法だ。
そいつは溜め込んだ光を、僕に向けた。
「トゥルー・バニッシュ」
僕は胸を抑え、呪文を唱えた。
「僕よ、消え去れ!」
プシュウウウッ!
消えたのは、ブレスの発動とほとんど同時だった。
物凄い熱量が、僕に襲い掛かる。だが、僕は自分を消すことでギリギリ回避する。
一分が経過し、姿を取り戻した。
「いきなり、不意打ちか」
焦ってしまったじゃないか。
でも、【トゥルーバニッシュ】は、もともと防御魔法。こういう緊急回避は得意なのだ。
「……怖かったけど」
あのブレスは、危険だ。
それは魔導師のエリートである僕だからこそ分かることだ。
だが、さすがに何度も撃てないだろう。
あの密度の魔法を撃ちだすためには、どうやっても溜めが必要になってくるはずだ。
ドラゴンの凄さは充分に伝わったので、そろそろ僕も本気を出すとしよう。
剣を鞘に納めると、僕は杖を手に取った。
コンパクトサイズで、普段は短剣のように腰に差している。
よくあるものよりも太めで、奇妙な模様が入っている。
杖に魔力を溜め込んでいく。
僕は地面を蹴って、走り出した。
「スパーク!」
激しく発光する稲妻が、バチバチと音を立てドラゴンへと直撃する。
「ガアアッ!」
しかし、効いていない。
ドラゴンの方も、蚊でも止まったかのような顔をしている。
まあ、分かっている。初めからダメージを与えられるとは思っていない。
だが、この攻撃には意味がある。
「スパーク!」
ふたたび魔法を放つ。
「スパーク!」
さらに、もう一発。
ドラゴンは僕の方など見ていない。自分の爪を弄っている。
「スパーク!」
また、放つ。
僕が六発の魔法を命中させたとき、ドラゴンの体に異変が起こった。
その体が青く発光し、何度も点滅を始めたのだ。
「ようやく出たな」
耐性には、『耐性値』と呼ばれる数値が存在する。
ライドの耐性値:600/600
僕なら上のような数値だ。
この耐性値を0にすることで、相手にダメージを与えることができる。
そして、いつ0になったのか。それを知らせてくれる目印がある。
今、ドラゴンの体が青く発光しているのは、その目印なのだ。
赤い点滅:耐性値が0
青い点滅:耐性値が残り25%
上の二つが目印である。
ちなみに、赤い点滅は『ブレイク状態』と呼ばれることがある。
耐性0にしてダメージを与えることを『ブレイク』と呼ぶからだ。
「よし。あと少しでブレイクできるぞ」
ブレイクしてしまえば、こちらのものだ。
「スパーク!」
僕は魔法を繰り出した。
単純に計算すれば、あと二発だ。あと二発で相手の耐性を破ることができる。
「ガアアッ!」
さすがに気づいたか。ドラゴンも避ける。
「惜しいな。もっと近づこう」
僕は杖を握りしめた。
この杖はダメージが減る代わりに、相手をブレイクしやすくする。
セリスの話ではドラゴンの耐性は四桁ということだが。
ラグエード秘伝の杖であり、僕の愛用の杖だ。
相手がドラゴンであっても、この杖の前には無力。ペラペラな紙と同じだ。
「ガアアアッ!」
七発目を当てることができた。
おそらく、あと一発だ。それで、青い点滅は、赤に変化する。
「さらばだ。ドラゴン」
僕は杖の先端に電気を溜める。
だが、そのとき――。
「……え?」
僕は呆気に取られた。
ドラゴンが逃げる準備を始めたからだ。
その頭を下に向け、地面の中に頭を突っ込んだ。
「スパーク!」
咄嗟に魔法を放つが、すでに遅い。
ドラゴンは素早く体を動かすと、地面の中にどんどん潜る。
僕の魔法をすれすれで回避。
尻尾を揺らしながら、その姿を完全に消し去る。
「……いや、僕はバカか」
こいつは地面から出て来たのだ。
危なくなれば、地面に退避する。当たり前の話だ。
「どこに行ったんだ?」
まさか、遠くに逃げるつもりなのだろうか。
「ガアアッ!」
僕の背後から、鳴き声がした。
嫌な予感がする。
見ると、ドラゴンは口の中に光を溜め込んでいた。
「また、それか」
僕は呪文を唱える。
「トゥルー・バニッシュ! 僕よ、消え去れ!」
一分後、姿を取り戻した僕。
ドラゴンを見て、言葉を失った。
青い点滅が消えているのだ。
つまり、それは耐性値が回復していることを意味していた。
「そうか。ブレスは回復のための時間稼ぎか」
すっかり元気になったドラゴンに、僕はムカッとする。
「いや、でも、たったの八発だし」
振り出しに戻ったとしても、たったの八発。絶望的な数字ではない。
「スパーク!」
すぐに切り替え、魔法を発射する。
だが、今度はドラゴンも最初から行動する。
またも地面に潜ると、僕の攻撃をあっさり躱す。
「……おかしいな。さっきよりも動きが早い」
地面が揺れると、僕の足元が盛り上がって来た。
「今度は下か。シフトオン!」
呪文を唱えて、高速移動。
地面が変形し、トゲのような形になっている。
これはたぶん『アースエッジ』。土属性の攻撃魔法だ。
だが、それは囮だった。
後ろを見ると、そこにはドラゴン。そして、口には白い光。
「……もう、イヤだ。トゥルー・バニッシュ! 僕よ、消え去れ」
プシュウウッ!
戻ってくると、ドラゴンが見当たらない。
「もしかして、地面から出てくる気もないのか」
僕は目を閉じて、ドラゴンの行方を探ってみる。
あいつは魔力を持っているので、上手に感知すれば分かるはずだ。
「……」
分からない。上手く隠している。
立ち止まっていると、地面が盛り上がって来た。
「シフトオン!」
高速移動。
僕は移動しながら、思考を廻らす。
「……ダメだ。これじゃキリがない。同じことの繰り返しだ」
魔法を当てて耐性値を削っても、地面に潜ることで回復されてしまう。
おまけに、僕には地中のドラゴンの位置がまったく掴めない。
「困ったな。打つ手なしだ」
シンプルだが、よくできた戦法だ。
ドラゴンの異常に高い耐性値があるから、相手へのプレッシャーも絶大だ。
「弱点のない怪物か」
いくらでも回復できるのなら、耐性値は無限なのと変わらない。
耐性を絶対に破れないなら、それは無敵ということだ。
僕もこいつに魔法を何発も当てられる自信がない。
一発だけなら、なんとかなるかもしれないが。
「ライド。ねぇー。ライド」
プシュウウウッ!
バニが僕の前に出てきた。
「バニ。君、隠れてたの?」
「うん。そうだよー」
「危ないよ。ミネアのそばにいて」
「わかったー」
しかし、なかなか動こうとしない。
「どうしたの?」
「んー?」
「……いや、悩まれても」
「『No。3の解放条件を満たしました』」
彼女が口を抑えて、焦る。
「わわー。私、また変なこと言っちゃったー」
魔法墓場からのメッセージか。
でも、これはドラゴンを倒す突破口になるかも。




