チャレンジハンティング
「これはどういうことなんだ! 説明してもらおうか!」
ミネアが怒っている。男に顔を近づけて、その胸をドシドシ叩いたりしている。
そう言えば、僕は彼女のこんな姿を初めて見た気がする。
いつもは先輩らしい年上のお姉さんなのだ。
「知り合いなの?」
「ああ。彼はハイル。冒険者だ……と思っていたんだが」
言葉を濁すと、ハイルの方を向いた。
「酒場で喧嘩を吹っ掛けるとは、やってることが山賊と変わらんな」
斧を振り回す大男。たしかに、山賊に見えなくもない。
しかし、髭は剃られているし、髪も短髪で奇麗に整えてある。
山賊にしては、ずいぶんと清潔に見える。
いや、こういう山賊もいるかもしれないが。
「ちげえよ。こりゃあ、喧嘩じゃねえ」
「喧嘩じゃなければ、なんだというんだ」
「……馴れ合い。そうだ! 俺たちはじゃれ合ってただけなんだよ! なあ、そうだろ?」
同意を求められたので、僕は答える。
「じゃれ合いだったの? 僕は倒す気でいたけど」
「……おい、ハイル!」
「うええっ! 口裏を合わせてくれねえのかよ!」
僕は代案を考えてみた。
「実戦演習だよ。今のは訓練の一環だったんだ」
「そう! それだ! やっぱ、実戦の勘は鈍らすもんじゃねえんだ。こうやって、たまに熱いバトルをよお!」
「……なんでもいい。我々は食事中だったんだ。おまえも一緒に座れ」
そんなわけで、食事を再開。
ちなみに、消し去った料理はとっくに戻っており、バニがさりげなく端に追いやっていた。
彼女にとって料理は大切なのだろう。
しかし、そのおかげで、皿一枚も割れずに済んだ。
「ライド、どうしたのー? 右手なんか抑えてー」
「なんでもないよ。気にしないで」
手が痺れる。
スパークを相手に直接流し込むと、いつもこうなってしまうのだ。
威力は出る。たぶん数倍は違うだろう。
でも、剣が握れなくなのは、かなりまずい。
使いどころは考えないと。
「ああ! すげえ魔法だったぜ! 体が痛くてたまらねえ!」
そう言ってるが、わりと大丈夫そうだ。
『ウォークライ』には傷を癒す効果もあるのだろう。
痛み分けかと思ったけど、僕の方が喰らってる気がする。
ちょっと不愉快。
「うめえ! バトルのあとの一杯はたまらねえ!」
酒を飲み出した。
「ほいっ! 一杯どうだい?」
「僕? 遠慮するよ。酒は魔力を薄めるからね」
「ライド。それは迷信だ。魔力と酒は関係ない」
ミネアから、突っ込みが入る。
でも、僕は飲まない。
「隣の嬢ちゃん。一杯どうだい?」
「わー、飲むー」
僕はバニのコップに、手で蓋をした。
「君も飲んじゃダメ」
「えー、なんでー?」
「なんでも」
僕がなかなか手を離さないので、彼女も諦めた。
「やっぱ、ラグエードはちげえなあ。魔法に対しての意識がちげえ。他の奴らとは、雲泥の差だ」
「……ああ。知ってたんだ。僕がラグエードだって」
「私がハイルに教えたんだ」
ハイルは隣のミネアに話しかけた。
「なあ、こいつ出そうぜ。俺が推薦するからさ」
「まだ言ってるのか? あれは無理だと何度言ったら……」
僕のことを話しているんだろうか。
聞いてみる。
「それなんの話?」
「チャレンジハンティングさ。そこにおまえを参加させようって話をしてる」
「チャレ……なにそれ?」
チャレンジハンティングとは。
モンスターを倒した数で、ポイントを競い合うゲームである。
ポイントはモンスターの種類ごとに決まっており、レアなモンスターを倒せば、それだけ多くのポイントを取得できる。
似たようなクエストばかりだと、冒険者は飽きてしまう。
したがって、こうした企画を定期的にやっているんだとか。
ブラックオークのせいで中止になってたけど、僕が倒したおかげで復活。
今回は久々にやるらしい。
「ライドはギルドに登録してないから、正確には冒険者ではないぞ」
「構やしねえよ。誰も気にしてねえ。なあ、ライド。出ようぜ」
「……やれやれ」
僕は立ち上がった。
「なんで、先にそれを言ってくれないかな。チャレンジハンティング? 出るに決まってるでしょ。ミネア。今すぐ僕を参加させてくれよ」
そして、いつもの口上を述べる。
「僕はライド・ラグエード。どんな勝負にもベストを尽くす男。それが例えバトルであっても。大食いであっても。チャレンジハンティングであっても」
「……また、始まってしまったか」
「ライドの病気だー」
僕は指をさした。
「さあ、ハイル。僕と勝負だ。もちろん、最後に勝つのは僕だけどね」
「ノリノリじゃねえか。ようし! 乗ってやるぜ! 熱いバトルをしようや!」
というわけで、僕はチャレンジハンティングに参加することになった。
☆ ☆ ☆ ☆
只今、戦闘中だ。
僕の視線の先にいるのは、ワイト。骸骨の姿をしたモンスターで、洞窟のような暗い場所に生息している。
ワイトには、ウィザードやウォリアーみたいな様々な種類がいるが、これはノーマルのワイト。服装はボロい布切れを纏っただけの簡素なもの。
「アウアウアァ!」
ワイトが襲いかかってきた。
声帯はないはずだ。どこから声を出してるのか不思議でならないが、とにかく僕に向かってきた。
しかし、遅い。這いずるようなスピードで、のろくたと歩み寄ってくる。
筋肉がないから。きっと、力も入らないのだろう。
というか、骨の身体で、どうやって歩いているんだ。
「どうした? 何故、決めに行かない」
「……いや、だってさ」
僕は戸惑っていた。
その理由は……。
「あいつ、武器を持っていないんだ」
「はあ?」
「武器を持たない無抵抗のものに攻撃するのって、抵抗あるでしょ?」
「何を言ってるんだ。おまえはいつもモンスターをその剣で、ボカスカ殴っているだろ」
「ワイトは人型だからだよ。罪のない人間を殴ってるような気持ちになるんだ」
ラグエードは貴族だ。
僕の中の貴族の血が、『おまえは卑怯者だ』と訴えかけてくるのだ。
「ミネア。彼に武器を与えてやってくれはないだろうか。そうすれば、僕も戦いやすくなるんだ」
彼女は呆れたように頭を掻くが、僕の要望には答えてくれた。
「これでいいか」
ワイトの前に、ショートソードを置いた。
「アウアウアァ!」
「ワイト。拾うんだ。それは君の武器なんだ」
僕が何度も地面を叩いたので、ワイトも気付いた。
身体をカクカクさせて、なんとか剣を拾い上げる。
しかし、掴んでいるのは刃の方だ。まるで玩具のように、壁にぶつけて遊んでいる。
それを見てると、少し苛立ってくる。
僕はワイトに近づき、軽く指導してあげることにした。
「違うんだ。剣の持ち方というのはね。こうして……あと、こうして……」
ワイトの剣の構え方は、ずいぶんと様になってきた。
「いいよ。かっこいいよ」
「アウアウ!」
褒められて、照れ臭そうにするワイト。
「じゃあ、ワイト君。今度は剣を振ってみようか」
「アウ?」
「怖がることはない。僕が見ててあげるからさ」
「アウ!」
気持ちの良い返事をすると、素振りを始めた。
「いいよ。うまいうまい」
「アウ! アウ!」
「もっとね。目の前に相手がいると思ってやるんだ。力いっぱい……そうそう。その調子」
ワイトは実に筋が良い。
きちんと訓練を積めば、将来は有望な剣士になれるだろう。
そして、ついに僕とワイトとの戦闘が始まることになった。
「……」
「アウ! アウ!」
「……」
「アウアウ! アウアウ!」
「……ダメだ!」
僕は膝をついた。
「僕にはできない! ワイト君を傷つけられない! 彼には剣の才能があるんだ!」
「……いいから早く倒してくれないか」
「なんて酷いことを。ミネア。君の血は何色なんだ」
「赤だ。やらないなら、私がやるが」
「ごめん。すぐやる」
骸骨の頭を叩き割り、ワイトを討伐。
「これで倒したわけだけど」
「では、腕輪を見てくれ」
腕輪はこの洞窟に入る前に、ミネアに渡されたものだ。
僕はそれを左手首に付けている。僕は右利きだが、魔法を使うときに邪魔になるので左手にしている。
腕輪には『5P』という文字が浮かんでいた。
「それがポイントだ。ワイトを倒すと、一体につき5ポイントになる」
「なるほど」
「ちなみに、今日は仕様確認のためのチュートリアル。本番は明日からだ」
ミネアの右手にも腕輪がある。
「個人戦なの?」
「いや、チーム戦だ。ポイントは個人に入り、チーム内の合計点で順位が決まる」
僕のチームは、僕とバニとミネアの三人。
バニは戦闘しないけど、僕が強いので問題はない。
「ルールは説明するまでもないな。要するに、モンスターを狩って、ポイントを大量に集めたものが勝利だ」
使用するダンジョンには決まりがない。
クラウンタウン付近に限られているが、基本的はどのダンジョンのどのモンスターを狩ってもポイントが入る。
「討伐するモンスターの種類は?」
「それはライドに任せるよ。私はおまえほど順位に興味はないからな」
まあ、明日までに考えておくとしようかな。
今日はポイントにならないので、早々に切り上げるとする。
帰り際、洞窟の入口で、ハイルと出くわした。
「よお! おまえ達も来てたのか」
「僕が勝つよ」
「いいねえ! 明日から楽しみだ」
ハイルの後ろには、もう一人いる。
「ハイルは個人で出るんだと思ってた」
「そりゃ無理だぜ。やっぱ、モンスターを大量に狩るには魔法がいる」
ということは、後ろにいるのは魔導師か。
ローブを羽織っていて顔は見えないが。
「紹介するぜ。こいつが俺のパートナー」
魔導師がフードを脱いだ。
燃えるような赤い瞳と、それと同じ色の赤髪を持つ少女。
「あたしは、クロだ。得意な魔法は、火属性で……」
クロは僕を見て、目を丸くした。
「ライド。あんた、なんでここに……」
それは僕が聞きたい。




