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19/30

酒場で夕食


 ここで魔法陣の描き方について説明しておこう。


 まず必要になってくるのは、この桃色の液体。

 マナベリーという実を絞ったもので、名前はそのまま『マナ液』と呼ばれている。

 マナ液には魔力が溶けやすいという性質がある。


 そこに、僕は指を突っ込み、一時間ほど待っておく。この間は暇なので、読書などをする。

 一時間後、確認してみると、僕の魔力が溶けている。


 色が変わっているので、すぐ分かる。

 僕の場合は紫色だけど、この辺りは個人差があるので、なんとも言えない。

 この溶液は、魔力溶液。略して『魔溶液』と呼ばれる。


 で、これをガラス瓶に移す。

 しかし、これも人によって違う。

 霧状にしたり、固形にして持ち歩く人もいる。


 最後に、魔溶液を垂らして魔法陣を描く。

 別に絵心なんて必要なくて、適当に垂らせば、勝手に魔法陣の形になっていく。

 消すときは、上から土をぶっかけるだけで簡単。 


 以上が魔法陣の描き方。

 さあ、みんなもやってみよう。


「……まあ、こんなところかな」


 僕は地面に描かれた魔法陣を見て、満足げに頷いた。


「うわー、大きいねー」


 バニが驚いている。

 彼女の言うように、この魔法陣は【スペル・セメタリー】を取り囲むほどの大きなものだ。

 僕たちは地下にある墓場で寝泊りしているので、この円陣を下敷きにしながら眠ることになる。


「これ何やってるのー?」

「前に説明にしただろ? 魔法の効果を底上げするためさ」


 これは昔からある魔法陣の利用法の一つだ。

 時間をかけて緻密に作り上げれば、それだけ魔法の効果を上げることができる。


「私の効果を上げるのー?」

「違うよ。【シフト・クイン】の方だ」

「なんでー?」

「ここより、西にある町『ウエスタウン』。僕はどうしても外せない用事があって、その町へ行かなくちゃならない」

「ん? 歩いて行くの?」

「違うよ。魔法墓場に乗って行くんだ」

「……ん?」


 つまり、僕がやりたいのは……。


【シフト・クイン】を使って、魔法墓場を『ウエスタウン』まで移動させる。


 ということだ。


 しかし、これほど巨大なものを遠くまで移動させるには、多くの魔力や準備が必要になってくる。


「バニ。墓の中にいるシフに聞いて欲しいんだ。ウエスタウンに行くには、だいたいどのくらいの魔力が必要か」

「わかったー」


 彼女たちはテレパシーのようなもので会話できるのだ。


「……うんうん」


 バニは何度も頷くと。


「約10000だってー」


 僕の最大魔力は2500だから、約4倍ということになる。

 もちろん、僕は普段から魔法を使っているので、全てを注ぎ込むことはできない。

 したがって、1日に少しずつ魔力を注ぎ込んで蓄積させていく。


「よし。1日に1000ずつ注ぎ込もう。10日後なら、僕の用事にも間に合う」


 とりあえず、今日の分を今から注ぎ込んでおく。

 もう夜中なので、僕の負担になったりはしない。

 一晩、ぐっすり眠れば、明日の朝には最大魔力まで戻っている。


「わー、ハフハフー」

「こらっ! 寝転がりながら、ご飯を食べない! あと、服を脱がない! はしたないだろ!」

「でもー、ライドしかいないよー」

「僕と二人きりでもダメなものはダメだ。きちんと服を着て、座って食事をするように」

「はーい」


 といっても、彼女は明日になると、僕の話を忘れていたりする。

 性格は能天気となっていたけど。どちらかと言えば、鳥頭。すぐに忘れすぎだ。


「ところで、バニ。聞いておきたいことがあるんだ。君の【トゥルー・バニッシュ】も効果を上げることはできるの?」

「できるよー。魔力も時間も必要だけどー」

「巨大なもの消したり、遠くのものを消したりも?」

「できるよー」

「効果時間は? 1分と表記されてるけど?」

「できるよ……?」


 最後のは少し不安だが、おそらく可能なのだろう。


 巨大なものを消したい。

 遠くのものを消したい。

 長時間、ものを消したい。


 魔導師としての道を極めるなら、きっと必要になってくることだろう。

 その場合は、今夜のことを思い出すことにしよう。


  ☆ ☆ ☆ ☆


「ごちそうだー」


 大喜びするバニ。

 丸いテーブルの上には、豪勢な料理が所狭しと並べられている。


「にくー。にくー」


 彼女は骨付き肉を手に取ると、バクバクと貪りついた。

 続いて、フォークを手に取り、ステーキを一突き。

 口に運ぶと、歯を立てて、引きちぎった。


「おいしー」


 ムシャムシャしながら笑顔で言うと、今度は遠くにある燻製肉に狙いを絞った。


「ほーい」


 立ち上がって、分厚いハムを鷲掴み。

 さっきから見ているが、肉を食べてばかりだ。


「ライド。食べないのー?」


 きょとんとした顔で、質問してくる。

 僕は膝に両手を置いたまま。料理には手を出していないのだ。


「あのね。バニ。こういう場では、遠慮して見せるものなんだ」

「んー?」


 首を横に傾ける。


「遠慮だよ、遠慮!」  


 彼女は少し考えて、ポンと手を叩いた。 


「わかったー。遠慮して食べるー」

「……ダメだ。この娘、何も分かってない」


 僕が頭を抱えていると、向かいに座っていたミネアが笑った。


「ははっ。気を使う必要はないよ。遠慮せずに、どんどん食べてくれ」


 とはいえ、この料理は彼女が注文したもの。

 支払いは全て彼女持ちであり、いわゆる彼女のオゴリなのだ。

 こういう場合は、彼女が料理を手に付けるまでは食べ出さないのが、一般的なマナー。


 僕は動かず、料理を眺める。

 それにしても、凄い料理の数だ。


 隣の娘は肉ばかり食べているが、魚介類もある。煮物や刺身など、料理としてのレパートリーも多い。

 おそらく、この酒場にある全てのメニューが並べられているんじゃないだろうか。


「これはお礼だ。ブラックオークの幹部を倒してくれた。君には本当に感謝しているんだ」


 ブラックオークの幹部。アンバーのことだ。

 たしかに、僕が倒した。そして、ミネアに報告した。

 女神ファルナスにも告白した。それを盗み聞きしているセリスも、知っているだろう。


「でもね。何故かな。報奨金が出ないんだよね」


 僕は期待していたのだ。町からお金が貰えて、生活も楽になるものだと。


「死体がなかったからな。証拠がないんじゃ、町もお礼をしようがない」

「黒い塊があるよ。あれ、アンバーなんだ」

「判別できない。どのみち証拠にはならない」


 僕はがくっと肩を落とした。こんなことなら、ホルマリン漬けにでもしておくんだった。


「だが、私は知ってる。おまえはライド・ラグード。ブラックオークを倒した男だ。やはり、ラグエードの名は伊達ではなかったんだな」

「……ふふっ。もっと褒めて」

「ギルドを代表して、あらためて礼をさせて欲しい。ありがとう」


 彼女が、深くお辞儀する。

 その深さはテーブルに頭が付きそうなほどだ。


「これでギルドの取り締まりも弱まり、町に活気も戻る。全てが元通りになるだろう」


 真面目に感謝されると、少し気恥ずかしい。


「こんな料理では、なんの足しにもならないかもしれないが。私の好意だと思って、受け取ってくれ」


 そう言ったところで、ミネアが右を向いた。

 そちらは入口方面で、扉の前にいる冒険者が手招きをしている。


「すまない。呼ばれているようだ。席を外してもいいか」

「うん。いいよ」

「……なんだ。まったく」


 たぶん、ギルド関係の用事だろう。

 彼女は席を立つと、入口の方へ向かっていった。

 少し話し込むと、扉を開けて外に出ていく。


「……長くなりそうだな」


 僕は別に構わない。隣にいるバニも、肉を食べるのに夢中で、それどころじゃなさそうだ。


「ライドは食べないのー?」

「食べないよ。ミネアが戻ってくるまで待つ」


 とはいえ、水ぐらいならいいかな。

 そろそろ喉も乾いてきた頃だ。


「……」


 異変にきづいた。

 言うほどたいしたことではないが、コップの水に波紋が出来ている。


 皿もカチャカチャと音を立てている。

 机もガタガタと揺れている。

 その揺れはどんどん酷くなっている。


 何かが近づいているのだろうか。

 嫌な予感がしたので、僕はテーブルに手をかざした。


「トゥルー・バニッシュ! 料理よ、消え去れ!」


 プシュウウウッ!

 目の前の料理が、一瞬で姿を消した。


「あー、お肉がー」


 バニの手に持っていた肉もなくなった。


「君はテーブルから離れてて」

「はーい」


 彼女が動いたとき、後ろから足音が聞こえた。


「うおりゃあああっ!」


 それから、野太い声。

 まるで突進でもするかのように、大男が迫って来ている。

 男は斧を装備しており、それを振り上げた。


「ごおおおうはざああんっ!」


 何を言ってるか分からないが、どうやら技のようだ。

 それを僕の背中にめがけ、繰り出そうとしている。


「シフトオン!」


 呪文を唱え、左に素早く移動。

 男は構わず、突っ込んだ。


「やああああっ!」


 そして、僕たちのいたテーブルを粉々に吹き飛ばした。


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