情報屋
バニに服を着せたまま、代金を支払って、お店を出る。
「これから、どこに行くのー?」
「いつものとこだよ」
この町『クラウン・タウン』は、盆地を切り開いて作られている。
したがって、坂道や階段が多い。
その階段をどんどん昇って行き、頂上付近にあるのが、『クラウン教会』である。
僕は教会に入ると、後ろの方に座った。
席は開いている。平日の昼間から礼拝に来る人はあまりいない。
女神の像の前には、数人の冒険者がいる。ダンジョンに入る前に、願掛けをするつもりなのだろう。ついでに、二階で薬を買っていけば、心強い味方になってくれる。
「ファルちゃんに告白しないの?」
「しないよ。今日は別の用事があってきたんだ」
用事とは待ち合わせだ。
僕は事件についての情報が欲しいと、ミネアに言ってみたところ。
彼女から、ある人物を紹介された。
それは、いわゆる情報屋で、非常に情報収集に長けている。
その人に聞けば、事件の真相も分かるはずだと。
「どんな人なのー?」
「さあ。たぶん、年長者じゃないかな」
目印になるように、僕は赤い上着を羽織ってきた。
かなり明るい赤色だ。これなら、教会のどこに座っていても、すぐに見つけることができるだろう。
「来ないよー」
「うーん。予定の時刻は過ぎたけど」
入口を見てみるが、誰も入ってくる様子はない。
ドタキャンされてしまったのだろうか。
「シスターが来たよー」
おそらく参拝者の相談を受けるために、見回りをしているのだろう。
ちょうど僕たちのところへ近づいてきた。
それから、僕たちの前で、独り言を呟いた。
「……赤い上着」
「……え?」
シスターが僕に話しかけてきた。
「……あまりジロジロ見ないで。変に思われるでしょ」
僕の隣に座ると、前を向いたまま、自己紹介した。
「私はセリス。情報屋よ」
僕は驚いた。
紺色の修道服。白い頭巾に、上からベールを被っている。
どこにでもいるような恰好をしたシスター。
その彼女が情報屋だと言うのだ。僕の思い描いていたイメージと合わない。
「君は、この教会で働いてるの?」
「ええ。働いてるわ」
「どうして?」
「教会は貧富の差を問わず、様々な人々が出入りする。また信者も多いから、神の前では口が軽く、ガードも緩い。情報収集の場として、これ以上の場所はない」
「……なるほど」
「私のことは、できれば秘密にして欲しい。ここで働けなくなるのは、私にとって大きな損害だから」
彼女はミネアの知り合いだ。もちろん、悪いようにするつもりはない。
しかし、情報屋。どれほどの腕なのだろう。
本当に信用に足る情報を提供してくれるのだろうか。
僕が疑いの目を向けていたせいか、セリスは少し不機嫌になった。
「あなたは、ライド・ラグエード」
「……なっ」
僕はまだ名乗っていないはずだ。
「隣の子は、バニ」
バニの名前まで知っているのか。
いや、でも、ミネアから名前ぐらいは聞いているかもしれない。
「あなたは洗礼の儀で外れ職業【墓守】を授かったが、使用法が分からず、実家から追放されてしまう。しかし、謎の老人からもらった鍵により、【スペル・セメタリー】の扉を開き、【レッド・スペル】を解放する。最初に解放したのが、【トゥルー・バニッシュ】。二つ目に解放したのが、【シフト・クイン】。それをあなたは高速移動に使って――」
「ちょ、ちょっと待った!」
いきなり、これまでのあらすじを始めてしまったセリス。
だが、僕は彼女にそんな話をした覚えはない。
「これが君の情報収集能力か。恐れ入ったよ」
「ありがとう」
「ところで、どうやって、その情報を?」
「あなたが女神ファルナスに告白していたのを、近くで盗み聞きしていたの」
「え? 女神に告白?」
僕は重要な情報である【スペル・セメタリー】のことまで話していたのか。
「ほら、言ったとおりでしょ。神の前では、みんな饒舌になる。ガードが緩くなってしまうのよ」
「……くっ。認めたくはないが、素晴らしい腕だ」
セリスはため息をついた。
「基本は情報一つにつき、3000Gなんだけど」
わりと高い。
「初めての人には無料で情報を提供することにしてるの。信用できないなら、そのまま聞き流してくれればいいから」
知っていることは、なんでも答えてくれるそうだ。
僕は質問してみることにする。
「では、まず……」
「ええ。なんでも、聞いて」
「君のスリーサイズについて教えて欲しいんだけど」
「……死にたいの?」
「冗談だよ……そうだな。事件のこと。あれをやった犯人についての情報を知りたいんだ」
賊のレアアイテムについても知りたいが、まずはこちらが先だ。
「ブラックオーク」
「なにそれ?」
「組織の名前よ。魔法を悪事に利用する犯罪組織と言えば、あなたにも分かりやすいかしら」
ブラックオーク。要するに、黒いオークと言う意味だろう。
オークとは、今でこそ醜悪なモンスターの代名詞だが、かつてはオルクスと呼ばれ、死者の国の神々のことを表していた。
つまり、その組織は、『黒い神々』。自分たちを神だと言いたいわけだ。
「犯人はブラックオークの幹部。それは間違いないわ」
「その根拠は?」
「彼らの悪事には二つの特徴があるの。一つは魔法。幹部はそれぞれがオリジナル魔法を持っている。そして、もう一つはレアアイテム。彼らは大量のレアアイテムを複製し、それをばらまくの」
「なんで、そんなことを?」
「仲間を増やすためじゃないかしら。賊たちに与えて、代わりに頼みを聞いてもらう。それを繰り返すことで、いずれは服従を強要し、自分たちの手足に変えてしまう」
なるほど。あの事件と賊たちのレアアイテムは一つに繋がっているというわけか。
「他に聞きたいことは?」
「人間を溶かす魔法。その持ち主について知りたい」
セリスが笑みを浮かべた。
「ブラックオークと戦う気なのね」
「当然だろ。そのために、ここへ来たんだ」
名門のラグエードを差しおいて、神と名乗る集団が現れたのだ。
そんな奴ら、叩き潰してやるに決まっている。
「おそらく、そいつは幹部の一人。名前は『アンバー』」
「どこにいるの?」
「この町に来ていることは確かだけど、居場所までは分からない。彼は打算的な性格で、勝利を確信できるまでは、人前に姿を現わさないの」
情報屋でも、居場所を掴めないということか。
「でも、一つだけ手がかりがある。アンバーには部下がいて、名前は『クロ』。年齢はあなたと同じぐらいで、性別は女性。彼女なら、アンバーの居場所も分かるかもしれない」
僕はセリスから『クロ』についての詳しい情報を聞いた。
「ありがとう。助かった。お礼は……今は無理だけど、いつかする」
「私の情報、信じてくれるのね」
「まあ、シスターの言うことだからね。ラグエードは一応、女神ファルナスの信者だから」
「……知りたいことがあるなら、いつでも声をかけて。安くするから」
話はきっちり聞き終えた。
まずは『クロ』。それから『アンバー』だ。




