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事件と服装

 

「うわー、なにー。この黒いのー、ぶよぶよして気持ち悪いー」


 実際、光沢もあるし、妙な弾力もある。

 これを見た者なら、誰でもバニのような感想を思い浮かべるだろう。


 クラウンタウンでは、事件が起こっているようだ。

 それも、ギルドが取り締まりを厳しくするほどの危険な事件が。


 案内されたのは、廃倉庫だった。

 ミネアの話では、ここが事件が起こった現場であるらしい。


 大きな箱状の荷物が山積みにされている。


 そこに転がっている黒い塊。四、五、六……数えにくいが八つはあるだろうか。

 水気がなく、カラカラに乾いている。


 いったい、これはなんなんだろう。


「僕が触っていいものなの?」

「構わないよ。許可は取ってある」


 触ってみると、手に黒いものがついた。指で擦りつけてみると、つぶれて粉状になる。

 匂ってみると、ほんのりと焦げ臭い。

 炭だろうか。はっきりとは言えないが、そんな気がする。


 よく見ると、床には黒い痕がいくつも残っている。

 何度も引きずったような痕と、シミのような痕がそこら中にある。


「……ん?」


 黒い塊の一つ。その下に、黒い線がある。

 色は同じだが、他のものとは違う。


 偶然ついたものではなく、誰かが書いたもの。

 そして、周りの汚れに紛れるように、わざと同じ色で書いたと分かる。

  

 線はまっすぐ伸びている。

 辿って行くと、それは積み荷の下に繋がっていることが分かった。

 縦にいくつも積み上げられ、わりと重い。


 僕は魔法を使うことにする。

 矢印を積み荷に貼り付け、魔力を注いだ。


「シフトオン!」


 呪文を唱えると、積み荷がズズズッと移動する。

 やはり、下には何か隠してあったようだ。


 幾何学模様の円陣。魔法陣だ。

 膝をつき、線に触れてみる。

 消えかかっているが、まだ読むことはできる。


 僕ほどの魔導師なら、魔法陣から様々なことを知ることができる。

 魔法の内容、術者の性格、思想、その目的まで。


「……そうか。そういうことか」


 僕はミネアのところまで戻った。


「どうだ? 何か分かったか?」

「うん。少なくとも、ここで起こったことについては」

「さすがラグエードだな。私にはさっぱりだったよ」


 僕は振り返って、黒い塊を見た。

 よく見ると、塊には大きさに違いがあり、小さいものは五〇センチ前後しかない。


「ねー、ライド。顔が真っ青だよ。どうしたのー?」

「……うん。ちょっとね」


 バニには言わない方がいいだろう。

 何故なら、さっきまで彼女が突つき、匂いを嗅いでいたもの。


 ここに転がっている黒いものは、その全てが死体。

 人間をドロドロに溶かしたものなのだから。


  ☆ ☆ ☆ ☆


「ちゃんと着れた?」

「着れたー」

「そう。じゃあ、出てきて」


 試着室のカーテンが開き、バニが出てくる。

 白いブラウスに、黒いプリーツスカート。なんだか、気恥ずかしそうにしてるが、よく似合っている。


 もともと背が高く、線も細い。背筋も伸びていて、姿勢だって悪くない。

 普通にしてれば、フォーマルな服装も、普通に着こなすことが出来るのだ。


「……どれどれ」


 袖を引っ張ってみる。


「うん。丈は合ってるな」


 スカートはもう少し詰めてもいいかもしない。少し長いかも。


「……あとは香水がいるな。できれば、花の香りが良い。僕も欲しいけど」


 でも、香水は高い。日常的に使うには、もっと働く必要がある。


「ライド。ムズムズするよー」


 スカートを掴んで、バタバタさせる。

 彼女が試着室に戻ろうとするので、僕が捕まえる。


「ダメだよ。君は僕のパートナーなんだ。分かるかい? ライド・ラグエードのパートナーなんだよ! 僕の隣を歩くんだ。それにふさわしい恰好をしてもらわないと困る」

「いやだー。脱ぐー」

「脱がせないぞ。君には慣れてもらうんだ。これからは、きちんと服を来て、きちんと生活をしてもらう」

「やーだー」


 駄々をこねるが、相手にはしない。

 僕はリボンを用意して、彼女の首に巻き付けた。


「ほら。じっとしてて」


 襟に通して、前で結ぶ。


「よーし。できた」


 赤いリボンが良いアクセントになっている。

 彼女の両肩を持って、後ろを向かせる。

 そこには写し見があり、彼女の姿が映し出されている。


「ほら、見なよ。かわいい女の子が写ってるだろ?」

「…………」

「鏡も欲しいな。鏡は自意識を高める効果があるそうだから。君も他人に見られることを意識するようになる」


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