オートブレード
ダンジョンに潜るのにも、ようやく慣れてきた。
「あの洞窟。ゴブリンがたくさんいたねー」
「うん。あれは酷かった。後ろから襲われるんじゃないかとヒヤヒヤしたよ」
暗い洞窟の中に、20~30匹ほどのゴブリン。
実際に遭遇してみたら、かなり焦る。
魔法で入口に蓋をしてやろうかと思ったぐらいだ。
「なんでゴブリンって、あんなにいるのー?」
「それはね。王様が増やしてるんだよ」
「王様?」
「この国のどこかにゴブリンの養殖場があってね。そこで大量に子供を作らせてるんだよ」
「へー。そうなんだー」
「……おい。それは都市伝説だ。信じちゃダメだぞ」
冒険者を廃業させないための苦肉の策らしい。
やはり王様というのも、苦労しているようだ。
「私のようにフルアーマーなら、ゴブリンがいくらいようと関係ない」
「私は帽子があるよー」
「うん。防具は良いよね。でも、僕は装備しない。邪魔くさいから」
下り坂を終えて、あぜ道に差し掛かったところで、僕は足を止めた。
前を歩いていたミネアが、急に立ち止まったからだ。
「どうしたの?」
「あれは……」
ミネアが真剣な顔で、前方を伺う。
こちらに人影が向かってきている。
「隠れるぞ」
「うん」
僕たちは道を外れ、草むらの中に身をひそめた。
足音と話し声が聞こえてくる。
声は男のもので、どうやら二人組のようだ。
もうすぐ、そばの道を通りかかる。
男の顔が見えて来た。
一人は無精ひげの男。もう一人は髪が長く、老け顔の男。
僕は、ひそひそ声で隣のミネアに質問する。
「あの二人がどうかしたの?」
「おそらく、ジョンとエミールだ」
「誰それ?」
「賞金首だ」
ギルドの壁には、人相書きが掲示されている。
また書棚にも、それらをまとめた書物が置いてある。
「そんなこと、よく覚えているね」
「私はこれが本業だからな」
「で、いくらなの?」
「二人合わせて、8000Gだ」
まずまずの額だ。賞金額はミネアと山分けするとしても、4000。
バニに服を買ってあげることもできるな。
「……待て。何か話してるようだぞ」
僕たちは耳をそば立てる。
彼らは、立ち止まると歩き出し、また立ち止まる。
そして、僕たちが来た方向を何度も確認している。
非常に落ち着きがない。
その様子からして、どうやら人を待ってるようだ。
「おっせえなあ」
「ああ。遅い。遅すぎる」
日は沈みかかっている。
しかし、男達の待っている男は、なかなか姿を見せない。
「間違ってんじゃねえのか」
「そんなはずはない。最近、奴はダンジョンに潜っていて、帰りにはこの道を通る。そう聞いたんだよ」
なるほど。彼らが待っているのは、『最近、ダンジョンに潜っている奴』らしい。
まるで、僕のような奴だ。
きっと、その人もお金に困って、ギルドに駆け込んだのだろう。
「……こんのお」
無精ひげの男が苛立っている。
「明日にしようぜ。明日なら来るはずだ」
「ジョン。おまえは楽観的な奴だ。今日来ないなら、明日も来ない」
「俺は足が疲れたんだよ。今日はもうやめだ!」
言い争いが始まった。
だいぶ待たされているのだろう。
そのうち、老け顔の方が折れてきた。
だんだんと、帰る方にまとまりかかっている。
「……はあ。いつになったら、会えるんだよ」
「本当だよ。早く出て来い。ライド・ラグエード」
僕はミネアの方を向いた。
すると、彼女も僕の方を見ていた。
「今、彼ら、君の名前を呼ばなかったか?」
「うん。呼んだね。ライドは僕の名だ」
「ひょっとして、君は……」
「僕は無実だよ。彼らが勝手に探しているだけだ」
とはいえ、その言い訳には無理がある。
彼らは『ライド・ラグエード』とはっきり僕の名を呼んでいる。
僕の帰りを首を長く待っているところから、金目当ての誘拐ではなさそうだ。
復讐だろうか。僕はこんな奴らに恨みを買った覚えはないが。
彼らは帰るつもりのようだ。
僕たちはその前に彼らを捕獲しなければならない。
「君なら一人でも余裕だろうが、逃げられると面倒だ。ここは確実に行きたい。私と君で一人ずつ相手することにしよう」
その提案には賛成だ。
一人を取り逃がすだけで、賞金額は半分になるのだ。正直、それは困る。
「僕は老け顔の方をやる」
「では、私は無精ひげの方を」
ミネアは、道の反対側に回り込む。
道幅はだいたい2~3メートル。
両側から挟み撃ちして、彼らの退路を塞ぐことにする。
「戦うのー?」
「うん。君はそこで待機ね」
「わかったー」
ミネアが手を上げた。
準備はできたようなので、僕は道に足をかける。
剣を抜き、魔力を注ぐ。刃が緋色に染まっていく。
バチバチッ! 刃に電撃が走った。
「少し派手に行こうか」
バチバチバチッ! いつもより、電撃の威力をあげてみる。
「シフトオン!」
瞬時に奴らの間へ高速移動。
剣を両手で持ち、頭上に高く上げる。
「飛雷刃!」
突如、雷鳴がとどろき、稲妻が走る。
僕の剣に巨大な雷が降り注いだ。
「……なっ……がっ……」
「……ぐっ……」
二人の男たちが、膝をついた。
『飛雷刃』は剣の近くにいる者を痺れさせる技。
当然、僕はノーダメージ。
「よし。いいぞ」
ミネアがやってきた。
予定通り、二人を分断。僕の相手は老け顔だ。
「おまえ、誰だ」
「ライドだよ。ライド・ラグエード。まさか、顔を知らなかったの?」
どうやって、探すつもりだったんだ。
「そうか。おまえがライドか……ついてないな。俺がラグエードとやるのかよ」
たしか、老け顔はエミールだったか。
「まあ、いいや。俺にはこいつがあるんだ」
彼は剣を抜くと、鞘を投げ捨てた。
片刃の剣で、刀身が細い。
カタナとも呼ばれる剣だ。
しかし、あの意匠、どこかで見た気が……。
エミールが剣を構えた。ずいぶんと余裕そうな顔だ。
しかし、構えが無茶苦茶。腰も引け気味。
あれでは体重が乗らないから、威力も出ない。
剣の素人なんだろうか。
「縮地!」
「……は?」
エミールが地面を蹴り、僕に切りかかった。
距離は3メートルほど。あの位置からでは届かないはずなのだ。
油断した。それは認めよう。
そのせいもあって、僕の反応は遅れた。
すぐに上体を逸らしたが、頬にかすった。顔から血が出ている。
「うおおおっ! ラグエードに傷をつけた。この剣すげえええっ!」
大喜びするエミールを尻目に、僕の拳は震えていた。
「……くっ」
悔しい。
絶対に素人だ。今ので分かった。めちゃくちゃな振りだったからだ。
でも、避けられなかった。
「あいつ。今、『縮地』って、言ったよな」
縮地は剣聖の技で、使用すると高速で移動できる。
だが、何故、素人が剣聖の技を使えるんだ?
「ああっ! 思い出した!」
どこかで見たことがあると思ったのだ。
あの剣は『オートブレード』。効果は自動操縦。
剣にはデータが読み込んであり、勝手に攻撃してくれるのだ。
そして、そのデータは世界最強の剣士『剣聖』のもの。
「ふーん。要するに、剣聖もどきってわけか」
面白い。僕の剣とどちらが強いか勝負だ。
「シフトオン!」
呪文を唱え、奴の背後に回り込む。
「縮地!」
エミールも左へ移動。
たぶん、スピードはそこまで変わらないと思う。
「地獄突き!」
なんだと。それも剣聖の技だ。
一度に数十発の突きを同時に放ってくる。
「シフトオン!」
地面を滑り、後ろに移動。
「これじゃ、埒が明かない」
バチバチ! 電撃が走った。
二つの魔法を同時に使って行く。
「シフトオン! 紫電刃!」
移動力を上げ、さらに攻撃の速度も上げる。
そして奴の頭にめがけ斬撃を放った。
キィン! 金属音がした。
「……」
エミールは真正面で、僕の剣を受け止めた。
「うおおおっ! この剣すげええっ! ラグエードの魔法を受け止めたぞ」
ふたたび大喜びするエミール。
「……まっ」
まけ……いや、負けてない。受けられただけだ。
僕にはまだ【トゥルー・バニッシュ】が残っている。
「縮地!」
また使って来た。
『縮地』。剣聖の技なだけあって、完成度は高いが。
あの技の要は踏み込み。最初に地面を蹴るアクションが入るのだ。
踏み込み……踏む……踏む……。
「……ふむ」
洒落を言ってる場合じゃない。敵が襲ってきた。
「縮地! 地獄突き!」
僕の真似か。二つの技を使ったコンビネーション。
「トゥルー・バニッシュ!」
右手をかざす。
「靴よ、消え去れ!」
プシュウウウッ!
エミールの靴が消え去る。
「……おっ」
踏み込みのタイミングを狙った。
体勢が崩れ、前のめりになる。
剣聖は強いが、所詮はデータ。
イレギュラーには対応できない。
「紫電刃!」
僕は数発の斬撃を『オートブレード』に叩きこむ。
剣の腹を狙った。刀身は斬撃を受けきれない。
パキイイン! 刃が根元から折れた。
「……勝った」
やはり、ラグエードは強かった。
剣聖もたいしたことはないな。
「私も終わったぞ」
二人を気絶させて、縛り上げた。
「なんだライド。浮かない顔だな」
「うーん」
「私が相談に乗ろう。なんでも話してくれ」
僕には腑に落ちない点があった。
『リフレクト・チョーカー』、『ブラッドナイフ』、そして『オートブレード』。
三つとも希少価値の高いレアアイテムだが、それを何故か賊が手にしていた。
加えて、この賊たちに共通する点がもう一つある。
みんな僕――ライド・ラグエードのことを知っており、また探していたことだ。
さすがに、ここまでくると偶然とは思えない。
「……ほう。三つのレアアイテムか」
ミネアは考え込んでいる。
彼女は冒険者なので、僕が知らない情報も持っているかもしれない。
「ライド。君はこの街に来たとき、不思議に思ったことはないか?」
「冒険者がうろうろしているのをよく見るかな。僕の町ではそうでもなかったんだけど」
「あれはパトロールだよ。取り締まりが厳しくなっているんだ。ギルドで個人情報の開示が必要なのも、同じ理由だ」
「……つまり、この町で何か事件があったってこと?」
「鋭いな。その通りだ。来てくれ。君に見せたいものがある」
「僕に?」
「ああ。君を探しているということは、たぶん無関係じゃないんだと思う」
僕は彼女についていくことにする。




