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異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~【Web版】  作者: 北崎七瀬


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ネイとユウト、秘密を預け合う共同体になる

「ユウトくん、ごめんだけど俺の右腕に包帯巻いてくれる? さすがに左腕だけだと難しくて」

「はっ、はい、手伝います」


 心配そうにこちらを見ていたユウトに明るく声を掛けると、彼はすぐに駆け寄ってきた。そして眉尻を下げたまま、ネイの新たな右手をペタペタと触る。腕の状態がどうなっているのか、確認しているのだろう。やがてぺしょんと萎れた様子で謝ってきた。


「……ネイさんをこんな目に遭わせてしまって、ごめんなさい」

「いや、別にユウトくんが謝ることじゃないでしょ。レオさんに腕を斬らせたのは俺の独断だもん」

「……でも、僕を護るための力とか言って、父さんにこんな腕にされちゃったし」

「ああ、これに関してはめちゃくちゃありがたいね!」


 沈むユウトに、ネイは心からの笑顔を見せる。だってこれは本当に天恵だったのだ。まさに起死回生。だからユウトも気に病まないでほしい。

 ネイはポーチから包帯を取り出すと、軽い調子でユウトに渡した。


「考えようによってはカッコイイと思わない? 最強クラスの魔族・魔物の力が宿った変幻自在の腕とかさ。普段はこうして隠しておけるし、秘密兵器っぽいでしょ」

「わ、分からなくはないですけど、でも……」

「そんなに気になるなら、この腕が本当の秘密兵器になるまで、俺の魔核操作の訓練に付き合ってくれない? 俺が元々の自分の腕以上に扱えるようになったら、ユウトくんも一安心でしょ?」


 嘆いたところで、もはや腕は元には戻らないのだ。ネイ本人は歓迎しているのだし、ならばこれが最善の落としどころ。ユウトにもそれは分かっているはずで、さらに彼は秘密兵器のような男の子のロマンが大好きだから、きっと乗ってくれるだろうとネイは算段する。

 果たして、ユウトは包帯をネイの腕に巻きながら、逡巡の末に頷いた。


「……分かりました。僕、ネイさんが腕を自由に扱えるようになるまでお手伝いします!」

「うん、ありがとう。ちなみにこれは『秘密』兵器だからさ、レオさんとクリスさんには内緒にしておいてね。そうだな、腕を上手く使えない間は怪我をしたことにしておこうか」

「え、二人に内緒にするんですか?」

「だって、ここぞという時にお披露目してこその秘密兵器じゃない」


 正直、これは建前だ。

 レオに知られたくないのは、彼自身の失態でネイの腕を落とす羽目になった、その事実を負担に思われたくないから。そして怪我を負った程度なら気にもしないだろうが、ここまで重いと主人の世界から外に出されてしまう可能性があるからだ。

 常々ユウトを護る力がなければ無価値と公言して憚らないレオは、現状だと利き手を失ったネイを引き連れることはなくなるだろう。だからもしもバレるにしても、この右腕を完璧に使いこなせるようになってからにしたいのだ。


 一方でクリスに伏せるのは、絶対に興味を持たれて観察されるのがウザいからに尽きる。

 ただ、こちらはある程度の段階でバラしてもいいと思っている。この男の考察力・応用力は今後の展開でネイの役に立つ可能性が高いし、レオの目をごまかすためのフォローも期待できるからだ。


 そんな算段をしながら、ネイはユウトの口止めを促すべく微笑んだ。


「……代わりに俺も、ユウトくんが昔の記憶を全部思い出したことをレオさんに内緒にしておくよ」

「うっ……」


 途端にユウトは言葉に詰まる。彼もまた、レオが望まぬ過去の記憶を取り戻したことを隠していたいからだ。

 これで二人は秘密を預け合う共同体。そしてユウトが頷けば、エルドワと竜人たちもそれに従う。秘密は守られるだろう。


「……本当はレオ兄さんに、あんまり隠し事増やしたくないんですけど」

「でも、レオさんの精神状態を護るためには必要な秘密なんだよね。ユウトくんのは特に。あの人、最初ユウトくんを冷たくあしらってたことが黒歴史だから」

「僕としては記憶が戻ったところで、レオ兄さんが大好きなことに変わりはないのに……。だけど結局、レオ兄さん自身がそれを許せないんだろうなあ」


 包帯を巻き終えたユウトが、困ったように独り言ちて眉尻を下げたまま笑う。そして、一つ息を吐いて肩を竦めた。


「いつかは全部明かしたいけど、ひとまずは僕たちの間だけでの秘密ですね。ネイさんの腕がこんなことになっちゃったのも、レオ兄さんには辛いだろうし」

「辛い……? ああ、戦力的な意味で? でも前のフロアで俺の力がすでに落ちてたから、レオさんもあんまり期待してなかったろうし、もしも知ったとしてもそれほど痛くないんじゃないかな」


 その点で言うと、今の方が状況はすこぶる良い。暗殺ギルドの力は失ってしまったけれど、魔核から流れ込んできた純粋なグリムリーパーと死霊術士の魔力が、ネイの能力を底上げしてくれている実感があるのだ。

 おそらく以前と同じ素早さと体力、それに加えて知力と魔力が、前以上に上がっているのを感じる。加えて魔王が用意した魔核付きの腕を手に入れた。これなら訓練次第で、これまで以上の働きができるはず。


 だからそれが可能になるまで、どうにか隠しておきたい。

 そう考えたネイに、しかしユウトは首を振った。


「そうじゃなくて、ネイさんの腕が切り落とされた事実を、レオ兄さんが辛く思うだろうってことですよ」

「……いや、それはないでしょ。レオさんはユウトくん以外がどうなろうと気にしない人だし。特に俺のことは」


 思わぬことを言うユウトに、ネイは苦笑する。だってそもそも、そんなふうに余計な情を掛けてこないから、レオの傍は気楽なのだ。己が報われたくないことを、あの人は知っている。

 ……そう、知っているのだ。


(……何だ、この感じ)


 ふと、ざわざわと感情が波立って、ネイが黙り込む。

 するとユウトは、少しだけ呆れたような溜息を吐いた。


「……ネイさんって、出会った時から拗らせてますよね。レオ兄さんもだけど。どうして二人とも……ん~、まあ、いっか。今は」


 この状況でそれ以上の問答をしても仕方がないと思ったのだろう、ユウトはそのまま自己完結して魔王を振り返る。

 そして今度は不満げに眉根を寄せた。


「ところで父さん……もしかしてこのゲートのクリア条件って、煉獄の檻を使った力の譲渡なの? その魔核っていうのを完成させるためにエルダール王族の怨念が必要だったってこと?」

「まあ、それも達成条件の一つだ。このゲートが生成途中で放置された際に、我が魔力で呪いの剣をゲートのボスに据えた。そしてその剣を破壊できる力を、魔核に集まるようにしておいたのだ」

「……そんで、その力を本来ならレオさんに付加しようとしてたのを、俺がもらっちゃったわけね」


 ネイはここに来て、魔王がユウトの過去を書き換えるために、虚空の記録(アカシック・レコード)を改ざんしようとした理由に思い当たった。

 レオに魔核を埋め込んだ場合、その身体に変質をきたすのが確実だったからだ。それを、レオに強い親愛の情を傾けるユウトが許すわけがない。

 だから、その繋がりの元となった当時の記憶を書き換えて、兄弟ではなく、最初に魔王が想定していた主人ユウトと護衛レオの関係に戻そうと考えたのだ。


 おそらく本当なら、初代王がユウトを言いくるめることで改ざんを為す予定だったのだろう。しかしそれをしなかったから、魔王は彼に不服そうな態度を見せた。


(……見る限り、初代王は自身の血筋に贖罪の念や憐情を抱いている。だから怨念たちを見捨てられなかったし、レオさんを生け贄にする気にもならなかったんだ。結果的にそれが、良い方に転がったということか)


 そう、良い方に転がった。レオにとっても、ネイにとっても。おそらくは、魔王と初代王にとっても。

 彼らの計画通りだった場合、どう考えてもリスクが大きかったはずだからだ。魔王は明らかに人間界への干渉が過ぎて重いペナルティがあっただろうし、初代王は王族の怨念を浄化させるために、自身の血族であるレオを犠牲にする選択をしなくてはいけなかった。


 その未来を、ユウトが変えた。

 虚空の記録への改ざんを拒否し、魔王が祓う予定だっただろう聖属性封印の殻を自ら破り、活路を開いた。

 煉獄の檻においても、まあネイが腕を断っていたのは偶然としたって、ユウトが先の戦闘中にトリモチを使っていたから、エルドワがそれを再利用して打開策を思いついたのだ。

 この展開は、ユウトがいなければ達し得なかった。


(ここでも、ユウトくんには何か特別な力が働いているのか……? そういえばさっき初代王が、ユウトくん個人に対して虚空の記録はほぼ手を出さないって言ってたよな……)


 ユウトが作り出したこの時流。虚空の記録が手出ししない存在である彼。


 ……もしかするとこの子こそが、復讐霊に改ざんされた歴史を修正するために生まれた存在なのかもしれない。



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― 新着の感想 ―
レオの情を受け入れる器が出来つつある、或いはずっと前からそうだったのか。 取り合えず精神面の話を抜きにするとネイが殺そうとしても殺せない主を求める切実な事情は解消されたので、一旦関係性を見つめ直すに良…
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