第28話 ミレルと二人の少女
王都の各所を走り回ってタイザンさんとリーフレットさんを探していた僕とミレルだったけど、結局二人を見つける事は出来なかった。
そんな僕達はいつのまにか人気の無い墓地の傍へと辿り着いていた。
「うふふっ、旦那様はいつもそうです。 私の言うを聞いて下さらないのですから…… まさか私がいないからって、お酒ばかり飲んだりしていませんか? 私はとっても心配です」
「そうそう、坊ちゃんも日に日に成長していますから安心して下さい。 お世話しながら、もしも私の子供だったらって思う事も多いんですよ」
何処からか女の子の楽しそうな話し声が聞こえて来る。
気になった僕が声の聞こえた方へと視線を送るとお墓の前に座って一人で話しているメイド服姿の少女の姿があった。
僕と同じ銀髪だけど少し褐色がかった肌の色に違いを認められる。
それは彼女の主人の墓なのだろう。
まるで二人で会話をしているかのように楽しそうに語る少女を僕とミレルは呆然として眺めるだけだった。
「マオ…… 邪魔をしちゃ悪いわ。 行きましょう」
「うん…… そうだね」
僕は少女から目を離さないまま、そう言って頷くとミレルと踵を返して街へと戻り始める。
「でも一体何があったんだろう? 何か不思議な感じがする女の子だったね……」
「ええ…… なんだか楽しげにしている分、余計に可愛そうに思えてしまうわ」
主人が亡くなって悲しい筈なのに楽しそうな顔をしていた。
僕にはそれが気になっていた。
でも少し離れた場所まで離れた僕達の耳に少女の号泣する声が風に乗って聞こえて来たのは気のせいじゃないだろう。
辛くない訳があるもんか。
僕だってミレルを失う寸前だったんだ。
一歩間違えれば僕も彼女と同く大切な人を永遠に失って同じ姿だったのかも知れない。
ぎゅっと握りしめた僕の手をミレルが優しく包み込むように両手を添えてくれる。
「結局二人を見つけられなかったわね。 どうするマオ? このまま王都に留まり続けるの?」
ミレルのためにも一刻も早く元の身体に戻らなきゃならないけど、それよりも僕はウルスラ王国に戻らなきゃならない。
あの二人を探すのは、それからでも構わないと思い始めていた。
「マオ、このままウルスラ王国を目指しましょうよ。 今の貴方だって私は受け入れられるわ。 それに元々女の子みたいだったじゃないの」
クスッと笑うミレルに僕は救われた思いを感じてしまう。
こんな僕を受け入れてくれる彼女に出会えた事を聖女ウルスラ様に感謝せずにはいられなかった。
「うん。 明日の朝に出る乗り合い馬車でジーニアス伯爵領を目指そう。
微笑みながらミレルが頷いてくれた。
「それに夜には男の子に戻れるんでしょう? だから…… アッチについても不満はないわ」
顔を赤らめながら大胆な発言をしたミレル。
「アッチって…… が、頑張るよ!」
何とも言えないプレッシャーを感じながら、そう言うしかなかった。
朱雀館に戻った僕達が受け付けで今夜も泊まりたい旨を伝えていると先程墓地で見かけた少女が現れる。
「これはライリ様、お戻りですか。 外は寒かったでしょう。 温かい紅茶をお出ししますので此方へどうぞ」
奥にいた支配人から手厚くもてなされるライリと言う少女は一体何者なんだろう。
僕が見詰めていると視線に気付いたようで、僕を見て軽く笑みを送ってくれた。
「ありがとうございます、フィリックさん。 旦那様と一緒に過ごせるのですから、寒さなんて気にもなりませんでした。 でも温かい紅茶は有り難く頂かせて貰いますね」
旦那様って言うのが身分の高い人だったのかも知れない。
こんな高級な旅館で支配人直々に対応して貰っているくらいだもの。
「それはそれは…… では此方へ」
嬉しそうでいて悲しそうな複雑な表情を浮かべた支配人さん。
何やら事情がありそうだと思ったけど、それを僕達が興味本位で聞く訳にも行かないだろう。
奥へと歩いて行く二人を眺めていた僕は袖を引っ張っるミレルに促され、係りの者に今夜泊まる部屋へと案内される。
「では…… ごゆっくりとおくつろぎ下さい」
部屋へと案内してから丁寧に頭を下げて係りの男性が去って行くと僕とミレルは二人っきりになる。
そろそろ日が落ちる頃だ。
僕の予想が正しければ、このタイミングで女性から男性の身体に戻る筈。
「あ、マオ…… 身体が光ってるわ」
ミレルが言う通り、僕の身体が淡い光に包まれたかと思うと大きな胸が縮んで行くのが分かる。
僕を包む光が収まると元の身体に戻っていた。
「ふぅ…… 不思議だけど今は受け入れるしかないね」
これなら男子禁制の百合騎士団に戻っても昼間は女性として行動出来るかな。
でも夜になったら男の身体に戻る訳だから、逆に厄介かも知れない。
夜にはお風呂に入ったりもするし、華やかな百合騎士団だもの、もしもパーティなんかあったらドレスだって着る事になるんだもん。
その場合は男の娘になるしか道は無い。
昼に男性の方が都合が良かった気もするけど、そんな事はミレルには言えやしない。
「うふふっ、男に戻ったなら一緒にお風呂にでも入りましょうか。 この旅館はお風呂から夜景が綺麗に見えるのが最大の売りだそうよ」
熱を帯びる期待の眼差しで僕を見るミレル。
日が落ちたばかりだと言うのに早くも夜モードみたい。
でも不思議と悪い気はしない。
こんな僕を一人の男として認め、そして求めてくれるんだもの。
「じゃあ、そうしようか。 ミレルが望むなら僕は何だってするつもりだよ」
彼女を幸せにするんだって思う僕の脳裏に浮かぶアリエル・ヴァレンタインと言う少女の名前。
僕の正体を知りながらも僕を待っているなんて一体どう言う関係だったんだろう。
そしてライリと言う不思議な少女。
彼女は何者なんだろう。
僕はミレルと唇を合わせながらも二人の少女の事を考えていた。




