第26話 僕の願い?
苦しそうにしていたミレルの息遣いが次第に小さくなって行く。
もう迷ってる時間なんか無い。
僕は決意してリーフレットさんに懇願するかのように視線を送る。
「どうやら覚悟は出来たみたいね。 じゃあ、舌を出して世界樹の露を受け止めなさい。 地面に垂らしたりしてはダメよ」
彼女の紫色の瞳に吸い込まれそうな錯覚を覚えながら僕は指示に従って舌を出す。
ゆっくりと胸元からボトルネックレスを取り出して蓋を緩めたリーフレットさんが僕の舌に霊薬を一滴だけ乗せるように垂らした感覚が伝わる。
そんな一滴だけで、こんなに伝わって来るのかって考えると不思議だけど実際に何か得体の知れない力を感じさせられていた。
零す訳にはいかないから慎重にミレルの頭を抱えて少しだけ身体を起こさせてから唇を合わせて口の中に霊薬を送り込む。
僕はミレルとウルスラ王国に行くんだ!
一緒に百合騎士団の仲間の元へと辿り着いてみせる。
だからミレルを絶対に死なせやしない。
僕は彼女の無事を祈る。
知り合ったばかりの人を目の前にして舌を絡め合うなんて普通なら恥ずかしくて仕方がない行為だけど、僕は必死になっていたから気にもしなかった。
ちゃんと飲ませられたか不安になって中々唇を離せないでいたけど、ミレルも朦朧としながら話は聞こえていたんだと思う。
僕の唾液も含めて何とか嚥下してくれた。
「どうやら終わったようね。 そうそう…… 言い忘れたけど世界樹の露を口に含んだ際に余計な事を考えたりしなかったでしょうね?」
リ、リーフレットさん…… そう言う事は言い忘れたりしないで下さい。
「特にミレルを助けたいって必死に願ったくらいですけど……」
多分…… それくらいだと思う。
「それなら大丈夫かしら? この世界樹の露は人の願いを叶える力が働くのよ。 ミレルと言う彼女は大丈夫だといいわね」
えっ! 僕は慌ててミレルを振り返る。
見た感じ特に変わった様子は見られないけど、大丈夫だよね?
「リーフ、そんなに驚かすのは可哀想じゃろうて…… んっ? ま、まぁ…… だ、大丈夫じゃ」
タイザンさんがリーフレットさんをたしなめながらも何か言いにくそうにしてるのが気になったけど、今はミレルの事が心配でならなかった。
「何よ、ダーリン? えっ、ええ…… 特に変わった様子は無さそうね。 彼女の顔色をご覧なさい。 血色が良くなって来ているわ」
リーフレットさんも何か変な感じだったけど彼女の言葉通りにミレルの顔色や呼吸も普段通りに戻って来ていた。
「本当にありがとうございます! お二人には伝え切れないくらい感謝の気持ちでいっぱいです」
僕は二人に向けて深々と頭を下げる。
でも何かがおかしい。
肩が重いって言うか…… 胸が重い?
頭を下げた僕の視線の先にある膨らみに気付いて驚きの声を上げる。
「む、胸がある! な、なんで? ちょっと待って…… ああっ! 逆にアレが無くなってる!」
股間に手を当てて確認すると、あるべきモノが存在していなかった。
女の子のフリをしてたからなの? 本当に女の子になってるんだけど!
ハッと思いミレルを慌てて見たけど彼女の胸は健在だった。
訳が分からずにリーフレットさんを見ると引き攣ったような笑顔を浮かべている。
タイザンさんも苦虫を噛み潰したような顔で僕を見ていた。
「これって…… 世界樹の露の力ですか? 僕が女の子になっちゃったんですけど!」
確かに百合騎士団に間違えて入団しちゃったから、仕方なく女の子のフリはしてたよ。
でも僕は男の子だ…… まぁ、男の娘だったかも知れないけどさ。
「何か余計な事を考えたんじゃないかしら…… だから余計な事は考えないようにって言った筈よね……」
ええ、確かに言ってましたね。
全てが終わった後にですけど。
僕が無言で見詰めていると視線を逸らすリーフレットさん。
どうやら罪の意識は感じてくれているらしい。
さっきまでピンと真っ直ぐに立っていた彼女の長い耳が少し垂れているのが、その証拠なのかも知れない。
「マ、マオ…… 大丈夫?」
僕を心配する声が聞こえて振り返ると、弱々しく目を開けて心配そうに僕を見上げるミレルの姿があった。
「ミ、ミレル…… 良かった。 このまま君を失うんじゃないかって怖かったんだ。 本当に良かったよ!」
彼女の前に跪きながら子供のように泣き出した僕の頭に手を伸ばし優しく撫ぜてくれるミレル。
「この人達のお陰なのね。 見ず知らずの私達を助けて下さり、本当にありがとうございました」
ミレルが二人を見てお礼を口にしているが、彼女はまだ僕に起きている事態を知らない。
結婚する約束をしてるって言うのに僕が女の子になっちゃって、一体どうしたらいいんだろう。
私生活で色々あって更新が遅れましたが、また少しずつ書き進めて行きます。




