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女騎士は男の娘  作者: 池田 真奈
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第25話 老人と少女

蹲って苦しむミレルを腕に抱きながら、ただ呆然とするだけの僕。

突然僕を攻撃して来たドロシーさんの真意は分からないけど毒まで用意したんだから最初から殺す気で探しに来たって事だと思う。


「マオ、逃げなさい……」


「嫌だ! ミレルを置いてなんて逃げられる筈ないじゃないか」


苦悶の表情を浮かべながら僕を逃がそうとするミレルの言葉を否定するかのように力強く抱き締めた。


「心配しなくても大丈夫です。 仲良く逝かせて差し上げますから」


ゆっくりと僕に歩み寄るドロシーさん。

その表情は氷のように冷たい印象を僕に与え、一歩一歩近付いて来る美しい死神に死を覚悟させられる。


仔細(しさい)は分からぬが道理の行かぬ所業なのは一目瞭然じゃな。 其方(そなた)、助かりたいか?」


急に掛けられた声にドロシーさんが歩みを止めて振り返る。

その視線の先に立っていたのは細身の老人。

頭もかなりの白髪混じりで、だいぶ高齢に思える。

腰に差した変わった感じの剣に手を添えながら僕達を見据えていた。


「ミレルが助からないのなら…… 僕は……」


一人で生きて行ける気がしない。

それならこのままミレルと一緒に……


「ふむ…… ならば助ける必要は無いな」


軽く溜め息を吐きながら呆れたような顔をして僕を見る老人。


「ダーリンったら…… 私は残される者の悲しさを誰よりも知っているから坊やの思いが良く分かるの。 こうなったらアレを使ってあげる」


老人の背後から長い金髪に紫色の綺麗な瞳を持つ可愛らしい少女が現れる。

その少女の耳が妙に長いのは僕の気のせいじゃないと思う。

しかもダーリンとか呼んでるけど、どう見ても孫娘だよ。

年の差婚過ぎじゃない?

そんな事よりミレルが助けられるって事? もしかしたら解毒剤とかを持ってるのかも……


「僕のミレルを助けて下さい! 幸せにするって約束したんです、お願いします」


ミレルが助かるなら何だってする。

僕は地面に頭を擦り付けるように頭を下げながら懇願していた。


「承知した。 ならば安心せい…… リーフの持っているアレを使えば、たとえ死人でも生き返るじゃろうて」


そう言うや否や老人が動く。

速いって言うより何をしたか分からない程の速度で剣を抜いて、多分…… 鞘に収めたんだと思う。

カチンって音が辺りに響いたと思うとドロシーさんが短剣を地面に落として右手を痛そうに抑えていた。


「クッ…… こんな邪魔が入るなんて…… アリエルお嬢様にはお会いにならない事です。 もしも会おうとするならば今度こそ命を貰います!」


手を振り上げたドロシーさんが何かを地面に叩きつけるように投げると周囲を覆い尽くす程の煙が彼女を中心に立ち込める。


「煙玉を使うなど小癪(こしゃく)な真似をしおって……」


このタイミングで襲われるんじゃないかとも思ったけど、それは僕の思い過ごしだった。

あの老人なら煙なんか関係無くドロシーさんが襲っても止められてしまうと判断し、逃げる事に専念したんだと思う。

煙が風に流された時にはドロシーさんの姿は跡形もなく消えていた。


「さぁ、命の灯火が消えてしまう前に彼女を救いましょう。 ふふふっ、彼女の口にそのまま垂らしてもつまらないわね。 あなたの舌を出しなさい。 そうしたら私が垂らす霊薬を口移しで彼女に与えるの。 でもあなたが飲んでしまったらダメよ。 彼女は死んでしまうから注意なさい」


僕はなんでそんな意地悪な事を言うんだろうと思って、その時は彼女を恨んだんけど…… ずっと後になってから僕の口に含ませるように仕向けてくれた彼女の真意を知る事になる。

その霊薬の名は「世界樹の露」と言う。

世界樹と言う大樹は、この世の始まりと共に生まれ、悠久の年月を生きているらしい。

そしてそれは千年に一滴だけ得る事が出来る貴重な物だと、後に二人から聞かされて僕は驚く。

本来なら人間が使ってはいけないくらいに、この世の断りから逸脱する程の力を持っている代物だったから、この行為が僕達二人の人生が変わる瞬間でもあったんだ。



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