第22話 残された者達
ウルスラ王国では先のアクバル帝国との侵攻に呼応したカーティス・ヴァレンタイン公爵の離反が引き金になり国を二つに割る内戦状態に突入していた。
アクバル帝国の支援を受けるヴァレンタイン公爵は公王を名乗り、ヴァレンタイン公国の建国を宣言したためだ。
これに対してウルスラ王国のアラン・グランディーヌ国王は更なる離反を恐れて王都グリムから迂闊に動く事も出来ずにいる。
勢いに乗るヴァレンタイン公国は自国に隣接する領主達を味方に引き入れながら、その勢力を拡大させており、ウルスラ王国は滅亡の危機に瀕していた。
「マリー、マオの消息が掴めたわ。 私達の思っていた通りに死んでなんかいなかった。 帝国の軍病院を抜け出して追われているみたいだけど、上手く逃げて行方をくらましているそうよ」
ウルスラ王国百合騎士団を率いるエレナ・バルデラ団長は親友でもあり、副団長を務めるマリアナ・オーガスタにそう告げる。
「そうか…… マオは生きていてくれたか。 良かった……」
ベッドに横たわるマリアナの瞳に大粒の涙が浮かび、そして溢れ落ちる。
先の戦いでの追撃戦の最中に単騎で突出し過ぎた彼女は敵の必死の反撃に遭い、深手を負っていたのだ。
血塗れになりながらも槍を振るい敵を蹴散らす、その鬼百合の騎士の名に恥じぬ戦いぶりは凄まじいもので帝国軍に大いに恐れられる事になった。
「だから元気を出しなさい。 きっとまた会えるから……」
マリアナはマオを助け出したい一心で敵陣深くまで突入し、火災と大爆発のあった食糧備蓄基地付近まで辿り着く事は出来たがマオを見つけられず失意のまま帰国の途についている。
そして今は魂の抜けた抜け殻のようになっていた。
彼女にとってマオの存在がどれだけ大きかったかを物語っていたが、その事には親友としてマリアナを良く知っていた筈のエレナも驚いている。
「マオ…… 今は何処にいるのかしら。 自分が救国の聖女扱いされているなんて知ったら驚くでしょうね」
エレナの呟きにマリアナがクスリと笑う。
彼女の笑みを見たのは久方ぶりになる。
それを見てホッとしたエレナは百合騎士団を率いる白百合の騎士と言う立場が如何に無力なのかを知り、落ち込んでいた自分も救われる気がしていた。
王都に残留していた百合騎士団内でも騒動が起きている。
娘のアリエルを百合騎士団に入れていたヴァレンタイン公王が、我が手に取り戻すべく部隊を派遣して来たのだ。
渡さなければ戦いも辞さないと言う脅しに残留部隊を率いていたアリサ隊長は仲間を売る事は出来ないと徹底抗戦の構えを見せたが、自分のために仲間が傷付き倒れるのを見兼ねたアリエルが自らの意思で百合騎士団を去って行った。
彼女と一緒にヴァレンタイン公国に呼応した貴族の縁者になる百合騎士団の騎士達も去って行った事で戦いは避けられたが、騎士団内に暗い影を残す事になっている。
「全くマオも困った人ね。 こんなにも周囲に影響を与えているんだから…… 帰って来たら許さないわよ。 心配をかけさせた分、頑張って貰わなきゃね」
「ふっ、それはマオも災難だな」
二人の親友は笑みを浮かべながら、ただマオの無事だけを祈っていた。
「何ですって! マオの消息が掴めたと言うのですか?」
百合騎士団を離れたアリエルの元にもたらされたのは夢にまで見た最愛のマオに関する情報だった。
エレナ達が掴んだよりも詳しい情報を知り得たのは帝国軍と通じるヴァレンタイン公国だからこそだろう。
「はい、アリエルお嬢様。 マオ様は帝都インシュランスを脱出してハイランド王国経由でウルスラ王国を目指しているようです。 ですが良いのですか? このままではマオ様が無事に帰国されても敵同士になってしまいますが……」
ドロシーの話を聞いて喜びに震えるアリエルだった。
それにドロシーの言う通り、マオがウルスラ王国に帰国すれば敵同士になってしまうが、結婚の約束をした間柄なのだから必ず自分の元へと来てくれると信じている。
「心配には及びませんの。 マオは私の元に戻って来ますわ…… そう約束したのですから」
マオに再会してこの身を力強く抱きしめて貰いたい、それだけが今のアリエルの望みだった。
「マオ…… 早く逢いに来て下さいませ。 私はここに居ますわ」
アリエルは窓辺に立ちアクバル帝国のある方向を眺めながら思いを言葉にする。
マオが生死不明だと聞いた際には気丈に振る舞っていたアリエルだったが、部屋で一人になってから号泣していたのをドロシーは知っている。
帝国からもたらされた情報でマオが男性だと言う事実をドロシーは知ってしまった。
アリエルとマオが恋人同士のような雰囲気になっていた事を疑問に思っていたドロシーも、それで漸く理解する。
マオが本当は男性でアリエルお嬢様は、それを知っていると言う事に…… そして二人が愛し合っているなら疑問は解決する。
「アリエルお嬢様に害を及ぼすならば排除しなくてはなりませんね……」
ドロシーは窓辺から外をながめているアリエルを見詰めながら、そう呟いていた。




