第18話 二人の手
「うわぁ、思っていた通りね…… 何で男の子なのにここまで可愛くなるのかしら。 流石のお姉さんもイラっと来ちゃうわ。 私が普段どれだけお化粧とか頑張ってると思うのよ!」
ええっ! いきなりそんな事を言われて怒られても意識してる訳でも無いし、そんなに可愛くなってるのかな……
チラッと横を見ると全身が写る大きな姿見の鏡があったので確認してみる。
「うっ…… 確かに本当の女の子みたい。 軽く化粧して貰ったから尚更かな」
既に服も店で購入して着替えているけど当然ながら女性用だ。
ミレルさんに言われてブラとショーツまで身に付けてさせられたけどブラの付け方なんて男の僕が分かる筈無いのにサラッと身に付けられた事にミレルさんも驚いていた。
何か体が憶えているって感じだったけど…… 以前の僕って何をしてたのかな?
女性だけで編成されているウルスラ王国百合騎士団に所属していたとか言われたし、もしかして性別を偽って入団してたりして…… まさかね。
「ミレルさん、お金とか全部払って貰って申し訳ありません」
ミレルさんにはずっと負んぶに抱っこな感じだから本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになっていた。
「ふふふっ、マオ君は気にしないで。 私だってある程度の貯金くらいあるのよ」
僕は男前なミレルさんに惹かれ始めている自分に気付く。
やがて訪れる別れを考えると胸が痛む。
「さぁ、それじゃあ行きましょう。 今から君は私の妹のマリーよ。 二人は旅商人の姉妹になるの。 そうそう、私はエリーを名乗るから宜しくね」
本当にミレルさんは明るく、そして強い。
どんな逆境の中でも楽しさを見出すタイプかな。
「はい、お姉ちゃん。 それはそうと何を売る商人になるの?」
そんな僕の問い掛けにニヤリとした笑みを浮かべるミレルさん。
「身体を売るのよ、マリーにも売って貰うから……」
信じられない話に耳を疑う僕。
「か、身体! 嘘でしょ? そんな事をミレルさんがするの?」
僕の反応が面白かったらしく、途端に吹き出すミレルさん。
「あはははっ、冗談に決まってるじゃない。 針を売って歩くの。 かさばらないし荷物にならないでしょう? 帝都ならお店ですぐに手に入る物だけど、地方では貴重よ。 必要な物だし売れると思うから旅先でのちょっとした路銀稼ぎにもなると思うわ」
よ、良かった…… 自分がするのも嫌だけど、ミレルさんがするのはもっと嫌だよ。
「酷いです、お姉ちゃん……」
でもマリーって名前に何か引っ掛かるものを感じていた。
もしかしたら僕の知り合いにでもいるのかも…… そんな気がする。
「従騎士だって聞いたし、マリーは剣は使える筈よね? 護身用に武器も用意しなければならないの。 当然だけど私も軍で訓練を受けているからそれなりに使えるけど……」
ミレルさんが君は本当に従騎士なの?って言う疑いの眼差しを向けている。
僕も自分で信じられないしね。
それは手の平を見れば、すぐに分かる事だ。
剣を握っていれば手にタコが出来る筈なのに、僕の手は綺麗過ぎる。
満足に剣の稽古をしていない証拠だ。
「多分、満足に扱えないと思います。 本当に僕は従騎士だったんでしょうか?」
自分の手の平を見詰めながら答えた僕の傍に来たミレルさんが、僕の手をそっと握る。
「綺麗な手ね…… 血塗られた私とは違う手よ。 下手に剣なんか渡して怪我をされたら困るし、剣はお姉さんが持つわ。 まぁ、剣って言っても隠せるように小剣かしら。 マリーにはナイフくらいは持っておいて貰うけど…… 怪我なんかしないでね」
「は、はい…… 気を付けます」
もう完全に子供扱いなんですけど……
血塗られたって言う事は看護兵のミレルさんでも戦いの中で人を殺した事があるって意味だと察してしまう。
ゆっくりしている訳にもいかないから武具屋で小剣とナイフ、そして当面の商売道具になる縫い針を大量に仕入れた僕達は漸く旅支度を終えた。
背負い袋には保存食や着替えとかだけじゃなくって、寝袋も紐で結わえつけてあるから野宿も視野に入れている。
牽制し合っているハイランド王国とアクバル帝国の現在の状況を踏まえても、普通に国境を越えられるとは思っていないから人里離れた場所から越境する事になるだろう。
街道を外れればゴブリンとかの妖魔や魔獣に襲われる可能性もあるから危険な旅になる。
ミレルさんは僕を守るつもりみたいだけど、僕だって彼女を守りたい。
僕は自然と手にしたナイフを握り締めていた。




