第17話 ハイランド王国へ
僕がウルスラ王国の人間だったなんて……
アラン先生やミレルさんの敵じゃないか!
「マオ君! いつまでボーッとしてるのよ。 さっさと逃げるの。 そんなに悲しい顔なんかしないで! お姉さんが一緒に行ってあげるから」
な、何で? どうしてミレルさんは敵かも知れない僕を助けてくれるの?
「済まんな、ミレル。 マオを頼むぞ。 私はなるべく時間を稼いでおく」
アラン先生まで…… 僕は二人にどうやって報いればいいのか分からない。
僕は涙が止まらなかった。
「さぁ、こっちよ。 葉を隠すなら森の中って言うじゃない。 まずは帝都の人混みに紛れましょう。 どうするかはその後で考えるの!」
看護兵って言ってもミレルさんはやっぱり軍人なんだなって思い知らされた。
素早い判断力に、それを実行する行動力。
僕とは比べ物にならないや。
「アラン先生…… 今まで色々とありがとうございました。 このご恩は生涯忘れません」
深々と頭を下げてから僕は二人を見詰めた。
僕を逃したと知られたら二人は大丈夫なんだろうか。
「何を心配してるの、マオ。 大丈夫、アラン先生は私を人質に取られて仕方無くマオを逃したの。 さぁ、誘拐犯さん…… 早く行きましょう」
そう言う事か、それなら後で何とでも言い訳が出来るかも。
「元気でな、マオ。 無事を祈っているぞ」
アラン先生の優しさを僕は忘れない。
僕は貴方みたいな人になりたいって思う。
僕はミレルさんの肩を借りて歩き出す。
まずは帝都で旅支度をしなくちゃならない。
「帝国軍はマオが男性だって知ってるから変装しましょう。 それだけ可愛らしい顔をしてるんだから女の子のフリをすればバレないわ」
ええっ、僕が女装するの!
人通りの多い商店街のベンチに座りながら困惑している僕を見て楽しそうなミレルさん。
この人…… この状況を絶対に楽しんでると思う。
凄く優しいし明るくて良い人なんだけど僕を揶揄って楽しんでる感じがするんだよなぁ。
でもミレルさんは何処まで僕と一緒にいてくれるんだろう。
まさかウルスラ王国まで一緒に来てくれる訳じゃないと思うけど。
「あの…… ミレルさんは何で僕を助けてくれるんですか? 僕が帝国軍を大敗に導いた人間かも知れないのに……」
ミレルさんの仲間だって、あの戦いで亡くなったかも知れないんだ。
「そうね…… 私には弟がいたの。 でも南部戦線に送られて初陣で戦死しちゃった。 遺体も返って来なくて届いたのは空の骨壷だけだったわ。 だからかな、マオ君を見てると放ってはおけないの」
弟さんも軍人だったんだ。
もしかしたらミレルさんは僕に弟さんを重ねているのかも知れない。
「ミレルさん、もし良かったら…… このまま僕とウルスラ王国に行きませんか? 辿り着いたとしても、どんな扱いを受けるか分からないけど、僕があなたを全力で守ります! もしもミレルさんが帝国軍に戻って反逆者扱いをされたら悔やんでも悔やみきれないもの」
そうだよ、僕と一緒に行けば良いんだ。
ミレルさんと一緒にいられるなら、きっと楽しいと思う。
「ふふっ、それってプロポーズかしら?」
えっ? プ、プロポーズ! 捉え方によったらそう聞こえなくも無いかも……
僕は急に恥ずかしくなって俯いてしまう。
「マオ君の故郷がウルスラ王国なように、私の故郷はアクバル帝国なの。 だから一緒には行けないわ。 でも怪我人のマオ君を一人には出来ないから一緒に行ける所までは行くつもりよ」
そうだよね…… ミレルさんにはミレルさんが今まで送って来た人生があるんだもん。
でもミレルさんが帝国軍にいる限り、また戦う事になるかも知れない。
それだけは避けたいよ。
「まずは西に向かいましょう。 まだ東はウルスラ王国との戦いの直後で危険だもの。 かなり遠回りになるけどハイランド王国経由でウルスラ王国に船で渡るのが一番安全よ」
確かに国境付近には、まだ両軍共に一部の部隊が残っているらしいから突破するのは危険が伴うよね。
ミレルさんが言うようにハイランド王国に入れれば追っ手の心配は無くなるか。
「ハイランド王国の何処にへ向かうんですか?」
ハイランド王国には貴族領と言う各貴族が治める領土があり、その中央に位置する王都カラミティに王様がいて各地を支配している体制になっている。
その王都カラミティは僕達がいる帝都インシュランスに引けを取らない大きな都だと言う。
「国境を接しているマイセン辺境伯領を経由して王都カラミティに向かい、そこから南下して海に向かいましょう。 海に面した領地を持つアンダーソン伯爵領からウルスラ王国へと向かう船が出ている筈よ」
向かいましょうって事は、アンダーソン伯爵領まではミレルさんも一緒に来てくれるって事だよね。
でも船に乗ったらお別れか…… もしかしたら二度と会えないかも知れない別れになる。
記憶の無い僕にはミレルさんとの別れは辛過ぎるよ。
本当に独りぼっちになっちゃうんだもん。
でも…… 僕は行かなきゃならない。 ウルスラ王国に行けば本当の事が分かると思うから。
「分かりました。 行きましょう、ミレルさん!」
ミレルさんに肩を借りて松葉杖をつきながら、ゆっくりと立ち上がる。
早くは歩けないけど、この一歩一歩がウルスラ王国へと続いているんだから。
僕はそう思いながら歩き続けるのだった。




