第15話 僕が失ったもの
「そろそろいいかな…… 辺りには誰もいないみたいだし」
辺りは静まり返り虫が鳴く声が聞こえている。
柵で囲まれた食糧備蓄基地の入口には警備の兵がいたみたいだけど、中に入ってしまえば見廻りの兵も来なかった。
僕が樽の上蓋をゆっくり押し上げてから横にズラすとボトボト、ゴロゴロと音を立てて転がる芋達。
辺りが静まり返ってるから一瞬ドキッとしたけど、それに気付いた者はいないみたい。
見上げれば夜空には星が煌めいていた。
ずっと座ってたから足が変な感じ。
それよりも…… オシッコだ!
既に我慢の限界だった。
「ハァ〜 き、気持ちいい…… ずっと我慢してたから開放感が癖になりそうなくらい」
俗に言う立ち小便って奴だけど…… 百合騎士団の仲間には見せられない姿だもん。
用を足した僕は樽の中から油壺や火打ち石、ボロ布や木の棒とか準備しておいた物を取り出す。
木の棒にボロ布を巻き付けると油を垂らしてから火打ち石で火を着ける。
松明を手にした僕は風上のテントの方から余っている油を撒いて火を放つ。
そして辺りは紅蓮の炎に包まれる。
夜半からの強い風に煽られて炎は勢いを増して行く。
「か、火事だ! 王国軍が火を放ったぞ!」
僕はお腹の底から大きな声を張り上げながら手にした松明を何かの小屋の中に放り込む。
「火事だと! 急いで火を消すんだ! 水だ! 水を持って来い!」
「あの勢いじゃ、もう無理だ! 畜生…… 何処から潜り込みやがった!」
「これじゃ…… お終いだ……」
辺りを見渡す見張りの兵士達。
そろそろ僕の出番だ。
慌てて駆け寄ると呆然としている兵士達に声を掛ける。
「この火事は敵の仕業ですか? この失態を上に知られたら極刑は免れないじゃないか。 もうダメだ…… 苦しみながら処刑されるくらいなら、僕は今ここで死のう…… 待てよ、早く逃げれば命だけは助かるかも……」
チラッと警備の兵士達を見る。
「そうだ…… 逃げちまうか……」
「俺だってこんな場所で死にたくねぇよ」
「だったら…… 他の奴らが来る前に遠くに逃げるしかねぇ!」
逃げ出した警護の兵士達も自分達に下される処置が軽いものじゃないのは分かってるから、その一部が逃げ出すと我先にと争うように逃げ始めて行く。
振り返ってみれば食糧備蓄基地は激しい炎に包まれていた。
「そろそろ僕も逃げなきゃ! 他の兵士に紛れて逃げ延びたら、一先ず何処かに隠れられる所を探さなきゃ……」
走りだそうとした瞬間、さっき僕が松明を投げ込んだ小屋が膨らんだように見えた気がした。
そして大爆発が起こる。
一体、あの小屋に何が入ってたんだ!
そして僕は爆風に吹き飛ばされて気を失ってしまう。
気を失う僕の脳裏に最後に浮かんだのはアリエルの悲しそうな顔だった。
目を開けると青空が広がっていた。
アレ? ここは何処だろう……
ガタゴトと言う音と振動からすると僕は寝かされたまま荷車に乗せられているみたい。
何気なく目の前に広がる青空を飛ぶ鳥に向けて手を伸ばすと激痛が走り顔を歪める。
「えっ、大丈夫ですか? アラン先生、この子の意識が戻ったみたいです!」
声のした方を見ると軍服を着た女性が僕を見下ろしている。
腕の腕章や帽子から看護兵だと思う。
「そうか…… ならば大丈夫だろう。 そのまま意識が戻らない患者を何人も見て来たからな。 君は運が良い。 もう三日も意識が無かったのだから」
そうか…… 三日間も意識を失ってたんだ……
何で僕は気を失ったんだろう? それにここは何処なんだ?
「申し訳ないのですが…… 僕は一体どうしたんでしょうか? 全く記憶に無いんです」
僕の言葉に一瞬悲しそうな顔を見せた薄い頭髪に白衣の初老の男性。
アランさんか…… 多分、お医者さんだよね……
「君は食糧備蓄基地の近くに倒れていたのを助けられたのよ。 ウルスラ王国軍の総攻撃を受ける前に運び込まれて来たんだけど自分の所属は分かるかしら?」
僕は戦争に参加していたの?
痛みに耐えながら身体を起こし自分が着ている服を見る。
これってアクバル帝国軍の制服だよね…… 軍服を着ているって事は帝国軍人だったんだ。
頭の片隅に残る第三兵団と言う言葉。
「アクバル帝国軍…… 第三兵団……」
「ふむ…… 確か第三兵団は食糧備蓄基地に任務で向かったと聞いたな。 そこで火災に巻き込まれたのか?」
「分かりません…… 何も憶えてないんです」
僕は一体誰なんだろう? 名前すら分からないよ。
「ねぇ、身に付けている物で何かあなたの事が分かる物は無いかしら? 軍服を脱いでみて」
看護兵の女性に言われて着ている軍服を脱ごうとしたんだけど身体中に激痛が走り脱ぐなんて出来なかった。
「ミレル! 無理をさせるんじゃない。 彼は記憶障害だけじゃなく、怪我も酷いんだぞ」
アラン先生に叱られてショボンとする看護兵のお姉さん。
どうやらミレルさんって言うらしい。
「帝都に着くまではまだ日数はある。 無理をせずに少しずつ思い出せば良いんだ。 君は怪我人なんだからな」
優しげな笑顔で僕を見るアラン先生のお陰で僕の不安が少しだけ薄れて行くのを感じていた。
アクバル帝国の帝都か…… 僕はそこで暮らしていたのかな?
名前すら思い出せない僕はどうしたらいいんだろう。
今回は何度も間違いや誤字だらけでごめんなさい。
既に何回目の修正なのかも分からなくなりました。。。




