第14話 賽は投げられた
僕の発案した作戦が思っていたよりも簡単に承認された事には驚かされた。
王国軍側にはそれくらい打つ手が無かったのかも知れない。
少しの量だと前線に据え置かれて使われてしまう恐れがあるため、大量の兵糧を使用する事になったから失敗した時には僕の責任は重いかも。
更に敵の間諜を恐れて、この作戦は一部の者にしか知らされない事に決まったらしいけど……
一大決戦を前にしてウルスラ王国軍が一枚岩では無いって事になるのかな。
それが僕の心の中で少し引っかかっていた。
「じゃあ、マオは帝国軍の制服を着て樽の中に隠れなさい。 ちゃんと制服の下には普段着を着ておくのよ。 任務に成功しても失敗しても逃げる際には安全が確認されるまでは帝国軍の格好をしておく事!」
エレナ団長が子供を諭すように色々と注意事項を口にする。
それをマリアナ副団長が泣き出しそうな顔をして僕の方を見詰めていた。
鬼百合の騎士って呼ばれて恐れられている女傑の筈なんだけど…… 僕の前ではちょっと違う感じかな。
「了解しました。 敵陣から火の手が大きく上がったら宜しくお願いします」
食糧備蓄場所に忍び込み火を放つ。
言うだけなら簡単なんだけどね…… この作戦を遂行するにあたり、樽の中には油壺や火打ち石、更にはボロ布なんかも入れておいた。
最悪を想定して水や食料も二日分は入れて貰ったけど…… 問題は用をたす時かな。
出来る事なら、したくなる前に事を終えたい。
樽の中は二重底になっていて僕は芋が入っている樽の上底の下に隠れる事になる。
樽の周囲には小さな覗き穴を開けて貰ったから、その穴から辺りの様子が伺い知れると言う訳だ。
暫くすると雄叫びにも似た声と地響きにも似た無数の軍靴や馬の蹄の音が辺りに響き渡る。
王国軍の陽動作戦が開始されたんだと思う。
荷車に載せられた僕の入った樽の穴からは砂煙が舞う戦場を駆る騎士団の姿がチラチラと見えていた。
左翼の一団が遠距離から攻撃を仕掛けて注意を引き、敵の目がそちらに向いている内にカーソン砦に人員と物資を運び入れる作戦だと敵に思わせられれば第一段階はクリアだ。
「えっ! マリアナ副団長?」
樽の穴から見えたのは僕の入った樽を積んだ荷車の横を馬に乗って並走するマリアナ副団長だった。
百合騎士団は後方待機の筈なのに…… そろそろカーソン砦を包囲する帝国軍と戦闘状態に突入する頃だよ。
早く退がってマリアナ副団長!
カーソン砦に向けて前進していた荷車の動きがピタリと止まり、金属同士が当たる激しい音が聞こえて来る。
コッチでも戦いが始まったみたい。
砦を囲んでいる帝国軍が一万だと言っても輪になっているから、此方を迎え討つ事が出来るのは千人にも満たない。
それを知っている帝国軍の右翼の軍が慌てて僕達の突出した一団の横を突くために動き出す。
「マオ! 無事を祈っているぞ!」
マリアナ副団長の声が聞こえて来た。
どうやら予定通りに撤退に入るらしい。
カーソン砦には作戦内容は伝えられなかったから、この事態を受けてガッカリされちゃうだろうけど見殺しにはしないって言う事は伝わっているとは思う。
合流するために砦から打って出られたら作戦は失敗しちゃうから、かなり砦より離れた場所で諦めている筈だ。
味方が遠ざかって行くから少しの間だけ辺りが静かになったけど、その代わりに敵がやって来る音が聞こえる。
馬の嘶きが遠いって事は敵の兵団かな。
鬨の声と共に勝利の歓声が辺りに響き渡る。
「王国軍め、慌てて食糧を置いて逃げるとは馬鹿な奴らだぜ」
「何だよ、芋や乾物とか保存が効く物ばかりだな。 肉や魚が食いてえのによ」
「生きている奴はとどめを刺しておけ! 捕虜なんて邪魔なだけだからな」
帝国軍がすぐ近くに居る…… 樽の中身も確認してるみたい。
バレないと思うけど、やっぱり怖いよ。
どうやら僕の考えた作戦で味方に戦死者も出ているんだから…… 僕が怖いだなんて言ったらダメだ。
「保存が効く芋とかなら第三兵団で後方の食糧備蓄基地へ運んでおけ! 第ニ兵団は周囲の警戒と生き残りがいないかの確認だ!」
何か怖いくらいに上手く事が運んでる。
そして暫くするとガタガタと荷車が動き出す。
このまま食糧備蓄基地とかに運び込んで貰えれば作戦は最終段階に入る。
まだ日が高いから僕は暫く樽の中にいる事になるけど、運ばれる場所があんまり遠くない事を祈っていた。
僕が動き出すのは深夜から朝方にかけてになるし、僕が兵糧を燃やした大きな炎を合図に全軍の攻撃が始まる手筈だ。
遠い場合は炎が見えないかも知れない。
毎日三度取る食材だし保管場所はあまり遠い場所じゃないだろうと僕は読んでいる。
「どうしたんだよ、この大量の荷車は?」
「王国軍から奪ってやった食糧だよ。 まぁ、中身は芋とか乾物だから奥にでも運んでおくぞ」
どうやら辿り着いたらしい。
このまま荷車ごと並べておくみたい。
方向転換しながら動いていたかと思えば、ガツンと言う衝撃の後、その動きは止まる。
暫くの間、他の荷車も並べられている音が聞こえていたが、やがて静寂が訪れる。
樽の穴から辺りを見回してみたけど人の気配は感じられない。
ホッとしたらお腹が空いて来ちゃったよ。
僕は手探りで革袋を探り当て中から干し肉を取り出して齧り始める。
このまま夜になるのを待つだけか…… 少し寝ておきたいけど、起きられなくなったら元も子もない。
ウルスラ王国の未来が僕にかかってると言っても過言じゃないんだ。
僕を信じて待ってくれているアリエルやミオのためにも絶対にやり遂げなきゃ!




