第13話 僕がやるしかない!
アクバル帝国との国境に近いウルスラ王国のカーソン砦を望む高台に僕達は布陣していた。
幾重にも囲まれて蟻の這い出る隙間も無いのが見て分かる。
昼夜も問わず攻めかかる帝国軍の攻撃に千人にも満たないカーソン砦の兵士達は持ち堪えているみたいだけど、それも時間の問題だと思う。
ずっと援軍の到着だけを信じて戦っていた筈だ。
「カーソン砦を囲んでいる帝国軍が一万としても残り九万。 こちらは六万だから正面から戦うとすれば少々厳しいかも知れないが、エレナはどう思う?」
「そうね…… 少々って感じじゃないかも。 向こうが先にラステル平原に陣を張って待ち構えている時点で何か企んでいるのは間違い無いわ」
眼下に広がる平原を見降ろしながらエレナ団長とマリアナ副団長が話している少し後ろに控えていた僕も十万の大軍を見て唖然としていた。
行軍の際には先陣を切って進んでいた百合騎士団も、布陣する際には後方へと配置されている。
そして僕達はエレナ団長に連れられて敵の布陣状態を確認しに来たのだった。
「マオはどう思う? 遠慮せず思った事を言ってみて」
ぼ、僕の考えを? 的外れじゃなきゃいいんだけど。
「そうですね…… エレナ団長の言う通り、敵が何かを企んでいるのは間違いないでしょう。 でもこのまま手をこまねいていればカーソン砦は数日で陥落してしまいます。 このまま軍を動かさず砦を見捨てたとなれば味方の士気は大きく下がりますし、砦を囲んでいる一万の兵も本体に合流するので決戦になった際には更に厳しくなるのは間違いありません」
こんなのは誰でも思い付くと思うけど…… 言うのも恥ずかしいよ。
「流石はマオだ! 私には思いもしなかった事を思い付くのだからな」
ええっ! マリアナ副団長…… やっぱり脳筋タイプですね。
「それなら何か打開策はあるかしら?」
更に聞くの? 参ったな……
「敵は此方より大軍ですから食事の量だって一日に30万食分は必要になります。 帝国軍の兵糧を焼き払うなり奪うなり出来れば、これ以上の進軍出来なくなると思うのですが……」
エレナ団長が黙って頷く。
マリアナ副団長は関心して口を開けたまま、僕の話に驚いているみたい。
「でも保管場所が分からないとどうにもならないのと、ここが国境沿いだって事が一時凌ぎにしかならない要因です。 本国と補給線は繋がってますから待てば補給が届くんです…… あっ!」
待てよ…… それは此方も同じだよ。
敵だって王国軍の兵糧をどうにかしたいって思うよね。
「どうしたの、マオ? 何か良い案でも思い付いたのかしら?」
上手く行けば敵の食糧備蓄場所が分かるし、最低でも焼き払う事が出来ると思う。
でも…… その危険な任務を誰が遂行するかになるよね。
「敵にこちらの兵糧を奪わせるのです。 あの大軍なら幾らあったって困らないんだから欲しい筈です。 その兵糧に隠れて敵の食糧備蓄場所に運んで貰えれば場所は分かるし、その場所をピンポイントで攻めて奪い取る事も出来ます。 もしも逃げるのが難しそうなら火を放てば混乱に乗じて逃げ出せるし、敵の兵糧を消耗させられるんだから悪くはないと思います」
無駄な戦いを避けて早く終わらせるには一番の方法だと思う。
高台から見た感じ、どこか別の場所に保管しているように思える。
「面白い作戦だけど…… 誰が食糧に隠れて敵の陣地に忍び込むの? 失敗して見つかれば死は間違いないわよ」
それは言い出した僕に決まってる。
僕は百合騎士団で唯一の男なんだから、騎士を目指す者として女性を守る義務があるよ。
でも実は男の娘だなんて口が裂けても言えやしない。
「僕にやらせて下さい! 身体も小さいし軽いからバレ難いと思います。 それに失敗したとしても僕一人の犠牲で済むなら安い買い物だと思いませんか?」
エレナ団長が僕を見詰めている。
いつもみたいにニコニコ笑う可愛らしい雰囲気とは全く違う張り詰めた表情だ。
「分かったわ。 ハンク・マーロン将軍に作戦を進言して来るから…… マオは心の準備をしておいて」
「エ、エレナ! 本気か? 失敗すればマオが死ぬかも知れないんだぞ!」
マリアナ副団長が驚いている。
団員を家族みたいに大切にしているエレナ団長の非情な作戦決行が信じられないみたい。
「やらなきゃジリ貧になるだけよ。 ここで負けたら帝国軍は王都にまで雪崩れ込んで来るの。 そうしたら何万何千と言う住民が死ぬかも知れないわ。 残して来た仲間だって…… 戦争に負けたらどうなるかはマリーだって分かるでしょ?」
エレナ団長の言葉にマリアナ副団長も黙ってしまう。
そうだよ、戦争は非情だから信じられない事が起きる。
小さな子供が犯された後に殺されたって話も聞いた事がある。
人間は信じられない狂気に走る事がある。
だから王国軍に打つ手が無いなら、それを僕の手で止めたい。
民のために命を懸ける。
それが僕の思い描く騎士道だもん。
もしかしたら何か策を考えてあるのかも知れないし、まだ採用されるって決まった訳じゃない。
「既に覚悟は出来ています。 でもそれは死ぬ覚悟じゃありません。 死中に活を求める任務に挑む覚悟です」
エレナ団長が小さく頷くと本陣へと足早に去って行き、僕とマリアナ副団長が取り残される。
「マオ…… 君は既に私よりも立派な騎士だ。 君が男性だったら間違いなく私は君に恋い焦がれていただろう。 いや、今でもそうか…… 絶対に生きて帰って来てくれ…… お願いだ……」
僕が既に騎士…… お世辞でも嬉しく思う。
男なのは黙っておかなきゃならないけど、今でもそうって…… マリアナ副団長が僕に恋してるって事?
いきなりの告白にどうしていいのか分からない僕は微笑みながら黙って頷くのだった。




