第11話 二人を思えばこそ
「もう既に耳にしてると思うけどアクバル帝国が我がウルスラ王国に攻め込んで来たわ。 総勢10万の大軍よ。 対する我が軍は総勢6万、明らかに劣勢な感じだけど地の利はあるから勝負は分からないと言いたい所ね…… 正直言って厳しいのが実情かなぁ。 百合騎士団も後衛として出陣するように命を受けてるわ」
エレナ団長がウルスラ王国の将軍からの命令を告げる。
僕もエレナ団長と同じ予想を立てていた。
何処で迎え撃つかによっても変わって来ると思うけど、まともに正面から戦いを挑んでも勝ち目は無いと思う。
国王陛下や将軍が何を考えているかなんて僕には分かる筈も無いよ。
最初から負けるつもりで出陣する訳じゃないだろうから何かしらの策があるのかも知れない。
「私はてっきり西のハイランド王国に攻め込むんだと思っていたのに予想が外れちゃったわ」
ここ数年間は西方最大のハイランド王国と大陸中央に位置するアクバル帝国の間で何やらキナ臭い雰囲気になっていたから、そう考えても不思議は無い。
そう言う僕だってアクバル帝国とハイランド王国が戦う日は、そう遠くないって思ってたもん。
力が拮抗する両国が戦争に突入すれば勝ったとしても痛手は免れない。
だからこそ豊かなウルスラ王国を攻め滅ぼして国力を増した状態で勝負を挑むつもりかも。
そう考えれば全ての辻褄は合うかな。
「私が自ら百合騎士団を率いて決戦に向かうつもりよ。 マリーは悪いけどサポートを宜しくね。 今回の決戦で王都に残留して貰う者も必要になるわ。 その取り纏めはアリサに頼むから、私達にもしもの事があった時には百合騎士団をお願い」
「承知しました。 ですが…… 皆の無事の帰還を祈っています」
アリサ先輩も口惜しそうだ。
貴族は有事に際しては、その身を以って民を守らなくてはならない。
それが貴族が貴族たる所以でもある。
でも命じられたのは待機命令だもん。
「マオちゃん、ミオちゃん…… 従騎士になったばかりで戦場に出る事は無いわ。 アリエルちゃんと同じようにアリサの元にいなさい」
アリエルはアリサ先輩の従騎士だから王都残留組になるのか…… 本来なら僕とミオはエレナ団長とマリアナ副団長の従騎士だから、一緒に戦場に向かわなきゃならない。
それをしなくて良いってエレナ団長が言うくらいだから、それだけ厳しい戦いになるって考えているんだと思う。
でも僕は騎士になるために、この場所にいるんだもん…… 危険だから行かないなんて、それは僕の騎士道に反した考えだ。
「僕はエレナ団長の従騎士です。 一緒に行かせて下さい!」
「私だってマリアナ副団長の従騎士です! マオと考えている事は一緒です」
僕とミオはエレナ団長の前に進み出て戦場への同行を嘆願する。
「マオとミオさんが出陣して私が出陣しないなど考えられませんわ! エレナ団長、私も同行させて下さいませ」
アリエルも青い顔をして慌てて嘆願をする。
僕が戦場に向かう事で二人が離れてしまう事が嫌なんだと思う。
でも僕はアリエルには王都に残留して欲しい。
それはミオも同様だ。
大事な親友達を死なせたくは無いから。
正直な話、僕達はまだ満足な稽古だって積んでいないんだもん。
特にアリエルが戦えると僕は思っていない。
「エレナ団長、ミオとアリエルは残留組でお願いします。 彼女達の剣の腕前では実戦に出ても生き残れません。 代わりに僕が戦場に向かいます」
ミオの剣の腕前なら十分に戦えるかも知れない。
でも僕とミオだけが戦場に向かうのをアリエルが承知する訳が無い。
ミオも残るなら我慢して貰えるかも知れない。
「酷いわマオ…… 私が居たら足手まといだって言うの?」
「そう言ったつもりだったけど違うの? 今この場で証明しても良いよ……」
僕は腰の剣に手を掛け、睨みつける。
この場でミオとの決闘になる筈は無いって言うのが分かってのハッタリだ。
まともに戦って僕がミオに勝てる筈も無い。
「マ、マオ…… どうして? どうしちゃったのよ……」
ミオはかなりのショックを受けてるみたい。
親友だって思っていた僕から侮辱とも言える言葉を聞いたんだから。
後はアリエルだけど…… お願いだから僕の気持ちに気付いてよ。
黙って僕を見詰めていたアリエルが深く溜め息を吐く。
「仕方がありませんわね。 マオがそう言うなら私はミオさんと共に王都に残りますわ…… ですからマオ、手柄を立てて無事に帰ってらっしゃい!」
そして笑顔で僕の背中を押してくれた。
ありがとう、アリエル。
僕は行くよ…… 二人と違うのは僕は男の娘だって事だから。
「もう〜 勝手に決めないでよ。 仕方が無いわね。 マオなら構わないからしら? いいわ、君も一緒にいらっしゃい。 でも…… 死んでも知らないわよ」
エレナ団長が呆れながらも僕の願いを承知してくれた。
でも僕なら構わないとか、僕を君って呼んだりするのって言うのが気になって仕方が無いんだけど……
もしかして僕が男の娘だって気付いてたりして…… いやいや、だったら百合騎士団に置いてくれる筈は無いし。
きっと僕の思い過ごしだと思う。
「マ、マオ…… 戦場では私から離れたりせぬようにな。 マオの腕前なら大丈夫だとは思うが、もしもと言う事もある」
マリアナ副団長が僕の肩に手を添えながら言ってくれたけど…… その顔は赤い。
何か恥ずかしいのかな?
「マオには旗持ちを命じます。 百合騎士団の象徴でもある大切な旗を君に預けるわ。 しっかりとお願いね」
百合騎士団の紋章になる白百合が描かれた旗を僕が任されるなんて…… 大任を任されて身が引き締まる思いになる。
そんな僕をミオが悲しそうな顔をして見ていたなんて事に気付く筈も無かった。




