#035「自己愛心」
舞台は、中庭と空港。
登場人物は、朝丘、渡部、山崎、吉原の四人。
「渡部には、無意識に我慢する癖があるから、見直すべきだ」
「でも、感情に振り回されるのは、幼稚な証拠ではありませんか?」
「振り回されっぱなしなら、その通りだが、常に感情を制御していては、窮屈な思いをするだけだ」
「多少の窮屈な思いをするくらい、他人様に迷惑をかけるより、ずっと利口です」
「いつも利口でいると、疲れてしまうぞ。馬鹿になれ。たまには、喜怒哀楽を吐き出すべきだ。面白いなら、大口を開けて、腹を抱えるくらい笑えば良い。悲しいなら、恥や外聞を捨てて、涙が枯れるまで泣くべきだ」
「そうやってストレスを周囲に発散することで、発散した人はスッキリするでしょうけど、周囲の人は堪ったものではありませんよ」
「だからといって、胸に仕舞って溜め込んでるのは、不健康極まりない。慎ましやかで折り目正しいのも結構だが、内面を曝け出すことも必要だ」
「一度、曝け出したら、これまで築き上げた全てを失いそうで、怖いんです」
「一度や二度の感情の爆発で、失うような信用だとは思わない。もっと我が儘で分からず屋になれ。そうしないと、自分勝手な誰かに、良いように振り回されてしまう」
「朝丘さん。私は」
「もう、喋るな。喋ると、感情を言葉に置き換えてしまう」
「……あと半年。このまま一緒に居たかったです」
「自分も、そう思う」
「不条理ですね」
「そうだな」
「どうしましょう? 自分の感情に、嘘は吐けそうにありません」
「堰が決壊しそうなんだろう? 止めなくて良い。流してしまえ」
「三好さんに教わったレシピで作ってみたんです」
「この食感に、この味だ」
「よっぽど忠実に従ったんだな」
「再現度が高いね」
「何度か挑戦して、やっと納得の行く出来のドーナッツになりました」
「熱心だな、渡部は」
「試行錯誤しただけのことは、ある」
「研究者向きだね」
「そうかもしれませんね。――そろそろ、搭乗手続きをしないといけないのですが」
「おっと。乗り遅れたら大変だ」
「道中、気をつけるように」
「無理しないで、健康にも気を遣ってね」
「ありがとうございます」
「四人の友情は、永久保証付きだから、安心しろ」
「落ち着いたら、連絡をくれ」
「一足早い大学生活を、有意義に楽しんでね」
「それでは、今度は卒業式に会いましょう。行ってきます」
「「「行ってらっしゃい」」」




