#034「重大発表」
舞台は、寮の自室。
登場人物は、吉原、山崎、朝丘、渡部の四人。
「西暦と年度には、四半期のズレがあるからね」
「前にも同じことを話したような」
「自分は覚えがない」
「今年の三月以前の話だからね」
「そうだ。三月を、年の初めに統一すればいいんだ」
「唐突だな」
「でも、理に適ってるかもよ? それでいくと、閏年は年末調整になるし」
「春にスタートできる」
「新春、慶春、迎春、頌春。春に始まるなら、相応しいな」
「英語にも、暦が三月始まりだった頃の名残があるよね」
「ジャニュアリーのどこが、春らしいんだ?」
「違う、違う。九月以降のことを言ってるんだ」
「セプテンバー、オクトーバー、ノーベンバー、ディッセンバー。綴りは自信がない」
「それぞれ、第七から第十の月という意味なんだよ。最近は、幼稚園児や小学生でも知ってることなのに」
「自信がないと自信を持って言える時点で、手遅れだな」
「処置なし。時、既に遅し。――渡部だ。暗い顔をして、どうした?」
「森先生と話してたんだよね?」
「皆さんに、お知らせしなければいけないことがあります」
「沈痛な面持ちだな」
「真面目な話みたいだな。心して聴こう」
「大事な話みたいだね」
「十月から、シンガポールの大学に通うことになりました」
「十月って。もう、あと一ヶ月もないのにか?」
「急に話が進展したんだな。来年の四月の予定じゃなかったのか?」
「高校は、どうするの?」
「父が、今月の末から、しばらくのあいだシンガポールに滞在することになったので、留学予定を、当初より半年ほど前倒しにすることになりました。高校のほうは、授業には出ませんが、二、三学期の成績は、校長先生の特例処置で、これまでの八割でみなし評価されることになりました。卒業式には、一時帰国して出席します」
「渡部の成績なら、八掛けでも充分、卒業できるな」
「まぁ、決まったんなら、俺らが引き止められることではないけど」
「でも、寂しくなるね」
「私も、残り少ない高校生活を、皆さんと楽しみたかったところです。でも、チャンスの女神には、前髪しかありませんから」
「予想外に、女神の脚が早かったんだな」
「でも、掴まない手はないからな。俺たちのことなら、心配するな」
「三人で、何とかするよ」
「朝丘さん。山崎さん。吉原さん」
「……中庭に行こう、渡部。草花を見れば、気持ちが落ち着くものだ。――そういうことだから」
「おぅ。頼んだ」
「あとは、任せるね」
「ごめんなさい。感情に歯止めが効かなくて」
「それで良いんだ。渡部は、何でも頭で考えすぎる。外の新鮮な空気を吸って、一度空っぽにしよう」
「……さっきの話だけど、一つ、困る点があるね」
「たぶん、俺も吉原と同じことを考えてると思う」
「三月始まりだと」
「渡部が下級生になってしまうな」




