#033「追加機能」
舞台は、朝丘家。
登場人物は、朝丘、渡部、拓郎の三人。
「泣く子も黙ると言われる、彦根署の獅子と虎を手懐けたんだからな」
『そうなると、朝丘さんは、ライガーか、タイゴンですね』
「交雑の話か。生物で習ったな。たしか、雄の豹と雌の獅子だとレオポンで、雄の驢馬と雌の馬だと騾馬だったな」
『そして雌雄が逆にならば、前者はライアード、後者は駃騠です』
「逆にも、別の名称が付いてるんだな。そこまでは、知らなかった」
『話を戻しますね。朝丘さんのご両親が、どうされたのですか?』
「両親いわく、渡部は、躾の行き届いた、育ちの良い、礼儀をわきまえた、品行方正な好青年ということになってる」
『美辞麗句の宝石箱ですね。とても私のことだとは思えませんので、適度に否定して、人物像を修正してくださいよ、朝丘さん』
「父や母が褒め言葉を発する度に、笑いを堪えるので必死で、とても訂正できなかった。模範高校生が、他人の唇を奪うか?」
『窃盗罪ですね。世が世なら、死罪か入れ墨を免れないところです』
「時代劇の世界だな」
『盗難届けを出しますか?』
「出さないでおいてやる。感謝しろよ?」
『忝きお言葉に存じます』
「渋い武士を出すな。兎のシルエットが思い浮かぶだろうが」
『フフッ。――もうすぐ誕生日ですよね、朝丘さん』
「何で知ってるんだ? 親から訊いたのか?」
『違いますよ。カレンダーに書いてあったんです。九月九日は、重陽の日ですね』
「菊の節句ともいう」
『そして、乙女座ですね。愛実が知ったら、羨ましがること間違いなしです』
「何の因果か。妹は何座なんだ?」
『蠍座です。ちなみに姉は天秤座で、どちらも十月生まれです』
「あと、ひと月ほど早ければ、という思いは一緒だな。あぁ、そうだ。機先を制しておくが、縫いぐるみや寝間着を貰ったことでもあるから、これ以上、何も贈って来るんじゃないぞ」
『それなら、形に残る物は贈らないことにしますね。でも、ちょうど土曜日ですから、お菓子か何かを持参して、そちらに伺いたいと思うのですが、ご迷惑でしょうか?』
「親に伝えておく。迷惑どころか、大歓迎だろうな」
『朝丘さんは、嬉しくないのですか?』
「自分も、歓迎する。いちいち言わせるな」
『こういうことは、分かっていても、確かめたいものなのですよ』
「拓弥、夕飯だ」
「はい。――父と換わろうか?」
『お夕食が冷めるまで続きそうですから、遠慮しておきます』
「ハハハ。それじゃあ、また」
『今度は、学校でお話しましょう』




