#031「少女趣味」
舞台は、朝丘家。
登場人物は、渡部、朝丘、弥生、拓郎の四人。
「あとの果物は、傷まないように加工して、冷蔵庫に入れておきますね。話し込んでいては眠れないでしょうから、最後に、これをお渡しして帰ることにします」
「来たときから気になってたんだ。中を見て良いか?」
「どうぞ」
「綺麗に包装してあるもんだな。……これは?」
「拙者は、うさぎの縫いぐるみ。バニ左衛門である」
「見た目に反して、渋い声だな」
「バニ左衛門は寂しいと死んでしまうので、ときどき構ってあげてくださいね」
「いやいや。とても受け取れない」
「遠慮しなくて良いんですよ。――朝丘殿。どうかバニ左衛門を、お見捨て無きよう、お願い申す」
「平伏させるな。置いてやるから、面を上げぃ」
「良かったですね、バニ左衛門さん」
「だが、渡部。これ以上は、縫いぐるみを増やさないでくれ。家に一つ、寮に一つで充分だ」
「先に釘を刺されてしまいましたね。キー・ホルダー・サイズでも駄目ですか?」
「これ以上は、身の回りにメルヘン・チックなものを増やしたくない」
「ファンシー過剰ですか? それなら、免疫が付くまで、もう少し間隔を空けるべきですね」
「ワクチンと混同するなっ。エッホ、ゴッホ」
「大声を出すからですよ。いまは、何も考えずに寝ることが先決です」
「グスッ。……なぁ、渡部?」
「スポーツ・ドリンクと体温計なら、お盆の上ですよ」
「そうではない。よく、風邪は他人にうつすと早く治るっていうよな?」
「迷信ですよ」
「本当にそうかどうか、確かめてみないか? 今なら、この前みたいに他人の視線を気にしなくて済む。どうだ?」
「聞こえてたんですね。知りませんよ?」
「いざとなれば、渡部一人ぐらい、楽勝で倒せる。顳顬、顎、喉仏、乳様突起、人中、鳩尾。金的は勘弁してやろう」
「フフフ。ノック・アウトされないことを祈りますね。目を閉じて、肩の力を抜いて、楽にしていてくださいね。――おやすみなさい」
「何の、お構いも出来ないばかりか、拓弥の面倒まで看させてしまって」
「いえいえ。こちらこそ、突然お邪魔してしまって。お仕事でお疲れでしょうから、お帰りになる前に退散しようと思っていたところで」
「急いで帰ることはない。日頃、不良生徒を見慣れてるせいか、同い年の子供とは思えない。感心だよ」
「そんな、褒められるようなことではありません。友人として、当然のことをしたまでで」
「気難しい子でしょう? でも、仲良くしてあげてね」
「拓弥さんは、少しも気難しい人間では」
「器が大きいから、そういうことが言えるんだ。部下たちに、見習わせたいくらいだ」
「過大評価ですよ。そこまで立派な人間では」
「あっ、そうそう。台所廻りが綺麗に片付いてたんだけど、掃除してくれたの?」
「すみません。つい、余計なことをして」
「そういう意味で言ったんじゃない。気が利くと思ってのことだ」
「そうなんですか?」
「もちろんよ。忙しいものだから、ついつい、汚れたまま、散らかったままにしてしまいがちでね。助かったわ」
「お役に立てたのでしたら、光栄です。大変申し上げにくいのですが、家族が待ってますので、この辺で」
「それは、済まなかった。いつでも遊びに来なさい」
「ありがとうございます。それでは、失礼します」
「また、いらっしゃいね」




