#025「献燈籠祭」
舞台は、宝山寺。
登場人物は、朝丘、渡部の二人。
「化粧をすると、別人だな」
「浴衣ですから、凝ったメイク・アップはしてませんよ。簡単に下地を付けてあるだけです」
「素材が良いんだな」
「化ける、粧う、と書いて化粧ですよ。誰でも変わるものです」
「普段、化粧なんかしないから、あの二人に全て任せたが、ちょこまかと小一時間も、ファンデーションだの、コンシーラーだの、リキッドだので弄られるとは思わなかった。そこの手水場で、今すぐにでも、綺麗さっぱりと、洗い流したいくらいだ」
「冷水では落ちませんよ。ちゃんとメイク落としを使わないと」
「面倒だなぁ。それにしても、渡部。声も作ってるし、話題も女性向けだし、人形やアニメに留まらず、少女漫画やレディース雑誌にも詳しいし。本当に男子高校生か?」
「三人の女性に囲まれて育ちましたから。それに、編入時に確かめましたよね? 言っておきますけど、懐の膨らみは、タオルを詰めたものですからね」
「自分も、いかり肩を直すために首と肩に詰めてある。でも、それにしても、信じられない」
「信じられなくても、事実ですよ」
「信じたくない真実だな。あっ、スマート・フォンが鳴ってる」
「私も。――あれから、山崎さんのご両親は、無事に退院されたようですね」
「山崎のスマート・フォンは、十文字以上の言葉を送れないのだろうか?」
「『父母、帰宅。ひと安心』だけでは、事情を知らなければ、何のことか分かりませんね」
「電報ではないんだからな。――それにしても、市の無形文化遺産に登録されている割には、こじんまりとした祭だな」
「燈籠を先頭に、白いタスキをかけて、袴をはいて、黒帯をたらしてた少年たちが、山門から本堂まで念仏を唱えていく姿は、神秘に満ちてますね」
「頭は菅笠をかぶってるが、足元は裸足だったな。痛くないのだろうか?」
「着目点が違いますね。素朴な祭だと思って、深く気にしてませんでした」
「革靴やスニーカーは駄目だとしても、せめて草履か地下足袋でも履けば良いのに」
「三百年の伝統も大事ですけど、怪我をしないか心配ですね」
「ガラスも、コンクリートも、アスファルトもなかった時代とは、大きく環境が変わってるんだから、そこらへんを考慮しないと」
「あらあら。そう、眉間に皺を寄せないでくださいよ。夜店も出てることですし、お祭りを楽しみましょう」
「そうだった。何から始める?」
「どこから回りましょうか。行きたいところは、ありますか?」
「どこでも良い。任せる」
「言葉とは裏腹に、目は涼やかに泳ぐ金魚に釘付けのようですけど?」
「渡部に嘘は吐けないな。実は、ここに来たときから、ずっと気になってたんだ」
「それでは、金魚すくいから始めましょうか。でも、私は不器用なので、ポイをすぐ破いてしまうんですよね」
「ピアノとバイオリンが弾ける人間を、不器用とは言わない」
「フフッ。でも、一匹も掬えないのは本当なんです」
「コツがあるんだ。この朝丘名人が、直々に伝授してやる」
「嬉しいですね。不肖の弟子を、よろしくご指導ください、師匠」




