#022「文月葉月」
舞台は、山崎家。
登場人物は、朝丘、渡部、吉原、山崎、聡司の五人。
「紛らわしい文面を送ってくるな。自分たちが、どれだけ心配したと思って」
「まぁ、まぁ、朝丘さん。落ち着いてください」
「語彙が貧困なのは、一朝一夕で直せるものではないよ」
「誤解させて悪かった」
「でも、足元に火が点いてるのは、事実なんだ」
「切羽詰った経緯があるのは、認める。だが、この書きかたはない」
「『助けて、死にそう』だけですからねぇ」
「この七文字だけで、両親の緊急入院することになった上に、十月まで敦史さんが戻ってこないから、お盆休みまでの一週間、繁忙期の店を手伝ってほしい、とは伝わらないよね」
「行間を読み解いてくれよ。必死だったんだ」
「必死さだけは、伝わったみたいだけどな」
「まったく。それで、何をすれば良いんだ?」
「お店の手伝いなんて、いままで経験したことがないから分からないよ」
「キャベツを刻みましょうか?」
「あぁ、いや。調理場は、俺と聡司が入る」
「三人には、注文取りと洗い場を任せたいんだ」
「注文取りは、注文を聞いて、二人に伝えれば良いのか?」
「洗い場は、使い終わった食器を洗えば良いの?」
「飲み物の提供や、レジ業務も必要そうですけど?」
「そうだなぁ。ビールやジュースを注いだり、勘定を精算するのは、注文取りと一緒だな」
「それから、洗い物は調理場からも出る」
「そうすると、注文取りは業務が多いから、二人居たほうが良さそうだな」
「なるべく、見ず知らずの人と話さずに済むほうが良いんだけど」
「手が荒れると困りますから、長時間、洗剤に触れるのは、できれば、避けたいところです」
「それなら、こうしよう。朝丘と渡部が注文取りで、吉原が洗い場」
「それで良いか?」
「自分は、それで構わない」
「僕も」
「私も」
「よし。それじゃあ、暖簾を上げる前に、店の掃除から始めるぞ」
「モップと雑巾は、こっちだ」




