#021「天衣無縫」
舞台は、図書室とクイズ会場。
登場人物は、真鍋、渡部、朝丘の三人。
「募集要項ですね」
「そう。夏休みの思い出作りに参加したらどうかしら、と思って」
「毎年、本選の模様を、テレビで放送していますね」
「知識だけじゃなくて、体力や、運次第のところもあるから、先が読めなくて面白いの」
「二人一組で、同じ学校から何組エントリーしても良いんですね」
「そうなの。どうかしら?」
「三人に訊いてみます。この冊子は、お借りしてもよろしいでしょうか?」
「どうぞ。何部か作ってあるから、返さなくて結構よ」
「まさか、ここまで勝ち残るとは思わなかった」
「緒戦で敗れた山崎さんと吉原さんの無念を晴らすためにも、一緒に頑張りましょうね」
「試験が終わった解放感で、軽い気持ちで参加したが、とんだ重責を負うことになったな」
「万全の準備をして来ましたし、朝丘さんは頭が切れますから、実力を発揮すれば良いんですよ」
「簡単に言うなよ」
「難しいことではないですよ。さぁ、問題に集中しましょう」
「いよいよ、追い込まれたな」
「先に間違えたほうが負けですからね」
「答えは、分かるか?」
「おそらく、ですけど。……これが正解だと思います」
「あぁ、それだ。今日も渡部は、冴えてる、な」
「朝丘さん? 朝丘さんっ。聞こえてますか? 返事をしてくださいっ」
「何で、あんな真似をしたんだ。自分のことなんか、放っておいてくれて良かったのに」
「良くないですよ。熱中症で倒れた人間を見捨てる人間が、どこにあります?」
「だけど、渡部。あのまま答え続けてたら、勝てたかもしれないんだぞ? 自分が意識を失う直前に書いてた答えだって、あれで正解だったみたいだし」
「そんな他人を踏み台にするような勝ちかたをするくらいなら、助けて負けたほうがマシです」
「渡部は、勝ち残りたくなかったのか?」
「朝丘さん。私は、クイズに勝つために参加した訳ではありません」
「それじゃあ何のために、わざわざ特訓までして臨んだんだ?」
「高校生活最後の夏休みに、楽しい思い出を作りたかったんです。朝丘さんは、楽しくありませんでしたか?」
「結果には不満が残るが、……面白かった」
「そうでしょう? 結果は二の次として、楽しい時間を過ごせたのなら、それで良いではありませんか」
「底抜けの、お人好しだな」
「どういたしまして」




