#019「対面長匙」
舞台は、食堂。
登場人物は、三好、山崎、朝丘、渡部、吉原の五人。
「そう。ここ最近、山崎くんは吉原くんと、朝丘くんは渡部くんと、それぞれ別行動してるのには、そういう理由があったのね」
「そうなんだ。吉原は、渡部を卑怯者呼ばわりするだけで、話し合おうとしないんだ。まぁ、殻に閉じこもってしまったって感じだな。教室でプリントをうしろに回してるときでも、吉原は自分の分だけ取って、俺に突き返すし」
「極力、目を合わせたり、手を触れたりしないようにしてるよな。渡部も、自分が吉原のことを言おうとすると、話を逸らしてしまう。原因の一端が自分にあるから、あまり強く言えないし」
「それで二人は、吉原くんと渡部くんを仲直りさせたいと思ってるのね?」
「もちろん。でも、どうしたら良いか分からなくて、もう、お手上げ状態なんだ」
「何か、良い知恵を授けてくれると、非常に助かる」
「そうねぇ。すぐには無理だけど、打つ手が無い訳ではないわ。金曜日に、二人を同じ時間に連れて来てくれるかしら?」
「渡部くんは、こっちのスプーンを使って食べてちょうだい」
「ずいぶんと柄の長いスプーンですね」
「辺野古さんに作ってもらったの。竹で出来てるから、簡単に折れたりしないわ。それに、実は、もう一本あるのよ」
「なるほど。そう来ましたか。もう片方の持ち主は、吉原さんですね?」
「あら。察しの良いこと。やっぱり渡部くんは、この話を知ってたわね」
「有名な話ですから」
「横風な口をきくようだけど、きっかけを作ってあげたんだから、仲直りしなさいよ」
「あれから一週間以上経ってますからね。最善を尽くします」
「向かいの席に失礼しますね。吉原さん。こういう話を知っていますか?」
「食事中だよ。話し掛けないで」
「食べづらくないですか?」
「渡部くんには、関係のないことだよ」
「それなら、勝手に話しますね。生前に罪を犯した人間は、地獄に堕ちるとされていますが、その地獄の食卓は大人数で囲う円卓で、食事は、その円卓の中央に置かれているそうです」
「料理を不味くさせる気なら、どこかへ行ってよ」
「違います。続きを聞いてください。食事には、とっても細長い箸を使わなければならないのですが、食べ物を掴んで手元に引き寄せようとしても、ボロボロと零れ落ちてしまい、満足に食べることが出来ないので、罪人たちは常に空腹感に支配されています」
「渡部くんが席を動かないなら、僕が席を外すよ」
「待ってください。話は、ここからです。生前に善行を積んだ人間は、極楽に行けるとされていますが、その極楽の食卓もまた、大人数で囲う円卓で、食事も、その円卓の中央に置かれているそうです」
「でも、地獄と違って、手頃な長さの箸を持ってるんじゃないの?」
「違いますよ。極楽の食事にも、地獄と同じように、とっても細長い箸を使わなければならないのですが、善人たちは空腹感に支配されることなく、満足に食事を摂ることができています。その理由が、これです」
「ちょっと、僕のカレー、えっ?」
「自分のことばかり考えているうちは、不便は解消されませんよ。はい、どうぞ」




