#018「冷戦状態」
舞台は、相談室。
登場人物は、森、朝丘、吉原、渡部、山崎の五人。
「ここまでの話をまとめるわ。まず、朝丘くんは、自分の身体上の性別が女性であることを、渡部くんにだけは早くから知られていて、吉原くんが好意を抱いていることは知らなかった。間違いないわね?」
「その通り」
「吉原くんは、朝丘くんが異性であることを知らずに恋心を抱いていて、そのことについて、渡部くんには相談していた。そういうことよね?」
「そうです」
「渡部くんは、朝丘くんが身体上、女性であることに早くから気付いていて、吉原くんがそのことを知らずに惚れていることを承知の上で相談に乗り、説明する機会を窺っていた。そうよね?」
「はい。おっしゃる通りです」
「山崎くんは、朝丘くんが異性であることも、渡部くんがそのことを知ってることも、吉原くんが朝丘くんのことが好きだということも、何も知らなかった。合ってるわね?」
「合ってる」
「担任としては、四人で、これまで通り仲良くして欲しいところなんだけど」
「身体が女であることを隠していて済まなかった。でも、こうするしかなかったんだ」
「朝丘くんに関しては、事情がよく分かったし、僕もホッとしてる。でも、渡部くんは許せない」
「デリケートな話ですから、頃合いを見計らっていたんです。こういう形になるとは、思ってもみませんでした。でも、失望ですね。吉原さんが、そんなに心の狭いかただとは、知りませんでした」
「仲良くしようぜ。これで、隠し事が無くなったんだからさぁ」
「吉原くん、渡部くん。もし、お互いの立場が逆だったら、どうかしら? 吉原くんは、渡部くんに相談された時点で、朝丘くんが女性だと教えたかしら? 渡部くんは、教えられなかったことに、腹を立てないでいられるかしら?」
「自分が渡部なら、その場で教えることはしない」
「分かってるなら、教えるべきだよ」
「教えられなかったことに事情があるなら、立腹することはないですね」
「俺が吉原なら、一発殴るまで気が済まないけどなぁ」
「相手が吉原くんじゃなくて山崎くんだったら、怪我人が出ていたところね。でも、そのほうが後腐れなくて良かったかもしれないわ」
「どうすれば、仲直りするんだ?」
「何かしたい訳じゃないし、何かして欲しい訳でもないよ」
「こぼしたミルクを見て泣いても、無駄ですから」
「また、新しく牛乳を注げば良いじゃないか」
「二人の関係を修繕するのは、予想外に骨の折れそうね。今日のところは、これ以上は進展しそうにないから、ここで切り上げることにして、時間を置いて、もう一度話し合うことにしましょう」




