#016「近畿圏内」
舞台は、車内。
登場人物は、渡部、朝丘の二人。
「お父さんが大阪万博の年で、お母さんが団塊ジュニア世代なんですね」
「そう。同じ高校の先輩と後輩。三年でラグビー部の副将をしてた父に、入学したての母が一目惚れしたんだと」
「学園ドラマみたいですね」
「そんな甘酸っぱいものではなくて、父いわく、母のアプローチは、刑事が犯人を追い詰めるようだったそうだ」
「でも、一緒に高校生活を送れるのは一年間だけですし、それから朝丘さんが生まれるまで、十年以上の時間がありますよね?」
「卒業しても、二人の関係は終わらなかったんだ。まぁ半分以上は、母が執念で終わらせなかったみたいだがな」
「でも、その執着心が無ければ、いまの朝丘さんは存在しないわけですから」
「まぁな。それより、来週から始まる水泳の授業のことで、聞いておきたいことがある」
「私に訊くよりも、武藤先生に訊いたほうが良いような気がしますが?」
「直接訊くより、一度、渡部に相談したくて」
「ワン・クッション置きたい話なんですね。いいですよ」
「助かる。やっぱり、授業としては、必ず参加しないといけないものだろうか?」
「水着のことを懸念しているのですか? それなら、何とかなりますよ」
「何とかって?」
「セパレート型の水着があるんです。私も持ってますけど、上が半袖カット・ソーのような形で、下がハーフ・パンツのような形です。ひと回りか、ふた回りほど大きめのサイズなら、体型も誤魔化しが効くと思います」
「そうか。さすがに、ずっと見学する訳にはいかないと思ってたんだ」
「教官室に、貸し出し用の水着があると思うので、試着させてもらうと良いですよ」
「そうする。……なぁ、渡部」
「言い難いことでしょうから、私から提案しますね。一緒に教官室に行きましょうか?」
「頼んだ。どうも、一人では言い出せない気がしてならなくて」
「そばに控えておきますけど、頼りになりますかどうか」
「横にいるだけで、充分な安心材料だから」
「おやまぁ。ずいぶんと買いかぶられたものですね」
「そんなことない」
「フフフ。あっ、いけない。乗り換えないと」
「ハハッ。危うく、一緒に滋賀まで行くところだったな。またな、渡部」
「また、学校でお会いしましょう」




