#012「眉間縦皺」
舞台は、寮の自室。
登場人物は、山崎、朝丘、渡部、吉原の四人。
「朝丘が、俺が答える前に言うからだ」
「いいや、山崎が注意散漫なだけだ」
「何を言い争っているんですか?」
「喧嘩は良くないよ」
「聞いてくれよ。発表練習をしてたんだけどさ」
「山崎が全然、練習に集中しないんだ」
「傘を差さない理由についての調べ学習ですね」
「息が合わないみたいだね」
「矢継ぎ早に言ったって、聞いてるほうは右から左に筒抜けだっていうのに」
「あれは、間を空けすぎだ」
「ストップ。……水掛け論になるだけですから、実際の発表を聞かせてください」
「そうだね。僕たちが、第三者の視点で判定するよ」
「ハッキリさせようじゃないか」
「望むところだ」
「以上で発表を終わります」
「ご清聴、ありがとうございました」
「……三点ほど、改良点があります」
「僕も、気になるところがある」
「どこが駄目なんだ?」
「さっきよりは良くなったと思ったんだけどなぁ」
「一点目は、朝丘さんの切り出しかたです。前に立ったあと、すぐに話し出しましたけど、それでは唐突過ぎます。聞く側が話す側を視覚で確認する時間を与えずに、いきなり聴覚で訴えては、聞いていて、居心地悪く感じてしまいます」
「外見を観察する時間が欲しいよね。聞く姿勢が整ってないと、そこから先を聞くのが嫌になってしまうから、注意しようね」
「単刀直入に切り出せば良い、というものではないのか」
「どれくらい間を空ければ良いんだ?」
「右、左、奥と眺めながら、ゆっくり三秒ほど間を空けて話し出すと良いですよ」
「ラジオやテレビをつけたままで他のことをしているとき、音は聞こえているけれども、内容までは聞いてはいないよね? でも、突然三秒くらい音が途切れたら、『おやっ?』と思うでしょう? それと同じだよ」
「相手に注意を払わせるためにも、沈黙が必要なんだな。以後、気をつける」
「あとの二つは?」
「二点目は、山崎さんの視点です。内容を覚えていないからでしょうが、原稿を見過ぎです。ときどきは顔を上げて、聞く側とアイ・コンタクトを取りましょう」
「録音して、その音源を流すというのなら、それでも良いんだけど、リアル・タイムで対面してるわけだから、聞いてるかどうかの反応を窺わないとね」
「退屈そうなら説明を端折るとか、興味を惹いていそうなら突っ込んで話すとか、臨機応変に対応できるのが、発表の醍醐味だからな」
「記憶できるかなぁ」
「丸暗記する必要はありませんよ、山崎さん。大筋だけ理解しておいて、細かい数字やデータだけを手元で確認すれば良いのです」
「何を伝えたいか、要点をまとめておこうね」
「フローチャートを作るべきかもしれないな」
「フローチャートって何だったっけ?」
「主に四角と菱形と矢印を使って、作業工程を図式化したものです」
「情報の授業で習ったし、前に僕が説明したこともあるよ。ほら、こういう図」
「この楕円から楕円までのあいだを、矢印の通りに進んで行き、菱形のところで、行動を選択する。双六で譬えれば、楕円がフリダシとアガリで、四角は通過してもいいマスで、菱形は、必ず停まらなければならないマスだ」
「文字だけで見るより、格段に理解しやすいな」
「それから、三点目ですけど、言って良いでしょうか?」
「僕は、他に改善点が思い付かないんだけど」
「まだ、何かあるのか?」
「二つを変えるだけでも、充分に良い発表ができそうだけどなぁ」
「先の二点とは違って、できれば付け加えたいという程度のことなのです。マストではなく、ウォントですね」
「何だろう?」
「もったいつけずに教えてくれ、渡部」
「急かすなって言われたところだろう、朝丘」
「フフッ。焦らすつもりは無かったんですけどね。二人とも表情が硬い上に、内容も真面目すぎるので、緊張と威圧を感じるんです。それで、笑顔と雑談が欲しいと思いまして」
「特に朝丘くんは、切れ長で、少し三白眼だもんね」




