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#011「雨傘開花」

舞台は、教室。

登場人物は、吉原、渡部の二人。

「欧米では、日本みたいに、安価で良質な傘が手に入らないんだね」

「例外として、シドニーでは、色鮮やかな大型の傘が人気だそうですけど、諸外国では、傘は高級品ですからね。そもそも、雨が降ったら傘を差さねばならないという意識が希薄ですし」

「出勤前に天気予報を確認して、午後からの雨に備えて折り畳み傘を用意するのは、海外から見たら驚きなんだね」

「使用後は綺麗に巻いて畳みますし、几帳面で準備が良いと言えますね。ニューヨークやロンドンでは、黒い折り畳み傘が多く売られているのですが、粗悪品が多くて、綺麗に巻けないそうです。入手条件から関連して付け加えますが、バンコクでは、子供用の傘があまり売られていないそうです」

「何でなの?」

「バイクや車が多い上に、歩道がないところが多く、安全な公園で外遊びをする以外は車で移動しなければならないので、必要性がないからです」

「交通事情が違うんだね。歴史上の経緯からも調べてみたけど、折り畳んで持ち歩ける和傘の普及したのは、安土桃山時代からなんだね」

「傘自体は平安時代にはあったようですけど、貴族階級のものだったようで、庶民は菅笠と蓑を使っていたようですね」

「洋傘が広く普及するようになったのは、明治以降で間違い無さそうだね」

「いわゆる、蝙蝠傘ですね。欧米でも、傘は日傘として発祥し、雨傘としての使用は十八世紀頃からで、それまでは帽子とレインコートが主な雨対策だったようですね」

「それに加えて、男性が傘を使うと、女性や老人のように見られる傾向が根強くて、いまでも意識として残ってるみたいだね」

「それは次の、文化や習慣による違いとも関連してますね」

「日本では、獣の皮やゴム製のレインコートは、通気性が悪くて、長時間の着用に耐えないことから、防水コートを着る習慣がなかったり、傘がファッションの一部として認識されていたりするけど、欧米では、傘を差すより、コートやジャケットのフード、それからブーツで雨を防ぐのが習慣で、傘は実用性がメインみたいだね」

「眼鏡が濡れたり、髪のスタイリングや化粧が崩れたり、お洒落着が雨で染みたりするのを防ぎたいというのもありますね」

「話が逸れるけど、日本人に近眼が多いのは、明治期に英字用ノートにインク・ペンで漢字を書くようになったからだって説は、本当かなぁ?」

「検証するのは容易ではないでしょうけど、信憑性は高そうですね。仮名かローマ字に統一しようって動きがあったらしいですし。――あぁ、話を戻しますね」

「脱線させちゃったね」

「つい、横道に逸れて考え込んでしまいました。――欧米では、家の中で傘を差すと悪いことが起きる、という迷信があるそうです」

「それから、食生活で健康促進を図る日本とは違って、スポーツに励むことで健康を維持しようとする欧米では、アウトドアが盛んで、防水加工のジャケットを持っている人が多くて、雨の日はそれを着用するみたいだね」

「平熱が高く、細くて乾きやすい髪質で、風邪を引きにくい体質ですからね。他にも、こんな理由があるみたいです。フランスの小学校では、傘は尖っていて危険であり、他人を傷つける恐れがあるということから、学校で傘を使えないそうなんですが、このような子どもの頃の習慣から、大人になっても傘を差さず、レインコートなどで済ませてしまう人が多いようです。余談ですけど、傘以外にも日本とフランスとでは違いがあります。日本では児童だけで登下校しますが、フランスでは親が必ず子供を送り迎えしなければならなりません。事情があって迎えに行けない時は、ベビーシッターなど代わりの人に頼まなければなりません。小学校は基本、土日と水曜が休みの週四日制で、その分、一日の授業時間は日本より長くなっています。学校のテストでは、鉛筆が使えなくて、筆記具は黒か青のボールペンと決められています」

「ヨーロッパの人がボールペンを愛用するのは、そういう習慣があるからなんだね。これも、ちょっと論点が外れるけど、傘に関しての情報。フィリピンのマニラでは、激しい雨と日差しを同時に防ぐ必要があるから、晴雨兼用の傘が好まれるんだって」

「日傘に関しても、違いがありますよね。日本では紫外線対策として、日傘を差しますが、欧米では、サングラス、帽子、日焼け止めクリームで対策するのが一般です。色白を美とし、シミ、雀斑を気にする日本人とは違って、欧米人は、日焼けした肌を、バカンスを楽しんだ証として好意に受け止めます」

「休暇を楽しむという習慣が希薄なせいで、日焼けしてると仕事を怠けたと受け取られる日本とは、百八十度違うね。――わっ、何だ?」

「紙飛行機ですね」

「向こうから飛んできたようだね」

「朝丘さんの様子から察するに、飛ばしたのは山崎さんのようですね」


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