#010「紙飛行機」
舞台は、教室。
登場人物は、山崎、朝丘の二人。
「あらあら、あの子は、ずぶ濡れだ。柳の、根かたで、泣いている」
「山崎。プリントで紙飛行機を折るな」
「先生は居ないし、発表は来週なんだから、そんなに根を詰めなくたって良いじゃないか、朝丘」
「面倒なことは、先に済ませてしまいたい性質なんでね」
「性格が違うな。俺は、ギリギリまで手を付けないで、まとめて片付けるタイプなんだ」
「これなら、吉原か渡部と組みたかった」
「早々に見切りを付けないでくれよ。グーとパーで尋常に勝負した結果なんだからさ」
「そう思うなら、少しは協力しろ」
「カリカリするなよ。――傘を差さない理由ねぇ。出掛けるときに晴れていたから、持っていない」
「片手が塞がるから、持ちたくない。持っているが、壊れている。濡れても、一向に気にならない。格好をつけたい」
「あるいは、差したら負けという心理。置き忘れをしやすいから、荷物を増やしたくなくて持ち歩いていない。そもそも、差したり持ち歩いたりするのが面倒臭い」
「二人以上の場合、会話の妨げになる。個人の性格に由来するのは、これくらいだろうと思う」
「短時間で、ここまで、よくまとめられるものだなぁ。感心、感心」
「何様のつもりだ」
「ちょっ、やっ。叩くなって。俺も、ちゃんとやるから」
「それなら、この資料をまとめてくれ。気候や地理上の条件から、日本と諸外国との事情の違いを調べたものだ」
「付箋だらけだな。まぁ、これは、時間があるときにまとめて、ぐっ」
「今すぐ、取りかかれ。この、怠け者」
「ギブ、ギブ、ギブ。はぁ。窒息させる気かっ」
「目が覚めただろう。さっさと筆箱とノートを出せ」
「容赦ないんだな。えぇっと。グアムは、気温が高く、常に風が吹いている。通り雨が多くて、傘を差してもずぶ濡れになるが、すぐに乾く。ロンドンは、雨が多いが、降り続けない。軒が長く出ている店が多く、その下を歩けば濡れないし、風が強いので、下手に傘を差すと壊れてしまう。パリは、天候が変わりやすくて、雨が降っても、しばらくすれば止んでしまう。シドニーは、温暖で、湿度が低い。横殴りの通り雨が多く、傘を差しても無駄になる」
「まだ、あるぞ。シンガポールは、都市部では地下道が発達していて、酷暑の屋外にでなくて済む。ニュージーランドは、中心部では屋根付き歩道が多く、濡れずに移動できる。エジプトは、国土全域が砂漠だから、一年を通じて雨が降ることがほとんどない。だから、傘は日傘として使われるもので、雨をしのぐものではないとされていて、国営放送の天気予報でも、雨傘の概念がないことから、傘マークではなく、雲のマークが使われてた」
「ペースが速いな」
「いいから、手を動かせ」
「はいはい。アメリカは、車社会のため、外を歩く時間が短く、傘を持ち歩かない。国土のおよそ半分は雨が少なく、乾燥している地域であり、その中で雨は、気温を下げて植物を育ててくれる恵みのため、雨が好きで傘をささない人が多い。これに対して日本は、長雨で、湿度が高く、衣服が自然に乾かない上に、地下道にでも入らない限り、濡れずに歩けない。――これで満足か?」
「やれば出来るじゃないか。最後の一言が余計だがな」
「ピッチピッチ、チャップチャップ、ラン、ラン、ランっと」
「飛ばすな」




